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花精霊とダンジョン内町の萌芽  作者: 氷純


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第九話  御休憩とお買い物

 町は相変わらず、冒険者という基盤があって賑わっていた。

 どうやら、まだダンジョン内倉庫の事は知られていないらしい。

 そんな町の賑わいを遠巻きに聞く小さな宿の一室にジンとレミはいた。


「理に適っているとは思うんだが、これは正直どうなんだ」


 ジンが苦言を口にするが、レミを素知らぬ顔でフードを取る。


「男女同室が当たり前の場所でしょ?」

「それはそうだが」

「短時間の利用でも違和感がない場所でしょ?」

「それもそうだが」

「服を脱ぐ場所でしょ?」

「それすらそうだが」

「香が焚いてあるから私の匂いに気付かれない場所でしょ?」

「そうなんだが……」

「なら完璧だよね――連れ込み宿」

「その結論はおかしい」


 レミの言う通り、連れ込み宿は男女での利用が当然で一晩ではなく数時間でも借りられる上に雰囲気作り等の理由でお香が焚かれているためアルラウネのレミの花の香りも誤魔化せる。

 これ以上ないほどの好条件なのはジンも認めるところだ。


「というか、レミは町に入ってまっすぐにこの宿に来たよな。少しは躊躇しろよ」

「でも、ここならぐっすり眠れるよ?」

「眠れねぇよ!?」

「えぇ、寝かせてくれないの? 初めてだから優しくしてね」

「誘導尋問だろ!」


 ツッコミ疲れてどうでもよくなり、ジンはメジャーを取り出した。元は倉庫建設の際に測量用に買ったものだが、身体計測に使えない事もない。


「ほら、そこに立って手を挙げろ」

「こう?」

「こっちを向くな。後ろを向け」

「でもトップを測るんでしょ?」

「トップもアンダーも区別がつかないだろ」

「訂正! 今すぐに訂正して! ちゃんとあるよ! これ以上ある人は谷間に汗疹ができる呪いにかかればいいんだ!」

「世界中の女性になんて地味に強烈な呪いを掛けやがる」

「大多数の女性であって世界中の女性じゃないやい!」


 口げんかしていると、隣の部屋から壁を蹴り飛ばされた。

 案外壁が薄いらしい。

 連れ込み宿ということもあってどんな誤解を招くかを考えると頭が痛い。


「とりあえず、測るから」

「両方測ってよ」

「あぁ、分かった。こっち向いていいよ。まったく、人の気も知らないで」

「一休みしてもいいんだよ?」


 ちらちらとベッドを横目に見るレミに、ジンはため息を吐く。


「予定が押してるんだ。そんな時間はない」


 確かに区別つかないほどではないな、と計りながらちらりと思ったが、言わないでおいた。


「手つきがやらしい」

「濡れ衣だ」

「ジンはどんな服が良い? やっぱりフリルとかついてる奴? 高いけど」

「冒険者受けを考えると華美なのはダメだろうな。それなりに女の子っぽくて落ち着いた色合いの動きやすい服が良いだろう」

「……私を看板娘にする気満々だね」


 咎めるようなレミの視線に気付かず、ジンは紙に測定結果を記入する。


「そりゃあ、せっかく可愛いんだから有効活用しないとだろ。あ、横髪を隠さないといけないのか。……無理だな」

「二人きりの時にジンに見せる用の服と、そうじゃない時の服にする?」

「そんな金はない。まぁ、倉庫業が軌道に乗れば可愛い服も買えるだろ」

「お預けかぁ」


 残念そうなレミを見て、ジンは予算を少し増やすことにした。具体的には小物が一つ買える程度。

 紙を折り畳んでポケットに入れたジンはレミが着替え終わるのを待つ。


「本当にご休憩しないの……?」


 気を利かせて部屋の扉を注視していたジンにレミが後ろから抱き着いてきた。感触の生々しさから、服を着ていないらしいことが分かる。


「あまりからかってると襲うからな?」

「……いいよ?」

「まったく……」


 震え声で「いいよ」と言われても襲う気になるはずがない。


「レミ、前にも言ったが、籠絡して繋ぎとめようとするのはやめろ」

「……ジンは私の事を見捨てない?」

「見捨てない」


 断言すると、レミはそっと離れた。


「ジンは一人で生きていけそうだから、気が付いたらいなくなってそうで怖い」

「一人で生きていけるなら二人で生きていけるように頑張る。今がまさにそうだろ?」

「……うん」


 町中ということもあって気弱になっているらしい。


「早く服を着ろ」

「……うん」


 衣擦れの音がする。

 監視するようにこちらを見ているんだろうな、とジンはぼんやり考えながら話題を変えた。


「そういえば、教会がアルラウネを魔物扱いしたって言っていたけど他の人種についてはどうなんだ?」

「フェアリーが魔物扱いされてたと思う。今は他にも増えてるかも」

「そもそも、どういう理屈で魔物扱いなんだ?」


 理屈次第では反論を重ねて、ジンが教会とは考え方が根本的に違う事をレミに理解させられるかもしれない。

 レミがジンの前に立った。きちんと服を着ている。


「ていっ」


 レミが正面から抱き着いてきて、そのまま部屋の奥へと押そうとする。


「ん? なんだ?」


 少女のレミにやすやすと押しのけられるほど軽くないジンは意図が分からず困惑した。


「後ろの窓から教会が見えるの」

「それを先に言えよ。てっきり、ベッドに押し倒すつもりなのかと思っただろ」

「……あ、あんな会話の後で押し倒せるわけないじゃん」

「目が泳いでいるわけだが」

「さぁ、窓の外にご注目!」


 レミに押されるがまま窓のそばに立ち、カーテンを開ける。

 ターバラの町並が見えるが、この連れ込み宿自体がそう高い場所に建てられているわけではないため視界は悪い。

 それでも、家々の奥に教会の物らしい尖塔が見えた。


「聖テーバ教、それが人間種の宗教の名前」

「聖テーバ教?」

「昔話に入りまーす」


 レミが窓の桟に腰掛けて講義を始める。


「昔々、テーバという人間が前人未到のダンジョン最奥で宝箱をぱかっと開きました。そこから出てきた魔道具はなんとなんと神様を召喚するものだったのです」

「ちょっと待ってくれ。レミが俺を召喚する時に使ったのも召喚の魔道具だよな? 神云々は置いといても、ダンジョンからよく出てくるものなのか?」

「この世界の生き物を召喚する魔道具は極々稀に出てくるよ。でも、私が見つけたのは異世界から召喚する魔道具で、私も他に聞いたことが無いくらいのレアものだね」

「レミは運がいいんだか、悪いんだか」

「ジンを召喚できたのは運がよかったよ。……ジンにとってはどうかわからないけど」


 ズボンをぎゅっと掴んだレミは、気を取り直したように講義に戻る。


「話を戻すね。このテーバさんはダンジョンから出てくると人々の前で魔道具を起動して、神様をしょーかん! ありがたーいお言葉を頂いて、それを教義に聖典を書き、後に聖テーバ教が興るのでした」


 ダンジョンや魔道具といったこの世界特有の単語が含まれてこそいるが、ありがちな宗教神話だった。

 もっとも、ファンタジー世界だけあって本当に神様が召喚されていてもおかしくないとも感じる。

 どう解釈しようかと悩む間にもレミの講義は続く。


「神様は人間を殺しちゃいけないよとか、盗んだりしちゃだめだよとか、そんな当たり前のことを人間に教えたんだって。守られてないけど!」

「毒舌だなぁ」


 聖テーバ教には恨みしかないのだろう。言葉の端々に嫌悪感が滲んでいる。


「成り立ちを聞くと冒険者とも関係が深そうな宗教だな」


 聖典を書いたというテーバがダンジョンに潜る冒険者だった節がある。

 さぞ、冒険者からの信頼厚い宗教なのだろうと思ったが、実情は異なるらしい。


「最初の内は知らないけど、今は世界有数の武装組織だよ。魔物は悪だって断じておいてダンジョンに魔物討伐の兵を派遣することもなく、善良な人間以外の種族を一方的に魔物に仕立て上げて虐殺するような人たちだよ」

「なるほど。聖テーバって奴が魔物と戦っていたから真似をした方が権威の維持につながるけど、ダンジョンに人を送っていたら戦力も信者も死んで行って先細りになる。だから矛先を他種族に向けたのか」


 卑劣な話だ。自然と顔が険しくなるが、疑問も浮かぶ。


「突然、アルラウネは魔物ですなんて宣言して、信者がついてくるものなのか?」

「信者と一言で言っても内情は様々だから一概には言えないけど、少なくとも反対はしてないよ。できないって言った方が正しいかな?」

「どういうことだ?」


 世界有数の武装組織だけあって内部粛清を恐れて意見が封殺されているのかとも思ったが、レミが言うには微妙に異なるらしい。


「テーバっちが持ち帰った」

「テーバっちって、お前」

「テーバぽんが持ち帰った魔道具があるでしょ?」


 ぽん付けもどうかとは思ったが話が進まないので突っ込まないでおいた。


「神を召喚するって奴だよな」

「その魔道具が今でも聖テーバ教の総本山にあって、数年に一度使用されるの。つまり、神を名乗る何かの襟首を掴んでずーるずーると引きずり出す儀式をするんだよ」

「それで?」

「神を名乗る何かのご高説を聞いて神託じゃいって世間様に公布するの。例えば、アルラウネは魔物だから討伐しましょうねーとかだね」

「それ、本当に神か?」

「ちなみに、ジンを召喚した魔道具は一回限りの使い捨てでした。使い終わったら消えちゃった」

「総本山に神召喚の魔道具が残っているかどうかも怪しいのかよ」


 聖テーバ教にとって都合のいい世論を作るために神託という形で公布している可能性がある。

 理論や理屈をぶつけても、神が言ったから、と思考停止されては説得も出来ない。

 レミは遠くに見える教会の尖塔を鋭い目つきで睨む。


「もし本当に魔道具で召喚しているとしても、それが神だなんて私は絶対に認めない」

「俺もこの世界の神様に興味はないかな」


 ジンは教会の尖塔から視線を外し、カーテンを閉ざす。


「アルラウネの宗教ってどんなものなんだ?」

「エルフやフェアリーと一緒で聖樹聖花教だよ」

「わからん」

「だろうね」


 聖テーバ教を語る時とは異なり、レミは柔らかく笑った。


「ダンジョンの氾濫で魔物が溢れて森に入ろうとした時、いくつもの不思議な花が咲き乱れて魔物を幻惑し、いくつもの木々が瞬く間に成長して魔物の進入を阻みましたっていう神話からきてる宗教なの」

「その花や木が、聖花と聖樹か」


 ダンジョンが密接に人々の生活に関わっているのだと、宗教神話を聞くと実感できる。


「あくまでも神話で、本当にあった事なのかどうか定かじゃないけどね。ただ、私たちは森が守ってくれるからって一部の地域を伐採禁止にしたりしていたの」

「その伐採禁止の場所は今どうなってる?」

「エルフが守っているところはともかく、アルラウネやフェアリーの住処だった森は多分、聖テーバ教が乗っ取ってるよ」


 聖テーバ教がアルラウネを魔物と呼ぶのは、森林資源が目的だったのではないかと邪推してしまう話だ。

 ジンは話題を変える。


「レミは他のアルラウネと一緒に逃げてきてはぐれたと言っていたけど、そのアルラウネたちがどこに行ったか心当たりはないのか?」

「エルフの隠れ里を目指していたけど、本当に見つかるかは分からないよ。同じ聖樹聖花教を信じているから匿ってもらえるかもしれないってだけで、本当に助けてくれるとも限らない」

「救いがないな」


 現状、生活拠点(仮)が確保できただけの状態だ。レミ以外のアルラウネと連絡が取れないこともあり、救うのは難しい。

 だが、ゆくゆくは他のアルラウネや同時に迫害されているフェアリーについてもどうにかしたいところだった。


「まずは手の届くところから確実にこなしていかないといけないし、申し訳ないけど後回しだな」


 連絡を取る手段くらいは考えてもいいが、手を差し伸べれば共倒れになりかねない。

 ジンは窓から離れた。


「そろそろ買い物に行くか」

「うん。部屋に入ってからずいぶん経ったから、早すぎて疑われることもないだろうしね」


 ナニが疑われるんですかねぇ、とはもちろん言わない。

 連れ込み宿を出て町の市場に向かった。

 古着などを扱っている露店を覗いて回る。

 ダンジョンがすぐ近くにあり、そこからの魔石や素材が主な輸出品とはいっても、売られている衣服には凝ったデザインの物も多々見受けられた。

 金を持っていない冒険者は相手にしていないのか、ジンたちの服装を見ると露店主たちは特に関心を払わず他の客が来ないかと視線を外す。

 レミの正体がばれにくいため、露店主の反応はむしろありがたかった。


「色々あるな」


 サイズごとに並べられた服を眺めて呟くとレミが腕に抱き着いてきた。


「ジンのお好みは?」

「これとこれとこれにするか」

「ワァ、色気ない……」


 質実剛健とばかりに簡素で味気ない服を選ぼうとするジンを押しとどめて、レミは注意深く縫製を確かめたりしながら選び始めた。

 一分経たずに戦力外通告を出されたジンは大人しくレミの買い物を眺める。

 ダンジョンで魔物を相手にする関係上、洗濯しやすく丈夫で動きやすい服を選ぶという基準だけはレミも遵守するつもりらしく、手に取る服はやはり色気にかける。

 流石に譲れない一線もあるのか、上からコートか何かで隠すことを前提に袖などにワンポイントがある物を選んでいた。

 条件が厳しいため品数も限られ、組み合わせも自ずと絞られる。

 最終的には無難な所に落ち着き、ジンが最初に選んだズボンも購入の運びとなった。

 ちょっと悔しそうにズボンを見つめるレミの腕を取って、ジンは市場の奥を指差す。


「小物を選ぼう」

「でも、お金は?」

「男物は安いんだよ」

「……ありがとう」

「ほら、いくぞ」


 市場の奥で買ったのはポシェット型の魔道具だった。小物ではないが、中に入れたものの重量を軽減する品だ。容量は見た目相応であるため、持ち運べる量はたかが知れている。

 お値段もそれなりだったが、レミは効果よりも見た目が気に入ったらしい。


「この丸っこいデザインが良いんだよ」


 ご満悦のレミだが、その丸みを帯びたデザインのせいでさらに容量が少ないため買い手がつかなかった品である。


「気に入ったならよかったよ」


 市場を後にして、日用品を買いに小売店へ向かう。

 小売店はアーケード通りにあった。途中で商会が並ぶ通りに入り、ジンはさりげなく周囲を見回す。

 三つの商会があるようだったが、どれもこじんまりとした物だ。その中の一つ、バードゥ商会がここに足を運んだ目的である。


「もっとこう、悪の親玉って感じのまがまがしい建物を想像してたのになぁ」


 バードゥ商会の商館を見て、レミが呟く。

 木造三階建ての商館だった。床面積は広く取ってありそうだが、禍々しさなど感じない。商館に禍々しさがあったら商売あがったりだと思うが。

 ジンもやや拍子抜けしてしまった。

 だが、繁盛しているらしく、人の出入りが途切れない。


「敵を見定めようと思ってきてみたが、こういう状況か」

「何か分かるの?」

「事前に調べていた事の裏付けが取れた」


 レミに問われて、ジンは頷いて歩き出す。敵の目の前で分析結果を語るのも間抜けな気がしたからだ。


「談合している三つの商会にはそれぞれに役割がある」

「どんな?」

「食料品をターバラ近郊の村から取り寄せている商会、逆に農具や農業用の魔道具を村へと供給する商会、そして、バードゥ商会だ」


 レミが商会通りを振り返って確認した。

 ジンはバードゥ商会について一時棚上げして、二つの商会について説明する。


「バードゥ商会以外の二つはターバラと周辺の村の間での物流を担う役割がある。食料生産地の村と消費地のターバラとで富を循環させているが、革製品などの工芸品はこの外から輸入しないといけないから先細りになる」

「そこにバードゥ商会が絡むんだね」

「そう。冒険者から買い叩いた素材や魔石を魔道具技師へと流し、作られた安い魔道具を外へ持ち出して金を稼ぎ、ターバラ周辺に還元する。ほら、あの酒場を見てみろ」


 ジンが顎で指した酒場の店先に出されたテーブルで何人かの男たちが葡萄酒を飲んでいた。つまみもベレンディアから取り寄せたらしい川魚の燻製だ。

 着ている服も上等だが、袖にインク染みが見える。グラスを持つ手は綺麗で外に出ることを生業にしているようには見えない。


「もしかして、魔道具技師?」

「そうだろうな。この時間に自由に酒が飲めるのは自営業だし、行商人だと魔物や盗賊対策にもっと体を鍛えている」


 彼らの前を通った時に聞こえてきたのも、最近の魔道具についての話題だった。


「ターバラの外から富を持ってくるバードゥ商会にあやかっているのが魔道具技師だ。それ自体はれっきとした商取引の賜物だからやっかむのは筋違いだけどな」

「思うところはあるけどね。それより、今の話を聞くとさ、商会の談合で迷惑しているのってもしかして――」

「冒険者だけだな」


 バードゥ商会のおかげで儲けている魔道具技師はもちろん、他の住人にしても景気がいいのはバードゥ商会のおかげだ。

 冒険者単独で談合している商会たちに立ち向かわねばならない。


「まぁ、やる事は変わらない。冒険者たちに機密の徹底を呼びかけるだけだな」

「バードゥ商会が潰れた後ってどうなるの?」

「単眼王を討伐してベレンディアとの流通を活発化させる。今の好景気から冷え込むのは避けられないが、食べ物はターバラ周辺の村で賄っているから餓死者が出ることもないだろうし、遠慮せずにやろう」


 町の住人に配慮して冒険者を見捨てるのもおかしな話なのだから。

 小売店のあるアーケードに入り、日用品を買う。


「旅人の明かりってこれか」


 冒険者がよく利用する、保存食品やテントを売っている店で照明の魔道具を見つけたジンは値段を確認して少し悩んだ後、購入を決意する。

 旅人の明かりは光の魔法を持続的に発動する魔道具だ。反射板を用いて正面に光を集中させる事も出来る。

 倉庫部屋はダンジョン内であるため薄暗い。在庫の確認などで一々光魔法を発動するのも手間がかかる上、魔力効率や防犯上の問題もある。

 旅人の明かりを設置する事で安全性が高まるのなら、多少の出費には目をつむろうとジンは銀貨を出して購入した。


「ジン、お鍋も買っておこうよ。温かい食事もしたいでしょ?」

「そうだな。ダンジョン内は冷えるし」

「これで私が得意な温野菜サラダを振る舞えるよ。ふふふ、震えて待つが良い」

「言い回し、それで合ってるか?」


 新品の鍋を惚れ惚れと眺めながら不穏な台詞を呟くレミにツッコミを入れつつ、イモ類など日持ちのする食材を購入して鞄に詰める。

 どこに出しても恥ずかしくない冒険者ルックが完成し、ジンはレミと共に店を出た。


「お二人さん、気を付けてね」


 ターバラ出身の冒険者ではないと気付いていたのだろう。店員のおばさんが初々しい二人を心配そうに送り出す。

 つい数時間前に模擬戦とはいえ冒険者四人を一人で下したとは言えなかった。


「それじゃあ、町を出てレンガ作りだな」

「忙しいね」

「こういう時は充実していると言った方が精神的に楽だぞ」

「それって誤魔化してるだけじゃない? ちゃんと休む時は休まないと。膝枕ならいつでもするよ」

「枕を買わなくてよかった」

「一晩中は流石に足が痺れるね。あ、痺れる夜って響きが――」

「大通りで何を言うつもりだよ」


 軽口を交わしながら、ジンとレミはレンガを作るために町を出ていった。



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