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第十一話 戦力増強計画

「グバラ同朋団がターバラを離れて北に向かったそうだ」


 ハッシュが地上で流れている噂を伝えると、ジンは一笑に付した。


「嘘だな」

「やっぱり、ジンもそう思うか」


 ハッシュも苦笑気味に応じる。


「だが、良い情報だ」

「この倉庫の存在が商会に勘付かれて、グバラ同朋団が欺瞞情報で俺たちの釣り出しにかかったって事だからな」


 敵がグバラ同朋団と繋がっている確証が得られたのだ。敵対勢力の戦力分析がはかどるというもの。

 すでに倉庫の営業開始から十三日が経っている。残り七日でベレンディアへの素材の運搬が開始される。

 グバラ同朋団による襲撃をほぼ確定と考えると、この状況下で動くという事はダンジョン内の倉庫への直接襲撃を諦めた可能性が高い。

 同時に、グバラ同朋団や商会が街道に罠を張るには十分な時間を確保した事にもなる。


「追加の情報だ。冒険者ギルドの依頼掲示板にターバラを出る討伐依頼が無くなった」

「もともと少なかったと思うが?」

「知り合いに頼んで簡単な討伐依頼を出してもらったんだ。素材運搬時の護衛に俺達パーティも参加したかったからな。だが、依頼受理を判定する審査で弾かれた」

「簡単な討伐依頼だからって事はないか?」

「ないな。過去の討伐依頼を踏まえて出している。今回だけ弾かれた形だ」

「決まりか。ギルド長や依頼審査に口出しできる人間が商会側」


 冒険者を管理しているギルドに商会側の人間がいる。予想していた事ではあるが、ジンたちにとっては悪い知らせに当たる。


「それから、素材や魔石の産出量が低下したのは氾濫の兆候の可能性があるとギルド長が言い出して、ダンジョン内への職員派遣を企てている」

「倉庫の状況を知りたいって所だな。それは朗報だ。冒険者の中にギルド長に与する奴はゼロって事なんだから」

「まぁ、ジンはそこをきっちり疑うよな」


 ハッシュに申し訳なさそうな目を向けられるが、ジンは肩を竦めて応じた。


「俺の役割みたいなもんだからな。だから、ハッシュたちもきちんと俺を監視してくれ。この相互監視が冒険者全体の信頼を担保してるんだからな」

「この嫌な役をそつなくこなせるお前が凄いよ。俺は胃が痛いぜ」


 腹をさするハッシュに、ジンは笑いかける。


「おいおい、素材を換金したら冒険者全員で打ち上げするんだ。胃を痛めていたら、俺達で全部食っちまうぞ」

「やめてくれよ。久しぶりにご馳走が食えるってんでみんな楽しみにしてんだから。一人だけ除け者なんて御免こうむるぜ」


 ジンは小さく笑う。

 ハッシュから預かった素材や魔石を一覧に書き込みながら、ジンは口を開く。


「冗談はここまでにして、問題は運搬ルートだな」

「村の方にも商会からの監視が来ているようだ。荷車を出せば商会も動く」

「だろうな。かといって、運搬日をずらすのは無理だ。今でさえ、みんなギリギリでやりくりしてる」


 罠を張っているとはいえ、グバラ同朋団の人数は十名。

 対して、ターバラ冒険者ギルドには五十人の冒険者が所属している。しかし、ダンジョンの氾濫対策や緊急時の依頼に動く人員など、ターバラには一定以上の冒険者が残っている必要がある。

 すでにギルドや商会にこちらの目論見は見抜かれているのだから、開き直って動かせる冒険者すべてを護衛役に抜擢して運搬を行うのも一つの手ではある。


「動ける冒険者は?」

「こんな時のために予定を開けている冒険者も多い。だが、動けるのは二十人が限度だと思ってくれ。グバラ同朋団が素直に運搬部隊を襲撃してくれるだけなら迎え撃つ戦力を集中できるが、付近の村で略奪をしてもおかしくない」

「略奪なんて働けば、ターバラの兵が討伐に動くだろう」

「略奪されてからじゃ遅い。当然、グバラ同朋団にとっても多大なリスクのはずだが、商会側の立場で考えれば替えはいくらでもいる」


 ありえないと断ずることができない。だから、対策せざるを得ない。

 元々、ターバラで活動する冒険者は知り合いを守るために拠点を移さなかった。対策しなければ士気に関わる。


「ハッシュ、俺たちが動く際の戦力をギルド長は正確に把握できるか?」

「出来るだろうな。元は冒険者だ。足を悪くして前線には出ないが、経験は本物だぞ。魔道具の剣を持ってるって話もある」

「となると、動かせるのは二十人というのも考え直した方がいいな」

「どういうことだ?」

「俺なら、近隣の村から荷車が動いた時点でギルド掲示板に討伐依頼を張り出して、戦力になりそうな冒険者を派遣する」


 今回、運搬の護衛に出た冒険者がグバラ同朋団との戦闘で死亡すれば、冒険者ギルド全体の戦力が減る。さらには、ダンジョンから得られる素材や魔石の量が減る。ギルド長としても、素材などを買い叩いている商会としても、冒険者の犠牲が少ない方がいいのだ。

 ならば、運搬の護衛に出る冒険者を可能な限り減らす方向で動く。


「最悪の場合、馬車が使用できない。強力な魔物の目撃情報をでっち上げれば、街道の安全が確保できないからと、馬車の行き来を止められる」


 懸念材料を挙げればきりがないが、要はどう出し抜くかの勝負だ。

 ジンは預かり品一覧から現在の素材や魔石の数を計算し、運搬に必要な最低限の人数を考える。


「……面倒臭いな」

「おい、ジン、諦めんな」

「密輸するか」

「――とんでもないこと言い出したぞ!? レミちゃん、こいつを止めなくて大丈夫か?」

「……ありかも」

「レミちゃんの声を初めて聞いたんだが――」


 可愛い声してる、などと言ってるハッシュを無視して、レミがジンの後ろから預かり品一覧を見る。

 そのまま後ろからジンの肩に手を置き、レミは口を寄せて内緒話の態勢を作った。


「……あの出入口を利用するんだよね?」


 レミの確認にジンは無言で頷く。

 レミが発見したダンジョンの入り口。いまだに誰にも知られていないその入り口から素材や魔石を持ちだせば、商会側に捕捉される心配がない。


「でも、運搬量を考えると人手は必須だよ」

「人手あるいは魔力だ」


 ジンは手の平の上に小さな水の蛇を作る。それだけで、レミは理解を示した。


「水のゴーレム、八岐水蛇?」

「そう。荷車と魔力があれば、相当な量を持ちだせる。だが、どう考えても魔力が足らない」


 八岐水蛇はゴーレムだが、無限に動き続けるわけではない。込めた魔力が失われれば当然消滅する。

 この世界の行商人が未だに馬や牛などの動物を使うのは、魔物などの襲撃に備えて魔力を温存する為であると同時に、魔力だけで荷を運ぶのが不可能だからだ。


「外道な方法が無いわけでもない。戦力を大幅に増強できるえげつない手だ」

「なに?」

「レミの香りで近隣の魔物を引っ張って、グバラ同朋団にぶつける。MPKだな」

「えむ? 碌でもない手だけど、手法としてはありだね」


 どちらが悪か分かったものではないが、有効な手であることをレミも認めた。

 ジンは中層への通路を指差す。


「まだあるぞ」

「密輸って話になると生き生きするのは何で?」

「ロマンを求める男の子だから」

「それで、中層がどうしたの?」

「巨骨人の空洞の身体に素材を放り込んで、ローブか何かを被せて中身を隠し誘導する。つまりは木牛流馬作戦」


 魔物の中に素材を封入するという逆転の発想だが、巨骨人自体が暴れるため実現は難しい。


「で、本題だ」

「今までのも相当なインパクトだったよ?」

「単眼王を討伐してダンジョン経由でベレンディアに持って行く」


 異常種サイクロプス、単眼王。ベレンディアとの往来を途切れさせた主原因であるこの魔物を討伐すれば、ダンジョン内で輸送も可能になる。


「ハッシュ、単眼王は決まった巡回経路を持ってると聞いてるんだが、直角か、先が見通せない緩やかな曲がり角はその巡回経路にあるか?」

「あるぞ」

「その道を完全封鎖すれば討伐できるな」

「封鎖は無理だろう。バリケードを作ってもダンジョンに吸収……されないのか」


 ジンが魔石レンガを指差しているのに気付いたハッシュが吟味するように黙考する。


「いや、このレンガをいくつ作れるか知らないが、単眼王は巨体で、その巡回経路も幅が広く天井も高い。百や二百のレンガじゃ到底無理だぞ」

「そうか。なら、いったん諦めるか」

「やけにあっさり引き下がるな」

「いつかやるなら今やりたいって思っただけなんだ」


 魔石レンガさえ工面できれば単眼王の討伐は可能と分かっただけでも収穫だ。後は実際に現場を見て測量し、作戦を立てればよい。

 ジンは単眼王討伐を保留し、別の作戦をレミにだけ聞こえるように相談する。


「……戦力が無いならベレンディアから引っ張ればいいじゃないの作戦」

「……いいの?」

「単眼王討伐を考えてもこれが近道だ」

「ジンが開発したんだから私は何も言えないけど、勝算は?」

「ある」

「分かった」


 レミの了解も取れたため、ジンはハッシュを見る。


「行方不明の行商人の叔父がベレンディアで商人をやっていると以前言っていたよな。顔を繋ぎたい」

「……俺たちの模擬戦で見届け人を務めたフォーリたちが元パーティーメンバーだ。フォーリなら協力してくれると思うが、会ってどうする?」


 訝しむハッシュに、ジンは魔石レンガを指差した。


「これの製法を売り、その金でベレンディアの冒険者を雇い入れて、素材運搬の護衛にする」


 魔石レンガとそれを土台にした倉庫の有用性はすでに証明されている。魔石レンガの需要は高く、これを機にダンジョンでの倉庫業に乗り出す商会も出てくるだろう。つまり、魔石レンガの製法は高値で売れる。

 話を聞いて、ハッシュは首を横に振った。


「だめだ、それは」

「理由は?」

「全体的には赤字だろ。ジンにすべての負債を押し付けているだけだ。ターバラの商会全てと資金力勝負に持ち込む気か?」


 心配してくれている事が分かり、ジンは頬を掻く。


「ハッシュ、これは投資だ」

「投資?」

「レンガの製法が広まれば、商会が作った物を購入できる。ダンジョン内倉庫のノウハウは俺の方が持っているし、信用についても獲得している。レンガがあれば単眼王の討伐に目途が立ち、ターバラだけでなくベレンディアの冒険者も顧客として見込める好立地に倉庫を移動できる。そこからの稼ぎは今までの比じゃない。ベレンディアへ素材を売却するルートの構築も可能になるから、商会どもと資金力勝負なんて発生しない」


 ジンが話したのはあくまでも計画でしかない。穴を指摘しようと思えばいくつか存在する。

 商会が本当に魔石レンガの製法に利を見出すかどうか。魔石レンガが流通するかどうか。単眼王を本当に討伐できるのか。ノウハウがあってもベレンディアの商会がダンジョン内倉庫業に直接乗り出してジンを市場から締め出す可能性すらある。

 だが、ジンの見立てでは勝率は低くない上に、倉庫業から締め出されても稼ぐ手段は用意している。

 ジンの目から本気を感じ取ったのか、ハッシュは頷いた。


「……分かった。協力しよう」




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