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『銀狼の飼い猫』掌編  作者: 厚狭川五和
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[エルact1]飼われているから

 最近、何かが足りないと感じてしまう。

 エルには何かが足りない。

 力とか能力とか、そういうのはご主人であるファングが補ってくれるから気にしなくてもいい。

 そう、足りないのはもっと別にある。

 ちょっとした散歩のつもりで街を歩いていた時に見かけた装飾品を販売している店でエルは立ち止まる。

 輝いている宝石でも、腕や首に巻き付ける貴金属でもなく彼女が見ていたのは一見すると地味な革の装飾品。

 一人の客がそれを手に取ると少し悩んだ表情をしていたが購入を決めたらしく店員に渡す。

 あれだ、あれが足りないのだ。

 エルは店から出てきた女にすぐさま声をかける。

「すいません、お姉さん」

「あら、可愛い猫ちゃんね。どうしたの?」

 ご主人以外に猫と呼ばれることには慣れない。

 何故ならエルをペットとして扱うのはファングだけであり、他の人間は基本的に人間として扱うからだ。

 でも見た目的には仕方ないのかもしれない。

「なに買ったの?」

「ああ、これかしら? これはチョーカーって言う首飾りの一種よ。金属や宝石が大部分を占めてる装飾品を付けると目立ちすぎるから控えめなのを買ったの」

 エルは差し出されたものを鼻を近づけて確認する。

 金属が少なめで大部分は革でできているから地味なイメージを受けやすいが、少しだけ装飾はされているらしい。

「首輪じゃないのよ?」

「え…………ちがうの?」

「あくまで装飾品よ。首輪って言ったら基本的に金属で重いものでしょう?」

 そうだ、この世界に首輪なんて概念は奴隷でしかない。

 ラプトに来てからはほとんど見かけなかったから忘れていたが実際にエルは雇われた場所でたくさんの奴隷を見ている。

 重い首輪にボロボロの服。足にまで枷をされていたのを忘れてはいない。

 じゃあね、と女が離れていったあとエルはしばらく考えて動かなかったが店に入ると色違いの同じものを手に取った。

「うん。首輪じゃなくていい。同じに見えれば……」

「なにしてんだ?」

「にゃっ!?」

 想定外のミスだった。

 いつもは魔物を狩りに行くと言えば夕方帰りだったから森にいると思っていたファングが店にいるエルの姿を見つけて入ってきてしまったのだ。

「なんか欲しいもんでもあるのか?」

「にゃ……その…………」

「遠慮なんかしなくていいぞ。エルだって女の子だしお洒落の一つでもしたくなったんだろ?」

 実際にはちがう。

 でも、ファングがそのように見てくれていると考えるだけで十分なほど満足してしまった。

 驚かせる必要も自分で手に入れる必要もない。

 何故なら今エルはファングのペットだから。

「これ」

「あん? 首輪なんて買ってどうすんだよ。まあいいや、買ってくるから待ってろ」

 エルは心の中で笑ってしまいそうになった。

 ファングがお洒落に興味なんてあるわけがないとは思っていたが自分と同じように首輪と認識したのだ。

 自分が飼い主に似たのか、飼い主が自分に似たのか分からないけど、同じであることに幸福を感じる。

 そしてファングは()()を購入して裸の状態で持ってきた。

「どうせ付けるだろ?」

 小さいことでも親切にしてくれるファングは飼い主として認められる存在だ。

 故にエルは小さな声でお願いした。

「ご主人、着けて」

「なんで俺が?」

「エル、ご主人のペットだから。ご主人から首輪もらう」

 最初は呆れたような、哀れむような目を向けられていたエルだが、溜め息を吐いたファングはしゃがむと購入したばかりの首輪をエルに着けた。

「これでいいのか?」

「うん。ご主人のペットなれた」

「何言ってんだよ。こんなもの無くてもエルは俺のペットだろ」

 あるだけでちがう。

 ファングにとってのエルがペットで、エルにとってのご主人がファングであることを他人は知らない。

 だから目に見えて分かるようにしたかったのだ。

「大切にしてやるからな」

「……………………」

 エルは言葉が出ずに戸惑う。

 ただ、首輪一つ着けただけでもファングの所有だと主張してもらえたような気がして満足したのだった。

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