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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
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09 大魔術師クレーメンス

 

 ユーリに行き先を聞いたら、家に手紙を送ってきた大魔術師の家が坂の上にあるんだって。

「セーデルフェルトが誇る大魔術師クレーメンス・ルーベルト・アルムグレーン公爵は、普段は王宮の魔術師塔にいるのですが、今は休暇で別邸で過ごしているのです」



 クレーメンス……名前長いよ! 覚えにくい。大魔術師で良いか。

 大魔術師って言うくらいだからきっと白髪に白ひげを生やしたおじいさんかな。どんな人か気になるけど、怖い人だったらイヤだななぁ。

 家に着くまでユーリが魔術を見せてくれた。



 ユーリが杖を振ると、空中にビー玉くらいの大きさの楕円形の黒い種が現れた。手品みたい!

 種に向けて杖を振ると、種の殻が割れ中から芽が出て小さな葉っぱをいくつもつけた蔓が現れた。蔦はニョキニョキと地面に降りていくと、蛇が這うようにするすると坂を登っていく。

「種からあっという間に成長させちゃうなんて、ユーリの魔術すごいね!」

「大したことではありませんよ」

 にっこり笑うユーリ。

 こんな魔術があっちの世界にもあれば、夏休みの自由研究は観察日記にして、チョチョイのチョイで終わらせられるのに。



 わたしとユーリが一定の距離を離れると蔓が坂を下りて戻ってくる。立ち止まると蔓も動きを止めて、先っぽに付けた葉をクルッとこっちに向けて左右にひらひらさせている。

 何この蔓、動きが面白い!

 わたしとユーリが来ないから首を傾げてるみたい。



「案内してくれるの?」

 数歩先で止まっている蔦に声をかけると、蔓が頷くように上下にくねる。

 しばらく蔓について坂を登って行くと、蔦が坂道をそれて茂みの中に入って行っちゃった。



「ユーリ、蔦がどこかに行っちゃうよ?」

 蔦を追いかけて早歩きしていたわたしは、後ろからゆっくり歩いてくるユーリを振り返った。

「何か見つけたのかもしれませんね。ミリィは入ってはいけませんよ。毒ヘビや毒虫がいる可能性もありますし、刺されては大変ですので」



 毒をもったヘビや虫が出なくても、チクチク痛そうな雑草をかき分けて中に入っていく勇気はないなぁ。

 もしチクチクバンバンが生息していたら、服や髪にひっつくだけじゃなくチクチクして地味に痛い。そしてあれは取るのが大変なんだよね〜。

「ここで待っていれば良い?」

「すぐに戻ってくると思うのでそうしましょう」



 ユーリが言ったとおり蔦はすぐに戻って来た。

 どこから見つけてきたのか、緑色の小さなカゴの中に木苺がたくさん入れて。

 あれ? カゴをよく見ると蔦自身が編まれてカゴになっているよ。

 蔦は三本に枝分かれして、真ん中の蔦がカゴになって左右の蔦がカゴを持って支えている。器用で協力プレイも出来ちゃうなんて知能が高い蔦だね。



「すごいね! この蔦、偉いんだね〜」

 しゃがみ込んで小さな葉を人差し指でそっと撫でると、蔦はカゴの中から木苺を取り出してわたしに差し出してきた。

「もらって良いの?」

 左右の蔦がお辞儀するように上下にくねると。カゴとなった真ん中の蔦も傾く。ぽろぽろと木苺が地面に落ちて慌ててカゴを元の位置に戻す左右の蔦。



 あはは、って笑ったら悪いかな。慌てちゃってるよ。面白いなぁ。

 葉っぱがちょっとくたっとしてるのは、木苺を何個か落としちゃって落ち込んでるからかな。それもとわたしが笑っちゃったからかも。

 わたしはもう一度木苺を持った蔦についている葉を慰めるように撫でてから、木苺を受け取った。

「笑っちゃってゴメンね、どんまい。これもらうね、ありがと!」



 見た目は木苺なんだけど、食べても大丈夫かなぁ?

「食べても害はありませんよ。どうぞ召し上がれ」

 顔に出てたのか、考えてたことを見抜かれちゃったよ。ユーリが大丈夫だって言うなら大丈夫そうだね。虫もいないし。

「いただきま〜す」

 もらった木苺を口に入れると甘酸っぱくてふわっと木苺の良い香りがした。

 う〜ん、採れたて最高!




 不思議な蔦の案内で坂を登ると、そこには妖精か小人でも住んでそうな、絵本や童話に出てくメルヘンで可愛い家が建っていた。

 ただし、雑草ぼーぼーの向こう側に。

 大魔術師はこんなところに住んでいるんだね。

 誰も草むしりしないのかなぁ……って、あれ?

 アーチから家に続く通り道だけは草取りがしてある。なるほど必要がないところはいたしせんってことだね。



 一階建ての家自体は古くなさそう。草ぼーぼーなのに土壁はひび一つなく、窓は曇っていないし、軒下には蜘蛛の巣もない。

 良かった〜、これでオンボロな家だったらイヤだからね。お化け屋敷は怖いもの。

 そこを通ってユーリが木の扉を開けた。

 呼び出しのピンポンやベルはないみたいだけど、ノックもしないで開けちゃったよ。



「勝手に開けちゃって怒られないの?」

「心配しなくて大丈夫ですよ。さ、どうぞ」

 ユーリは扉を開けたまま横に立って、わたしに先に入るように勧めてきた。

 同い年の子からレディファーストされるなんて初めてだよ。

 あっちじゃ、そんなことする男子はいないからね。なんだかもぞもぞしちゃうな。

 勝手に入っても大丈夫ってことはユーリと大魔術師は親しい関係ってことだよね。師匠と弟子でユーリは大魔術師と一緒に住んでいるのかなぁ?



「お邪魔しまーす」

「ミリィは律儀ですね」

 わたしが一言声をかけてから家の中に入ると、ユーリがくすりと笑う。

 だって黙ってなんて入り辛いじゃない。

 家の中はシンプルな作りになっていた。

 正面はリビングなのか暖炉やソファーセットが置かれてある。奥には大きな窓があって、部屋の両脇に扉が二つ。



 それにしても、散らかった家だね。せっかくメルヘンで可愛い家がもったいないよ。

 床には大小さまざまな本が散乱し、巻物のようにくるくる巻かれた茶色の紙が転がっている。

 魔法使いが着ていそうな長いローブと、茶色い皮のブーツが脱ぎ捨てられているよ。

 一応足の踏み場もあるしゴミ屋敷とまではいかないけど、ここの主人の大魔術師は片付けられない人らしいのがわかる。

 家の前も草ぼーぼーだったもの。



「ミリィ、足元には気をつけて下さいね。クレーメンスいますか?」

 ユーリは大魔術師を呼びながら、躊躇いもせずに家の中に入っていく。

 セーデルフェルトは日本みたく土足厳禁じゃないんだ。

「天気が良いので外に居そうですね」



 ユーリの後に続いて開け放たれた大きな窓から外に出ると、そこにはテラスがあった。

 テラスの向こうは庭になっていて畑がある。

 あ、ここはさすがに草むしりしてあるよ。

 庭だけじゃなくて、玄関前も綺麗にしようよ。玄関は家の鏡だよって、家のお母さんがよく言ってるもの。

 テラスには丸テーブルと椅子が二脚。隅の方には揺り椅子。

 そこにはローブを着た人が椅子にもたれるように身体を預けてゆったり座っていた。

 揺り椅子に揺られながら顔の上には本を乗せ、クッションをお腹の上に乗せて抱き枕にしている。

 気持ちよさそうに寝ているね。本を落とさず寝てるなんてすごいなぁ。

 この人が大魔術師クレーメンス……なんちゃらさん?




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