ガチャる?YES/NO?
「では、ここにダンジョンを作ろう。
作る階層は一階層のみでいいのだな?」
「そうね、それ以上作ったら魔物や罠を充分に配置できないでしょう。」
「それもそうだな。」
「で、ダンジョン設置には何ポイント魔力を使うの?」
「最もシンプルな迷宮で五百ポイントだ。」
「大金だね!」
一気に貴重な魔力が半分になってしまうのだ。
ちょっと緊張する。
とはいえ使わない訳にはいかないのだ。
私は意を決してキールを促した。
それに頷き返してキールは天を仰いで両手を大きく広げ叫ぶ。
「邪神カーミラ様!カタログを下さい!!」
カタログ?
頭にクエスチョンマークが浮かぶが答えはすぐにでた。
『おお、可愛い不遇の息子よ。』
「何!?」
「尊きカーミラ様のお声だ。
本来人間ごときが聞くことなどあり得ないのだぞ。」
あってたまるか。
私の内心を他所にキールは片膝をつき頭を下げる。
さながら騎士のごとく。
私は一人横で立っている。
『おお、可愛い不遇の息子よ。人間を服従させたのか。
力の無いお前にしてはよくやった。』
「もったいないお言葉!」
『その人間を使い世界中から妾の好む絶望と恐怖を集めるのだ!』
『はい!お任せください!』
『では、その力をくれてやろう!』
天井から薄い箱が落ちてきた。
「ありがとうございます!」
キールはその箱を大切そうに抱える。
『では、今度こそうまくやるのだぞ』
その言葉を最後に声は聞こえなくなる。
「それ、なんなの?」
「これはカーミラ様のお力で、魔力をどの程度消費すれば何が出来るのかが書きつけられているありがたい石碑だ。」
「石かそれ?見せて」
私はキールから薄い箱をとりあげる。
ってかこれ、デジタルパッドにしか見えないんですけど?
なんで前世のテクノロジーの集大成がここにあるのか。
起動して中を見てみると、検索画面に切り替わる。
これまたクルクル先生とそっくりだ。
試しに『ダンジョン』と入力してみた。
すると検索結果が複数出てきた。
しかし、検索結果をいくらタッチしても『権限がありません』と出てしまい何もできない。
どうやらこれが使えるのはダンジョンマスターたる彼のみのようだ。
「私はカタログが無くても何をするのに何ポイント必要かわかる。
しかし、それがないとダンジョン内部では魔法が使えない。」
「…内部では?」
「外部では使えた。…使えなかったら死んでた。」
「本当、危ない橋を渡っていたのね。」
つくづく運が悪くていい奴だと思う。
しかし、これは一種の制約だ。
力をつけたダンジョンマスターが邪神カーミラに逆らったらカタログを取り上げるのだ。
そうすれば、万能に近いダンジョンマスターは途端に弱体化する。
こうやってカーミラはダンジョンマスターを縛ってぼったくりで絶望と恐怖を掠め取っているのだろう。
「さて、このカタログに書いてある一番消費ポイントが少ないシンプルな迷宮でいいな?」
「ええ」
私は頷く。
「じゃあ、やるぞ。」
彼は己の指でカタログ最初のページに書きつけられた『迷宮:シンプル』を指で選択する。
すると画面に『迷宮:シンプル』の説明書きが書き連ねられ、最後に必要ポイントと共に『支払いますか?』の一文共にYES/NOボタンが出現する。
キールがYESのボタンに触れた瞬間にぐにゃりと目の前の景色が歪んだ。
だが、それはほんの一瞬。
瞬きをした次の瞬間には冒険者ギルドの地下とは思えないほど広い…まさしく『迷宮』が広がっていた。
「おー!!」
壁も床も天井もレンガで舗装されている。
明かりがない為、暗くて奥がよく見えない。
しかし、歩けない程ではなかったので私は珍しさも手伝ってキョロキョロも辺りを見回しつつ周辺を探索する。
どこまでいってもレンガの迷宮であり、曲がり角は全て九十度の直角となっている。
「これ、ゴールはどこなんだ?」
私は明らかに地下室より先に進んでふと疑問に思う。
何せ一階層しかないのだ。
ゴールなんて無いに等しい。
スタート地点イコールゴールだろう。
これぞ正しく迷宮だな。
そう思い私は後ろのキールに話しかけようとして、キールがいない事に気付く。
「…あれ?」
しーーーんとするダンジョン。
背中越しには私が辿った道が薄暗いなかにぼんやりと浮かび上がっている。
そう、この道を歩いてきたのは確かだ。
しかし、どのように歩いたかは忘れた。
………え?職場で迷子!?
ちょっと洒落にならないから!
「〜〜キール!!」
「呼んだか?」
「うわ!」
すぐ真横にキールが現れて大きく飛び上がる。
今の今までそこにいなかったよね!?
「ダンジョン内に置いて私は自由だ。
移動も望んだ場所にタイムラグゼロで行く事が出来る。」
何それ!ずるい!!
「ずるいと言われてもな。」
「私は徒歩移動な訳!?この迷宮を!?」
従業員用の通路を所望する!!
「それも魔力次第だな。」
「…因みに何ポイント?」
「転移装置に千ポイント。」
「支払えるか!!」
現状不可能じゃないか。
「ならばせめて…」
言って彼はデジタルパッド…もといカタログを手渡した。
「検索画面を閉じると作成したダンジョンの地図になる。」
わぁい!これで迷わないね☆
「って思うかぁぁぁ!」
迷わなきゃいいってもんじゃない!
自宅からダンジョンが徒歩一分でも執務室にたどり着くまでどの程度の時間を費やすのか!
絶対ダンジョン内での移動方法を模索してやる!
「まあ、移動はおいおい考えるとして、その地図は現状只の地図だが、仮にもカーミラ様のお力で描かれた地図だ。他にも機能がある。」
「へえ?」
「まず、地図は自動で更新される。」
成る程、階層が増えるなどするたびに地図を更新していけば迷うことないと。
「そして、ここに五十ポイント支払うと地図上で自分の現在位置がわかるようになる。」
へえ…。GPSみたいなものか。
無料じゃないのがえぐいわね。
「更に百ポイント追加で支払うと魔物と罠の位置がわかる」
そうか、この地図このままだとどこに魔物がいるかわからないのか…。
その機能は安全の為に必須だ。
「更に百ポイント追加で支払うと侵入者の現在位置がわかる。」
それも必要だ。
冒険者とばったり出くわしてダンジョンマスターの手先とバレたら殺される。
侵入者と出くわさない為にも必要だろう。
「更に追加で百ポイント支払うと彼らの現状が音声付きの映像でわかる。」
動画機能が追加された!
やっぱりカタログというよりかはデジタルパッドだ。
「まあ、私はその地図がなくても全て把握出来るのだがな。」
ダンジョンマスターにはこの機能不要なのか!
…じゃあ、なんでそんなことカタログは出来るんだ?
「さあ?」
首を傾げる仕草をするが、腐りかけのおっさんがやっても可愛くもなんともない。
カタログの機能が存在するのは、それを必要とする人がいたから。
誰も必要としなければそんな機能は存在しない。
ならば、かつて私のような雇われ者がいたということではなかろうか。
「あるかもな。」
キールも頷く。
「さて、ダンジョンが出来たことだし、魔物や罠を配置しよう。」
「ふむ。」
私は検索画面を起動して魔物と打ち込む。
ずらーーーーっと並ぶ無数の魔物!!
こんなに魔物がいるんだ!!
あ、編みかけになってる魔物もいる。
これは…。
「必要ポイントを私が持っていないからだな。」
成る程、購入に足りない魔物はそもそも選択が出来ないようになっていると。
私は指を滑らせて画面をスクロールさせる。
あれ?
魔物中にポイント的には購入可能な奴も編みかけになっている奴がいる事に気付く。
「ね、これはなんで買えないの?」
「……このダンジョンは雪山ではないからな。
イエティは買えない。」
「そうか、このダンジョンじゃイエティを飼う環境じゃないものね。」
そういえば複数並んでいたダンジョンの中に『雪山:極寒』とかいうのがあった。
そういうのを設置すれば買えるのかもしれない。
「と、なると今の手持ちで買える魔物は…」
絞り込み機能があったので手持ち魔力五百ポイントで買える魔物を抽出する。
すると出てきたのは…
『ゾンビ:一体十ポイント』
『スケルトン:一体十ポイント』
『ゴースト:一体:十ポイント』
『スライム:一体二十ポイント』
『ゴブリン:一体:二十ポイント』
『コボルト:一体二十ポイント』
『オーク:一体三十ポイント』
『ガーゴイル:一体五十ポイント』
『グレムリン:一体七十ポイント』
『スプリガン:一体百ポイント』
…結構いるな。
最高値の魔物はレッサーデーモンでぴったり五百ポイント。
まあ、さすがに出さないけど。
って、ん?
私は検索画面の端にあるバナーがチカチカしているのに気付く。
広告かよと思い無視しようと思ったが、考えたら広告なんてある訳ないのでタッチしてみた。
すると画面が切り替わる。
『一日一回運試し!運が良ければドラゴンが当たる!』
の煽り文句と一緒に福引のガラガラが出てきた。
「何これ?」
「ああ、カーミラ様のお慈悲で一日一回無料で魔物が手に入るのだ。
何が当たるかは運次第。
しかし、大抵はゾンビなどの最弱魔物しか当たらぬ故、期待してはならないぞ。」
「まあ、無料だし。」
ここはひとつ試してみるか。
私はダンジョンマスターを除いて魔物を見た事がない。
とりあえず、魔物とやらがどんなものなのか確認したいのだ。
「よし、早速ガラガラを回してみよう。」
私はガラガラをタッチしてみた。
権限がないと出るかと思ったが無料だからか、『ガチャる?YES/NO』の文字が浮かび上がった。
やった!私がガチャれる!
私はワクワクしながらYESのボタンを押したのだった。