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2時間目 俺氏、ついにペットになる

 教室中がガヤガヤしている。それも無理もない。今、目の前で自己紹介している女、潮来 雫が俺のことを痴漢だと言い放ったのだから。


 だが、当然俺は潮来に痴漢などした覚えはない。何しろ、電車の中ではほとんど目を瞑って俯いていたのだ。


 潮来はふざけた自己紹介を終え、席についた。流れ的に次は俺が自己紹介をしなければならない。

 俺はかつて無いほどに浴びせられた視線の中、恐る恐る立ち上がる。


 周りからは「痴漢とかヤバくない?」とか「変態と同じ空間で1年過ごすとか無理なんですけど」などとコソコソ話す声が聞こえる。

 既に痴漢扱いされているようだ。


 そう思われるのも無理もない。潮来はこの上なく美人であるのに対して、俺は暗い陰湿な風貌の人間であるからだ。もし俺が美少年であっても、痴漢だと疑われてしまえば犯罪者のレッテルを貼られてしまうだろう。


 女が痴漢されたと言えば、犯人だと疑われた男は犯人でなくても犯人であるかのように扱われてしまうのだ。

 ならばここで俺がとれる行動は普通に自己紹介をし、自分がなにもしていないことを主張すること以外にない。




久慈 真(くじ まこと)といいます。里野中学校出身です。中学時代、部活動には所属してませんでした。みなさんと仲良くやっていけたらと思っています。よろしくお願いします。そして、俺は彼女に痴漢などしていません。以上です」




 俺は生まれて初めてこんなに長い自己紹介をした気がする。もっとも、最後のは自己紹介とは言えないが。


 静かに着席し周りのクラスメイトの様子を見てみると、やはり先ほどと同じ空気のようだ。俺の否定は全く信じられていない。


 自己紹介は着々と進んでいったが、全く耳に入ってこなかった。俺は至って冷静であるかのような様子を演じているが、内心は焦燥感に見舞われているのだ。


 高校が始まって初日からハブられるかもしれないのだ。焦らないわけがない。何せ、俺のことを誰も知らないところで新しい人生を送ろうと思ってこの高校にきたのだ。


 自己紹介が一通り終わると、丁度入学式の始まる15分前になっていたので、クラスメイトたちは2列に並び、体育館へと移動を開始する。

 移動の際、俺は明らかに他の生徒たちから避けられていた。これによって冤罪をかけらた人の気持ちが痛いほど分かった気がする。


 日立野先生はというと、潮来の自己紹介が終わると同時に気絶してしまい、教卓の前の席に着いていた生徒によって保健室に運ばれていた。





 ◇◇◇◇◇◇





 入学式が終わり、教室に戻ってから申し訳程度のホームルームが行われた後そのまま放課となった。俺は何としてもあの女、潮来 雫に問い正さなければならないことがあり、彼女に話しかけようとしたのだが……。




「久慈君と言ったかしら。放課後残ってもらえる?」




 他でもない潮来のほうから声をかけてきたのだ。俺が声を掛けたときは無視し続けたくせに。



 潮来はクラスメイトが全員出ていくのを確認すると、こんな言葉を発してきた。



「あなた、なにか私に言うことがあるんじゃないの?」



 俺はその問いに対し正直に答えることにした。



「ああ、ある。俺はお前に痴漢などしていない。にも関わらずお前のせいでクラスの奴らは完全に俺のことを痴漢だと思い込んでしまったじゃないか! どうしてくれるんだ!」



 俺は怒りを露わにし、言い放った。

 すると、潮来は


「あら、私はあなたに謝るよう促したつもりだったのだけれど」


「……は? 謝る? ふざけんのもいい加減にしろよ!」


 俺の怒りはもう頂点にまで達していた。


「だって、あなた私を無視したじゃない」


 潮来は淡々と言葉を発する。


「……は? 無視? 俺が話しかけてたのを無視したのはお前だろ?」


 俺は潮来の言葉が全くもって理解できなかった。


「あれは、お返しよ。私が助けを求めているのに無視したのはあなた」


「た、助け?」


 俺は電車の中ではほとんどの時間を目を瞑って俯いていたはずだ。助けを求められた覚えなどない。


「ええ、そうよ。私が「痴漢されているから助けて」と、スマホに打ち込んだ画面をあなたに見せたのに強く目を瞑って俯いたじゃない」


 電車を降りるときにした嫌な予感はこのことなのだろうか。そんな気がしてならない。


「違う! そもそも俺はお前に助けを求められているなんて気付かなかったんだ」


「気付かなかった? ならなんであんなにタイミングよく俯いたりしたのよ」


「そ、それは……」


 言える訳がない。目の前で起こっていた別の痴漢から目を逸らしていたなんて。


 あのときの状況を簡単にまとめるとすればこうだ。潮来は俺とは別の男性に痴漢の被害に遭っていて、助けを求める文書をスマホに打ち込み、俺に見せてきた。


 だが、丁度そのとき俺は見知らぬ男性が痴漢の被害に遭っていることから目を逸らすために目を瞑って俯いた。

 すなわち俺は、一瞬にして2つの痴漢事件を見て見ぬふりをしてしまったということらしい。


「それは? なに?」


 潮来は俺に問い詰める。本来なら俺が問い詰めるほうだったはずなのだが……。


「ほ、本当にお前を無視した訳ではなくて、じ、事情があったんだよ。うん」


「事情って何よ。助けを求める女子高生など気にならないほどの事情なんでしょう?」


「そ、それは言えない」


 言ってしまったら俺は結局2つの痴漢現場を見て見ぬふりをしたゴミと化してしまう。


「そう。まあその事情はどうでもいいわ。でも気付かなかったとはいえ、私を助けてくれなかった。そうよね?」


「ま、まあそうだな。すまん」


「別に謝らなくていいわ。気付かなかったのなら仕方がないもの」


「じ、じゃあ俺が痴漢したというのも誤解だったとみんなに伝えてくれ。お前は助けてくれなかった当て付けに俺を痴漢にして仕返ししようとしたってことだろ?」


 俺は少しホッとした。もしかしたら冤罪から逃れられるかもしれない。


 だが……。




「嫌よ」




 潮来は短く冷淡に言い放った。


「……なぜだ。お前を助けられなかったのは気付かなかっただけだと言っただろう?」


「確かにそうね。でも私は助けてもらいたかった訳じゃないの」


「……は?」


 俺は潮来が言っていることが全く理解できなかった。


「私はただペットを探していただけ」


 この女はさっきから何を言っているのだろうか。分かる人がいるならば是非ともご教示願いたい。


「ペ、ペット?」


「そうよ。簡単に言えば私のパシリとなる人のことよ」


 さらっと言っているが中身はとんでもないことがお分かりいただけるだろうか。


「そ、それでそのペットとやらは見つかったのか?」


 俺は恐る恐る尋ねてみる。


「ええ、見つかったわ。他でもないあなたよ」


「ふ、ふざけんなよ! なんで俺がお前のパシリなんてしなきゃいけないんだよ!」


「別にペットにならなくてもいいわよ。その代わりあなたは3年間痴漢をした犯罪者として過ごすことになるけれど」


「クッ……」


 それを言われるとどうしようもなくなってしまう。いくら痴漢をしていないとはいえ、潮来がされたと主張し続ければしたものだと他の奴らも思い込むだろう。最悪の場合警察に引き渡されることすらあり得る。本当に冤罪というものは末恐ろしい。


「さあどうするの? 私のペットになるのか。それとも犯罪者として3年間過ごすのか」


「1つ聞いてもいいか?」


「ええ、いいわよ」


「もし俺がおまえのペットになったとしたらどんな風にこき使われるんだ?」


「別にそんなに酷いことなんてしないわよ。あなたの学校生活をめちゃくちゃにしようとかではないし。もちろんあなたがペットになってくれるなら痴漢は誤解だったってクラスメイトに説明するつもりよ。何してもらうかは後のお楽しみってことで」


「……信じていいんだな?」


「ええ、もちろん」


「分かった。お前のペットとやらになってやるよ」


 俺はかなりの不安を纏っていたが3年間痴漢と扱われるよりはマシだと思い、彼女のペットとなることにした。


「そう。嬉しいわ」


「だけどもう1つだけ聞いていいか?」


「しょうがないわね。なにかしら?」


「なんで俺なんだ?」


 そう尋ねると、彼女は少し含み笑いをして答えた。


「あなた電車で男性が痴漢されてるのを偶然見つけて、それで目を瞑って俯いたのでしょう?」


「お、おまえ分かってたのかよ」


「当たり前よ。ずっとあなたを観察してたのだから。それであなたに決めたのよ」


「どういうことだ?」


「私好みのペットだったって訳。最上級の育児なしのあなたがね」


 つまり潮来には俺のことはお見通しだったって訳だ。


「なるほどな。理解した」


「あら意外ね。素直に認めるとは思わなかったわ」


「いや、育児なしだってことは分かっているんだ。そう俺はダメな人間だ」


「それが分かってるなら十分だと思うわ。それと、1つあなたに嘘をついていたことがあるの」


「嘘?」


「私は別に痴漢の被害など受けていないわ」


「……は?」


 俺は目を点にする他なかった。


「だって私、痴漢にあったら速攻で殴っちゃうもの」



 簡潔にいうと俺はこいつにまんまとはめられたというわけだ。

 考えてみりゃそうだ。こんなに気が強い女が痴漢ごときを排除できないわけがない。完全に俺の失態だ。


「全部お前の思い通りだったって訳か」


「まあ、そういうことね。それとお前って呼ぶのやめてくれる?」


「じゃあなんて呼べばいいんだ?」


「雫様って呼びなさいっ」


 潮来はそう言いながら今までみせたクールな雰囲気とは打って変わって明るく笑いかけてきた。


 俺はその姿を見て潮来に、いやご主人様に惚れかけてしまっていた。

































2話目いかがだったでしょうか。やはり小説を書くのは難しいですね^^; これから精進していきたいと思います。


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