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絶対正義は異世界警察にいる  作者: 外山内川
第一章
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第二話・アイムベイビー

 長い眠りについていたのか、瞼が重い。

 それでも、目を開けて周りを見渡す。

 見渡すと言っても、首を捻って見ることはできなかった。あくまで、瞳を左右に動かして目に映る範囲で、だ。

 仰向けに寝かせられているようで、自分の目の前には天井、左右には木製の柵があった。

 自分と柵の距離を考えると、俺は相当小さな体躯を持っているらしい。


 と、ドアの開く音がする。目を凝らすと、柵越しにドアから二〇代前半のラテン系の美人が入ってくるのが見えた。

 燃えるような赤髪が目立つ女性だ。

 一体誰だろうか?

 俺が寝ている部屋に入ってくるのだから、関係者に違いないが。


「ルカスちゃん、おはようー。産まれてから初めての朝だね」


 ルカスというのが、俺の名前なのか?

 産まれてから初めての、ということは俺は昨日産まれたばかりの赤ん坊なのか。それなら、この女性は俺の、この世界での母親か。

 転生したのか。

 夢ではなく、現実なのだと思い知らされる。

 自分の寝ているマットレスの柔らかさも、目に映る全てが本物なのだ。

自分でもどうしてこんなに冷静でいられるのか不思議だが、やけに思考が明瞭になっている。


「あっあー。あうあうあー」


 心臓が少し強く鼓動すると、口から勝手に声が漏れた。


「きゃー! ルカスちゃん、ママの言ってることが聞こえるの? 賢いのねー」


 母は俺を手放しに褒めた。声を出したくらいで大袈裟だとは思うが、これが親の反応なのかもしれない。

 今、ふと思うのは、俺が彼女の言葉を、日本語として認識しているが、彼女は日本人ではなさそうだ。

 第一、異世界に転生されたのなら、彼女は地球人ですら無いということになる。

 それなのになぜ、言語が同じなのだろう?

 あの神の言っていた能力とは、このような言語的な力だったのだろうか?

 いや、深く考えることでもない。自分に害がないのだから、受け入れるしかないのだ。


 母は飽きが来ないのか、と俺が疑問に思うほど、俺に嬉しそうに話し掛けてきた。

 その中で彼女は自分の自己紹介を、赤ん坊の俺相手に敬語でした。何と律儀なのか。

 それによると、母はアメリー=シュナイダーという名前で歳は一九歳。夫がいて、俺が二人の間にできた初めての子供だという。


「だから、ルカスちゃんの名前はルカス=シュナイダーなんだよ。かっこいい名前で良かったね。シスター様が付けてくださった大切な名前だから、大切にしようね」


「あー」


 俺が応えると、母は目に涙を浮かべて頷いた。

 感情がすぐに顔に出るタイプの人なんだろう。


 母が部屋に入ってきてから三〇分ほどたったとき、息を切らしながら、若い男性が入って来た。


「あら、エグモント。お仕事はいいの?」


「昨日のお前の出産に立ち会わせてもらえなかったんだ。上司に無理を言う権利が、俺にはあるのさ」


「それもそうね。あなたの上司には出産祝いの品を期待しましょうか?」


「そいつはいいな。おう、ごめん、お前を放ったらかしにしちまって。俺がお前の父親、エグモントだ。ほーう、目元はアメリーに似てるが、あとは俺に似てるな。こりゃハンサムに育つぞ」


 自分で言うだけあって、父親を名乗る男――エグモントの顔は、昔俺が洋画で観た人気俳優の顔に少し似ていた。目力が強く、眉の形が整っている。

 モデルだ、と言われても十分に納得できる美男だ。

 そんな父親に似ているのなら、俺は将来モテてしょうがないだろうな。

 俺は心の中でガッツポーズした。

 父親にもサービス精神をもって対応しようとしたが、如何せん赤ん坊の俺は疲れて眠ってしまった。




 ーーー




 八ヶ月の時が経った。


 身体は産まれたばかりの頃と比べると、格段に大きくなり、そのスピードは一般よりもいくらか早い、とアメリーが話していた。

 発音の難しくない言葉であれば自由に話せるようにもなっていた。これに関しては、近所の医者が検診に来るほど早かったらしい。

 神のもたらした恩恵だろうか、健康に育つということが一番の力なのかもしれない。


 アメリーはそんな俺を見て、この子には早くに教育を受けさせなければいない、と張り切り、とりあえずは彼女が俺に史実に基づいた絵本を読み聞かせてくれた。

 そうしたアメリーの気遣いが、俺のこの世界の知識を増やすことに大いに役立った。


 俺たち家族が住んでいるのは都市ハッケプチヒで、ハッケプチヒ等の多くの都市を抱えるのはヒーデルガルト帝国だそうだ。

 時々、外に連れて行ってもらうと、様々な人種から、驚くべきことに獣耳が頭上に生えた獣人が、商店街を行き交っており、異世界であることを思い知らされた。

 聞くところによると、ヒーデルガルト帝国は戦争で住む場所を奪われた人々が、新しく発見されたエンシェンテ大陸に移住して成立した国らしい。

 であるから、魔族を含めた様々な種族が共生している、と。魔族については、またあとで説明しよう。


 が、多くの種族が共生するのはやはり難しく、ヒーデルガルト帝国内は、犯罪が多発する。そのため帝国は警察組織を、既存の騎士団とは別に、全国的に設立した。

 それが、第二騎士団だ。この組織により、犯罪数は激減した。

 俺の父親、エグモントはその第二騎士団のハッケプチヒ支部で、下から二番目の位階で職務に就いている。名目上は騎士だが、日本の巡査部長程度の感覚らしい。

 そのため、下っ端であるエグモントは中々家に帰ってこない。週に三日家に帰ってくればいい方だ。

 新婚であるアメリーからすれば、辛い日々を送っていると思うのだが、今のところは俺と話すことが世界で一番楽しいらしい。


 そんな話はどうでもいいか。

 とにかく、このような全国的な警察組織は他の大陸に目をやっても珍しく、世界一の捜査能力らしい。

 しかし、騎士団と第二騎士団との間では良く、発生した案件でどちらの管轄なのか揉めることがあり、友好的とはお世辞にも言えない。


 次に、この世界全てに共通する話をしよう。

 魔法だ。

 この能力の存在こそ、地球と大きく異なる部分だ。

 この世界では魔法は珍しいものではなく、人間の二人に一人は魔法を使用できる。アメリーも時々、指先に小さな火の玉を浮かべて俺の機嫌を取ろうとするくらいだ。

 初めて見た時は驚いたが、人間慣れるものだ。

 獣人に見慣れたのだから、魔法の存在くらいどうってことない。

 しかし、魔法を効果や範囲で、初級・中級・準上級・上級・超上級・皇級・伝説級・神話級と八段階に分けた内で、一段階目の初級魔法しか大抵の人間は使えない。

 成人しても、魔法発動に際して使用する体内の魔力量が足りないからだ。

 類まれなる能力ある者は、過去に伝説級魔法まで行使できたとされているが、千年以上前の伝説だ。

 現在の最高峰の魔法士も皇級魔法までしか発動はできない。


 しかし、他の種族も、そうとは言い難い。

 特に魔族だ。

 魔族の中でも多数の種族に分かれ、魔族という表現は不適切なようだが、便宜上皆がそう呼ぶ。

 魔族は他の種族とは身体の構造が異なるのだ。

 彼らは体内に大きな魔石を持つ。

 魔石とは、魔力を蓄えておけるもので、魔物(ゲシュペンスト)が体内に保有しているが、魔物以外で唯一体内に魔石を持つのが、彼らなのだ。

 そのため、彼らは例外なく全ての者が魔法を使え、平均して上級魔法までは使えるのだ。

 妖精族も魔族に匹敵する魔法能力を持つが、魔石を体内に有している訳では無いため、持久力の面で言うと魔族にはやや劣る。


 ここまでがアメリーのお陰で今のところ知り得た情報だ。




 ーーーー




 さらに二ヶ月が経ち、俺は一歳の誕生日を迎えた。

 それを祝い、我が家では俺の誕生日パーティーをしてくれた。

 ささやかなご馳走と、新しい絵本を俺にプレゼントしてくれ、精神年齢が二十歳以上の俺からすると物足りない気持ちもあったが、人から自分を祝ってもらえることはとても幸福感を満たした。

 両親は、何やら息子の誕生日を祝うのとは別の浮ついた表情を浮かべていた。

 誕生日パーティーの間も、それがあるずっと気になっていたが、その終わりにようやく理由が判明した。


 スキル診断を、一歳になるとすることができるのだ。

 スキルというのをその日初めて聞かされたが、一人一人が持つ、他人と違うことを裏付ける特殊な能力のことをそういうのだという。

 エグモントは瞬速剣技、アメリーは愛嬌というスキルを有していると話してくれた。

 スキルの中には将来の活躍が確定するようなものもあるようで、両親は口には出さないが、俺にそのようなスキルがないか、と期待しているのだ。

 そして、エグモントはハガキほどの大きさの薄いプレートを包から取り出した。

 これを翳すと、名前や年齢、そしてスキルが浮かび上がるというのだ。

 エグモントは優しい目をして、俺を仰向けに寝かせて、プレートを翳した。

 神は俺に力を与えると言った。

 ならば、最強のスキルを与えてくれていることだろう。

 俺は目を瞑って待った。


「こんなスキル見たことも、聞いたこともない」

「どういうこと、エグモント?」

「お前も見ればわかるよ、ほら」


「「絶対正義?」」


 どうやら、俺のスキルは訳の分からないものらしい。



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