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通勤時間は約一分

「待て!さすがにそれは早急だろう!」

キールが慌てて私を止めにはいる。

「冒険者ギルドにダンジョンだって!?

敵陣のど真ん中にダンジョンを作る馬鹿があるか!」

人外に常識をとかれた。

しかし、常識に囚われていては節約は出来ない。

節約上手としてテレビに出る主婦はいつだって常識に囚われない新しい節約方法を持っていた。

とはいえ、私も危ない橋を渡る気はさらさらない。

まずは冒険者ギルドを調べるところから始めるつもりだ。

何せ私は冒険者ギルドについて何も知らないのだから。

貴族令嬢たる私にとって冒険者は姉の仕事だったという認識程度であり、ギルドなるものが具体的に何をする場所なのかは全く知らない。

前世に至ってはギルドそのものがなかったのだ。

これでギルドに詳しかったら怖いだろう。

まあ、冒険者ギルドと銘打ってるくらいだし、冒険者がうようよいるのは間違いなかろう。

その冒険者の量が管理不能レベルで多かったり質があまりに高かったらやめよう。

それくらいの分別はある。



そして翌日、私達は早速冒険者ギルドにいた。

冒険者ギルドは昨日外見だけチラ見したが古い建物だった。

近くに商人ギルドがあるのだが、向こうの方が新しいし、大きいし、立地もいい。

対するここは、どことなくジメっとしていた。

一応ここも王都の一等地にあたるんだけどな…。

同じ一等地でも質が違うのかもしれない。

まあ、見た目より中身よね。

そう思って私達はギルドの門をくぐって…絶句した。


中は予想通り古めかしかった。

奥に受付があり、狭いながらも端っこには酒場のようなものがあった。

そこは予想通りである。

予想外だったのは人がいないことだった。

冒険者がいないだけではなく、受付にも酒場にもいない。

これでは偵察の意味がない。

「今日は休みか?」

「…だったら扉は開かないでしょう。」

私は言って誰もいない理由を考える。

単に時間が早かったとか?

「…もう、十時だぞ?」

…逆に遅く来すぎたとか?

「まだ十時だぞ?」

…これはもう認めるしかない。


冒険者ギルドは全く栄えていない!!


ここは天下の王都だよ!?

どうしてこんな閑古鳥が鳴いてるの!?

唖然としていると奥から人が出て来た。

片手にバケツ、片手にモップを持った定年間近なパンチパーマのおばちゃん。

エプロンが一昔前に流行ったフリフリのやつ。

私達の来店に気づいてやってきたというより、掃除しようと思って出てきたら私達と出くわしたという感じだ。

おばちゃんは私達を見て顔を顰める。

そして、バケツを置いて鼻をつまむ。

「くっさーーー!ちょっと!ここは冒険者ギルドだよ!

あんたみたいな浮浪者の溜まり場じゃないんだ!

出てっておくれ!!」

客商売とは思えない態度で私達を威圧する。

しかし、彼の腐敗臭は事実なのだ。

「キール、一度貴方は外に出て。」

「しかし…」

「情報収集は私の方が得意だよ。」

小声でささっと相談してキールを外に追いやる。

扉が閉まり彼が見えなくなったところで再度おばちゃんをみる。

「なんだい?嬢ちゃんはうちに用があるのかい?

場所間違ってないかい?

ここは冒険者ギルドだよ?」

「そんなに念を押すほど来客が珍しいの?」

「ああ、二週間ぶりに客がきたよ。」

言って鼻から手を離して、普通に掃除を始める。

もう、商売する気がないようだ。

「えっと、なんでこんなに人がいないわけ?」

私の問いかけにおばちゃんは手を止めてやれやれと肩を竦めた。

「あんた、ここがどこだかわかる?

天下の王都様だよ?王国騎士団直々の加護下に置かれたこの町に一体どんな魔物がやってくるってのかね?」

…あ。

私はようやく合点がいった。

この世には戦うことを生業としている人達が三種類いる。

冒険者、傭兵、騎士だ。

傭兵は国から国に戦争の匂いを嗅ぎつけて渡り歩き人を斬り殺すことで糧を得る。

それに対して冒険者は魔物を狩る事で糧を得る。

この二つの職業は腕さえあれば…いや無くても誰でもなれる。

名乗った者勝ちの商売だ。

対して騎士。これは違う。

彼らは国が認めた実力者、言わばエリートだ。

確かなるには学力試験を受けて実技試験を突破しなくてはならなかったはず。

勿論、なった後も日々を訓練に費やしている。

玉石混交の冒険者や傭兵とは格が違うのだが、そんな彼らのお膝元が、ここ王都。

エリートの中のエリートだけが王都にて任務にあたっている。

彼らの任務は王都、或いは国家の安全確保。

安全を脅かすものならば、たとえ魔物だろうが人間だろうが選り好みせず、討伐していく。

…そう、冒険者と獲物がかち合うのだ。

片や依頼を出さねば動かない上に実力が不確かな冒険者。

片や依頼を出さずとも常に王都周辺を巡回し団体行動で魔物を討伐してくれる実力者達。

まあ、冒険者ギルドが廃れていくのも道理である。

「…それでも騎士団が手の届かない細やかな依頼を受けるとかさ…」

「そんな依頼あるの?」

「………護衛とか?」

「王都周辺は隣町まで含めて騎士団の領域で下手に冒険者が仕事をしようものなら苦情がくる。

更には危険地域に踏み入れる必要がある場合も騎士団に依頼すれば無料で護衛をしてくれる。」

…隙間ない!

騎士団凄い!!

これは冒険者を雇う必要性が全くない!!

冒険者を一人雇うのもそれなりにお金がかかる。

姉が結構稼いでいたところを見ると腕がよければ一攫千金ものなのだろう。

それに対して騎士団は無料!

騎士団を雇うお金は税金に含まれるのか?

ならば、騎士団を選ばなくては損だろう。

誰しも普段支払ってる税金は少しでも回収したいものだ。

「わかったら、掃除の邪魔だよ、お嬢ちゃん。」

どいただいたーと言わんばかりにモップをかけてくる。

「ちょ、まって!確か不動産屋が冒険者ギルドの二階が空いてるって言ってたんだけど!」

「ああ、賃貸に出してはいるね。

あと、地下も空いてるよ。…物置になっててここ数年誰も出入りしてないけど。」

「二階、地下も見せて貰っても?」

「あいよ!」

言って鍵を受付の引き出しから抜き取ると投げてきた。

「好きに見な!」

え!?フリーダムだな!

とはいえ、勝手に見れるのはラッキーだ。

「ねえ、さっき追い出した男にも見せたいんだけど。」

「はあ?あの臭い男が住むのかい?」

「違うよ。住むのは私。ただ、出資者が彼なんだ。」

「ええ?あれは浮浪者じゃないのかい?」

「意外と金持ちなんだよ。」

「はー、じゃあなんだってあんな汚いのかね?」

「さあ?だけど金持ちって変人が多くない?」

「あー、そうかもねぇ。」

適当に言ってみたら金持ちの変人に知り合いでもいたのか、おばちゃんは頷いた。

「まあ、好きにしな。」

許可が出たので私はキールを呼ぶため外に出る。

ギルドのすぐ横で体育座りをしているキールを発見。

…いい年したおっさんが体育座りとか本当やめて貰いたい。

「どうだった?」

キールが私に気づき声をかけてくる。

「手練れどころか新人さえもこのギルドには居着いていない事が判明したわ。」

「それをギルドと呼んでいいのか?」

「さあ?そんなことより、物件を確認しましょう。

狙いは地下よ。数年誰も出入りしてなかったみたいだから。」

「それは都合がいいな。」

「でしょう?」

しかも、そこに決めたら私はギルドの二階に住む。

職場が徒歩一分なのは超魅力的だ!

私達はまず、ギルドの受付の横手にある階段を登り地下に向かう。

もう、階段を下るだけで埃が舞う。

この埃の積み上がりよう、数年誰も出入りしてないは嘘ではなさそうだ。

地下に到達したらすぐ目の前に扉。

古い木製の扉であり、極々ありふれたドアである。

私は鍵を開けてキールと共に中に入った。

部屋はそれなりの広さがあった。

まあ、一階が曲がりなりにもギルド兼酒場なのだ。

これくらいの広さがあって当然か。

「結構物が多いけど、これってダンジョン設置したらどうなるの?」

「ダンジョンに取り込まれる。」

「…取り込まれるとどうなるの?」

「使えるものは使えばいいのでは?」

つまり、強制徴収とな。

殆どガラクタだな…。

あ、でもこの机と椅子は職場に欲しいな。

あと、この棚も書類整理に使える。

文房具もあるし、ロッカーもある…。

…ってこれ、普通にギルドが運営されていたら使うべき物ばかりじゃないか!

数年単位でほったらかしってどういうことだよ!

「….まあ、我々が有意義に使えばいいだろう。」

「そ、そうね。」

これらのガラクタはダンジョン設置後に仕分けして使わない物は売るなり捨てるなりしよう。

と、いうかぱっと見よくわからないものもある。

「で、ここでダンジョンって設置できそう?」

「設置自体は問題ない。しかし…」

「しかし、何よ。」

「本当にここにダンジョンを設置しても平気なのか?

すぐに討伐されたりしないか?」

「可能性は限りなく低いわね。」

私は言う。

王都民は基本魔物の脅威があれば騎士団に頼っているみたいだ。

つまり、ここは冒険者ギルドとは名ばかりの単なるビルである。

ここにダンジョンを設置しても数年は誰も入って来なかったことを鑑みて明日にもバレるという事もない。

ダンジョンを整える時間もたっぷり取れるのは嬉しい限りだ。

そして、ダンジョンの存在が明らかになってもまずは冒険者が来るだろう。

いきなり彼らが騎士を頼るはずもない。

彼らにも面子というものがある。

それに、冒険者と王家は不干渉だと聞いた。

何処でも自由に魔物を討伐する権利、それによる国内通行税の免除の代わりに王家は彼らを国民と見做さないという暗黙の了解があると姉から聞いた事がある。

どこでどのような死に方をしても王家は責任を取らないと言う事だし、他国で犯罪に巻き込まれても救援はしないということだ。

そんな関係にある為、冒険者ギルド内に設置したダンジョン破壊の為勅命が降ることもないだろう。

あとは勇者だが、生憎そんな者がいるのかも知らない。

いたら出会うかもしれないが、それはすぐではないはずだ。

と、言う事をざっと説明する。

「なるほど…。懸念事項は勇者だけだが、勇者の消息がわからない以上考えても無駄か。

あれから三百年も経ち、世の中平和になったのだ。

もしかしたら、勇者などという者は既に死んだ奴以降この世界に降臨していないかもな。」

「そうそう。」

「では、私はここにダンジョンを開く。」

「あと、二階の確認。」

「何故?」

「そんなもん、私の自宅になるからよ。」


冒険者ギルド二階賃貸物件

王都一等地築百年風呂無しワンLDK。

徒歩十分圏内に商人ギルド有り。

徒歩十分圏内中央広場にて毎日市場開催。

西向き日当たり不良

家賃月額銀貨五枚


とりあえず私の家も決まりました。




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