1時間目 とんでもない女がいたもんだ
この国、日本は男女平等ランキングで世界144ヶ国中111位という位置づけになっている。
これは先進国の中でも最低ランクの順位だ。
つまりこのランキングから世界的にみると、日本の男性と女性ではどちらか一方に優位な状況であり、優劣の差は大きく開いているということになる。
そして問題は男性と女性のどちらが優位であるのかということだ。
これについては十中八九、女性優位であるといって間違いないだろう。
例を挙げるとすれば、女性専用車なんかが分かりやすいだろう。
女性専用車というのは女性が痴漢の被害に遭うのを防ぐ為に作られた車両である。
女性を痴漢から守る為に対策を講じる。これ自体には何の異論もない。
だが、なぜ男性専用車というものを同時に作らないのか。
男性の女性に対する痴漢より、女性の男性に対する痴漢のほうが明らかに少ないからであるのだろうか?
確かにそれは間違いではないかもしれない。だがその比較が男性専用車を作らない理由とするのならば、その時点で男女差別が生じる。
女性に対する痴漢がほとんどであるかもしれないが、男性に対する痴漢も少なからずあるのだ。
そして、痴漢を恐れる女性がいるのと同時に、痴漢を恐れる男性もいるのだ。
そういう男性がいるにも関わらず、女性専用車しか作らなくていいのだろうか?
答えは否だ。
男性と女性という性別の区別がある前に、俺たちは人間だ。個人個人に特徴があり、好きなことや嫌いなことも多種多様に存在する。それが人間だ。
女性が痴漢を恐れずに済むようにする為に女性専用車を作る。ならば、男性も女性と同じ人間であるのだから、痴漢を恐れる男性がいる以上、男性専用車を作るべきだ。
これは俺の単なる幼稚な思想であり、至らぬ点も多々あるだろう。簡単に言えば、友達が持ってる面白そうなゲームを自分も欲しいと駄々をこねてる子供と同じだ。
だが、俺はその駄々をこねるべきなのではないかと思う。
というのも、今現在男性が女性に痴漢の被害に遭っているのを目の当たりにしてしまっているのだ。
俺の座ってる椅子の前に立つ、2人のサラリーマンの足の間から、スラっとした細い手がびくびく震えている男性の尻を揉みしだくのが見える。
女に尻を揉まれるとか男ならむしろ喜ばしいことかもしれないが、見ず知らずの女性に触られるのは男であっても嫌な気分がする人のほうが多いだろう。
椅子に座ってる状態であるので、男性の細かい特徴はよくわからないが、嫌がっているのだけは伝わってくる。
加害者の女性のほうは正直さっぱり検討もつかない。
というのも、その手が繋がる行方の先と思われる方向には3人ほど女性がいたのだ。少し強引に確認してみると、スーツ姿の新社会人、ラフな格好をしたおそらく女子大生、そして俺が今日から通う高校の制服を着た女子高生だ。
姿は確認できたものの、やはり細かい特徴までは分からなかった。
ここに座っていたのが俺ではなくて、正義感溢れる好青年だったりしたら、痴漢を止めることなど容易にでき、被害に遭っていた男性も救われたのであろう。
だが、生憎俺はそんな好青年とは全く正反対に位置する人間であるので、男性には申し訳ないが耐えてもらうことにした。
見て見ぬふりをするのは非常に心苦しいことだが、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。
俺は強く目を瞑り、その男性が心地よく生きれる社会になるように祈ることで罪悪感を消すことにした。
◇◇◇◇◇◇
しばらく電車の中で揺られていると、高校の最寄り駅に着いた。俺が足元に置いていた鞄を手に取り、立ち上がろうとしたそのときだ。
隣に座っていたこれまた俺と同じ高校の制服を着ている女が、俺に向かって黒い瞳が綺麗な目を鋭くしながら、周りなら聞こえない程度の小声でかつ冷淡に言い放った。
「最低」
そして、その女は長い黒髪をなびかせながら電車をかけ降りていった。
俺はそのなびいた髪に見惚れていたが、内心嫌な予感がしていた。
だが、なぜあの女は俺に最低だと言ったのだろうか。もし俺が痴漢を見て見ぬふりをしたことについて言っているのだとしたら、あの女だって同じことだ。
いくら考えてもあの女の発言について理解することはできなかった。
◇◇◇◇◇◇
今日から俺が通う高校は県内随一の進学校で、最寄り駅からは歩いておよそ10分のところにある。
俺と同じ高校の新入生と思われる人たちが桜満開の通学路をワイワイ友達と話しながら登校していたり、親と共に来ている人もいるなか、俺は1人モヤモヤした気分で登校した。
「入学おめでとう」と書かれた門をくぐり、クラスが発表されている掲示板のところへ向かう。
掲示板には人だかりができていて1、組から8組まであるクラスのなかで自分の名前を見つけるのは苦労すると思われたが、なんとなく目に付いた3組を見てみるとすぐに自分の名前を見つけることができた。
他の連中は同じ中学だった友達と同じクラスだったのか違うクラスだったのかで盛り上がったり残念そうにしていたが、俺の通っていた中学からこの高校にきたのは俺以外に1人もいなかったのでそそくさと教室に向かうことにした。
1年の教室は4階にある。1階は会議室など多目的室があり、2階は3年、3階は2年の教室となっている。
受験勉強ばかりしていて全く運動していなかったこの体はかなり体力が落ちていて、やっとの思いで4階までの螺旋階段を登りきった。
まあ、受験勉強をする前は体力があったのかと言われたらそういう訳でもないのだが。
1年3組の教室に着いて、俺は一呼吸おいてから扉を開けることにした。やはり初日というものは誰であっても緊張するものだ。
そして、ガラガラと音を立てて扉を開けクラスに入り、黒板に張り出されている座席表を確認することにした。クラス内ではもう既にグループができつつあるようで少し焦る。俺だってできるならば友達は欲しいのだ。もうぼっちはこりごりだ。
俺の席はラッキーなことに窓側の1番後ろというベストポジションだった。荷物を机の脇にかけ、椅子に腰掛けると前には見え覚えのある人が座っていた。
さっきの俺を最低呼ばわりした女だ。座席表に書かれていた名前は確か潮来 雫だ。
何故俺に向かって最低と言ったのか聞こうとしたのだが、潮来の話しかけるなオーラと俺のコミュ障が相まって話しかけることができないままホームルームの時間が来てしまった。
教室の前の扉から担任の先生らしき人が入ってくる。新人で緊張しているのだろうか歩き方がカクカクしている。
「え、えー。き、今日から皆しゃ……皆さんの担任となった日立野 芽衣でしゅ……です。新人ですが、せ、精一杯頑張るので、よ、よろしくお願いしましゅ…します!」
なんというか変な先生だ。茶髪のショートカットで結構可愛らしいのに、完全に萎縮してしまっているのでそれを台無しにしてる気がする。
さっきまでガヤガヤしていたクラスメイトたちも先生の自己紹介を聞いて、どう反応したらいいか分からず苦笑いしている様子だ。
「で、では入学式は午後からなので、午前中にやることもないですし、み、皆さんの自己紹介をしてもらってもいいですか?」
日立野先生はなんだか申し訳なさそうに出席番号1番の人にお願いした。
そして特に何も変わったこともない自己紹介が潮来の前まで続いたあと事は起きた。
「潮来 雫です。明野中学校出身です。部活は中学のころは吹奏楽をやっていましたが、高校では何もやるつもりはありません。そして最後に……」
潮来はそこまで自己紹介を終えた後、俺のほうをチラッと見た。なんだか悪寒がした。
「さ、最後になんですか? 潮来さん」
先生がそう続きを促すと、
「今朝、私の後ろの男子に痴漢されました」
「は?」
俺はそう思わず口に出してしまった。
初めてライトノベルというものを書いてみました。ルールとかいっぱいあって大変ですね^^; これからも投稿続けるつもりですのでよければブックマーク等よろしくお願いします!
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