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絶対正義は異世界警察にいる  作者: 外山内川
第一章
1/4

プロローグ

初投稿します。

毎日更新は出来ないと思いますが、なるべく間を空けずに更新していきたいと思いますので、楽しく読んでいただけたらと思います。

 俺は警察官だ。

 交番勤務は三年目に突入し、堅苦しい紺色の制服も大分、板に付いてきた。

 二流の大学を卒業したから、キャリア組に入れる訳もなく、そもそもそんなハイレベルな試験を突破する意味も無かった。

 俺は生まれ育ったこの地元に恩返しするつもりで、この仕事を選んだのだから、交番勤務はその目的に適していた。

 やりがいだって感じている。


「お巡りさん、おはよう!」


「おう! おはよう!」


 顔見知りの小学生の女の子が、交番の中に入ってくる。

 彼女はハーフで、日本人離れした容姿をしている。自分が小学生のときに、クラスにこんな子がいたら真っ先に好きになっただろう。ぱっちりとした瞳が目を惹く。


「朝から大変だよね、お巡りさんも。同じ給料なら、もっと労働環境のいい職場もあるんじゃないの?」


「随分、大人びたこと言うじゃねえか。小学生には関係無いだろ」


 俺が笑って言うと、女の子は頬を膨らませる。


「関係無くないもん! わたしが一六歳になったら結婚するんだし、その位考えて当然でしょ!」


「へいへい」


 あるきっかけで懐かれてから、彼女は『結婚』という言葉を繰り返し、俺に使うようになった。

 嬉しいが、小学五年生が言うことを真に受けたら、俺は何年彼女のいない生活を送らなきゃいけないんだ。

 しかし、面と向かって断れない事情もある。

 この子は、友達がいない。

 ひとりぼっちと言うよりは、いじめにまで発展している。

 可愛くて大人しそうな子が、性格の悪い子にターゲットにされるのは俺のいた頃と変わらないらしい。

 だから、俺とこうやって会話をすることがこの子を元気付けてあげられているなら、これを壊すのは本望じゃない。


「お巡りさん……あのね……最近、ちょっと怖いことがあるの」


「どうした? 学校で何かあったのか?」


 女の子の表情が突然曇る。


「違うの。最近、変な人が通学路に立ってるの……」


「どんな奴か思い出せるか?」


「……うん。二〇代の、男の人で、いつもシルバーのジャージを着てて、いつも小学生とか中学生が通る度に顔が怖くて……」


「身長はどのくらい? 俺より低い? 高い?」


「低いかな? 一〇センチは低いと思う」


 俺が一八〇センチだから、一七〇か。平均身長だな。


「よし、教えてくれてありがとうな。これでもう大丈夫だから。警察署の連中も出て来てパトロールしてくれると思うから、安心してくれ」


「今日は? 誰かパトロールしてくれないの?」


「俺がするよ。そろそろ先輩が出勤してくるし、出ても構わないから。よし、今日は二人で学校行こうか」


「やった! 初めてのデートだね!」


 登校するのがデートになるのか?

 だが、この子の表情が明るくなったから良しとしよう。


 俺は女の子と一緒に通学路を歩いた。

 この付近は大通りが渋滞したときの迂回路になっているため、交通量が多く、子供たちにとっては危険だ。

 本当はもう少し保護者のパトロール要員がいてくれた方が安全だが、最近は共働きの家庭が増えているので、それは難しい。


 突然、右手に柔らかい感触がする。

 女の子が手を繋いで来たのだ。


「ど、どうした?」


「だって、道が狭くて危ないから」


「理由になって無くないか?」


「ふん! いいじゃない。減るもんじゃないでしょ」


 そりゃそうだけど、あの交番のお巡りさんロリコンなんだよ、って小学生や近所の方達に噂されそうで怖いんだけど。

 上に連絡が行ったら、飛ばされることもあり得る。


「ねえ」


「うん?」


 彼女の、手を繋ぐ力が少し強くなる。


「この辺りなのか? その男がいるのは?」


「うん。いつもはあの電信柱の陰に隠れてる」


「大丈夫だって。何かあっても絶対俺が守るから。俺、剣道三段だし柔道も二段だぜ」


「……ありがとう。ほんとに」


 本当に怖かったのだろう。彼女が、素直に感謝の言葉を述べるなんて、滅多に無い。

 絶対に守らなきゃいけない。


「おい、お前だよお前! そこの警察官、てめえだよ!」


 後ろから、上擦った男の声がした。

 俺は嫌な予感がして、腰に掛けてある警棒に手を遣った。

 振り返ると、女の子の証言通り、シルバーのジャージを着た男が立っている。


「お前、その子の何なんだよ!? 手まで繋いじゃってさあ!」


「何でもない。あまり大きい声を出すなよ、近所迷惑になるだろ」


「うるせぇ! 嘘ついてんじゃねえよ! 何でもないはずないだろ! 早く俺の彼女から離れろよ!!」


 最後の一言で、背骨がじんじんする感覚に襲われた。

 この男はただの露出狂とかいう変質者じゃない。

 自分の妄想が現実世界に侵食しているような奴だ。

 理性を説いても、大抵聞き入れてはもらえないようなタイプだ。


「ほら、早く離れろよ! これ見ろ、銃だぞ! 死にたくないなら離れろよ! ほら大丈夫だよ、こっちにおいで。一生俺と一緒に暮らそう? ね?」


 男が手に持っているのは拳銃だ。しかし、俺の目が間違っていなければあれはモデルガンだ。放たれたとしても、それは弾丸では無いはずだ。


「いや! あなたなんかと暮らす訳ない!」


 強く、少女は拒絶する。


「何だよ……みんな、俺の敵かよ。じゃあ死んでくれ。敵なら死んでくれよ! なあ! そうだろ! 敵を殺すのは当たり前だよな! テレビのヒーローもみんなそうしてるもんな! それが普通だもんな」


 悪魔に取り憑かれたような顔をして、男は銃を前に突き出す。手元は震えて、照準は定まっていない。

 何を考えているのか、そんなことは一生わからないままだろう。

 俺は女の子を庇うように立つ。


「だぁぁぁぁから、離れろってぇ!!!」


 男が唸るように叫んだ直後、パンッと銃口からガスが抜ける音がした。

 その音が、モデルガンから放たれるにしては重かった。

 激痛が俺の腹部を襲った。

 麻酔無しで盲腸の手術を受けているような激痛だ。

 ああ、あのモデルガンは改造してあったのか。

 妙に納得した後、この痛みは弾丸が腹を抉ったことによるものだと気付いた。

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 少女は叫んだ。きっと、彼女が人生で発した声の中で、一番大きい声だ。

 叫べているのだから、銃弾が貫通して彼女に当たっているリスクは考えなくてもいい。

 それに、これだけ大きい音や声が聞こえれば、近所の人達が通報してくれるはずだ。

 彼女は助かる。


 男は初めて人を撃ったという事実に興奮して、また引き金を引こうとしている。

 俺も撃つか。

 このままでは他に登校してくる生徒や、住民に被害が及ぶ可能性がある。

 俺は力が抜けていく足を踏ん張って、拳銃を取り出し男に向けた。

 男はそれに気付くと、焦りを見せ、また撃とうとする。が、俺が奴の肩を撃ち抜く方が速かった。

 続けて、左足の関節に発砲。

 これで、新たな被害者が出ることは無い。

 そう思った瞬間、体中の力が抜けた。

 ひくひくとした呼吸に変わる。


 ――死ぬんだな。


 死という剣呑な言葉が、黒々とした響きを持って脳内を駆け巡る。

 駆け寄る人々が叫ぶ声が薄くなる。

 それなのに、少女の声は鮮明に聞こえる。


「死なないで! わたしのために死なないでよぉ!」


花恋(かれん)ごめんな……お前と結婚できそうにないわ」


「喋んなくていい……喋んなくていいから! わたしのことなんてどうでもいいから諦めないでよ! 将来は刑事になるって言ってたじゃん!」


 花恋の声さえ薄れ始める。

 刑事か、そういや小学生の頃からなりたかったなあ。

 この前、実家でそんな作文見つけたっけ。


 どうでもいいことが浮かんでは消える。

 走馬灯は、こういうことを表す言葉だったのか。

 遺言くらいは自分で選ぼう。

 張り付く喉を、咳き込んで無理矢理開かせる。


「いつか、どこかで、結婚しようぜ」


 俺はどうやらロリコンだったらしい。

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