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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
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08 ユーリと再会

 

 たまたま運良く助かったけど、またあんなのが現れたら逃げ切る自信ないよ。

 枝からレイザー光線出なくなっちゃったから撃退もできないもの。

「帰りたくなってきちゃった」

 あっ、そういえば帰り方を聞いてなかった!

 扉が消えた木がある場所に行けば帰れるのかなぁ?

 でも消えちゃったし……。

 誰かに聞いたら教えてくれるかな。誰もいないけど。

 お迎えなんて誰も来ないじゃないの。壱兎の嘘つき〜!

 わたしは空に向かって叫んだ。

「どうやって帰るのよ!?」

 帰れないという焦りから泣きたくなってきたら……。



「来たばかりでもう帰ってしまうの?」

 後ろから声が聞こえて振り返る。誰もいない。

 パニックで幻聴が聴こえるようになっちゃったのかも!

「誰? まさか……」

 オバケなわけないよね。まだ明るいし。

「こっちですよ、岩の下です」

 この声は誰かの声に似ている気がする。

 声をたどってイノシシもどきと戦った場所とは反対側の岩の下を見下ろす。

 そこには銀色の髪に青い瞳の少年が岩を見上げていた。

「ユーリ!」



 ユーリは申し訳なさそうに眉を下げる。

「お迎えにあがるのが少し遅れてしまいました。今、イノシカの鳴き声が聴こえた気がするのですが、もしかしてミリィ襲われたのですか?」

 誰かに会えたのがこんなに嬉しいことなんて今まであったかな?

 わたしは今度は別の意味で泣きそうになってきたのを笑顔に変える。

 きっと変な半泣き笑いになってると思うよ。

 しょうがないじゃない。ユーリに会えてすごく嬉しいんだもの。



「シカの角が生えたイノシシみたいな動物が急に襲ってきたんだけど、あの生き物はイノシカって言うの?」

 もしかして、イノシシとシカでイノシカ?

 そのまんまだよ。なんて単純すぎる名前なの。

 ユーリは頷いてから首をひねった。

「イノシカはこの辺りに出没する動物で、機嫌が悪かったり刺激させない限り人を襲ったりしない大人しい動物なのですが。変ですね」

 わたしも一緒に首をかしげる。わたしイノシカの機嫌を損ねるようなこと、なんかした?

「遭遇した時は餌を探してたみたいだったよ。目が合ってわたしが逃げたら突然追いかけてきて」

 もしかしなくても、わたしイノシカにエサ認定されてたの!?



 ユーリは小さくため息をついた。

「原因はそれですね」

「やっぱりわたしエサだったの?」

 ユーリが小さくため息をついた。

 え、なに? わたしあきれられてる?

「ミリィ、イノシカは草食動物です。ですが逃げれば追うのが本能です。野生動物相手に背中を向けてはいけませんよ」

 なんと、イノシカ、草食動物だったのね!

 言われて思い出したけど、動物番組でもそんなことを言っていた気がする。熊に遭遇した時の対処法っていうの。死んだふりをしたらやられちゃうんだよね。

「この世界には危険な動物がたくさんいるの?」

「一部の山や森にはいますが、人のいる町や村には滅多に現れません。ですが、憶えておいて下さいね。獣に遭遇した場合、大きな声を出さない、物を投げつけない、突然走らない。忘れて同じことをしたら注意書きを貼らせていただきますので」

 ユーリの笑顔にわたしは瞬きをする。

 顔はにこにこ爽やか王子様顔なのに、声がいつもより一段低くなったのは気のせい?



「注意書き?」

 貼るってどこに貼るのかな。名札みたいに左胸か、手帳の一ページ目かと思っていたら。

「ええ、この辺に」

 わたしのおでこにユーリの手の平がぺたりとあてられた。

 おでこに貼るのは冷えピタか魔除けのお札だよ。って言っても異世界人のユーリにはわからないか。

「あはは、ユーリって面白いね。そんなとこに貼っても読めないじゃん」

 ユーリが口の端をあげてに〜っこり笑う。

「本気ですよ。ちゃ〜んと貼りますので」

 なんかその笑顔ちょっと怖い。わたしが顔を引きつらせると。

「冗談です」

 ユーリはわたしのおでこからようやく手を離した。

 どうしてだろう。冗談に聞こえない。

 ユーリってこんな性格だった?

 気のせいだよね。笑顔の瞳の奥に黒い何かを感じるのは…………。



「イノシカに襲われて岩に逃げたのは賢明な判断ですね。ところでどうやってイノシカを撃退したのです?」

 降りますか? と右手を差し出してくるユーリに首を振って一人で降りると、地面に転がっていた枝を拾った。

「これを振り回していたら枝の先から光が出て、イノシカが驚いて逃げて行ったんだよ。この枝に不思議な力があるんじゃないのかなぁ」



 ユーリはわたしから受け取った枝を眺めて首を振った。

「この枝はその辺に生えているなんの変哲もないただの雑木ですよ」

 特別な枝じゃなかったんだね。線香花火の木の枝かと思ったのに、なんだかちょっとがっかり。拾って線香花火できなくなっちゃった。

 じゃあさっき枝から出た光はなんだったの?

「ミリィ、もう一度この枝を振っていただけますか?」

「良いよ」

 枝を受け取って地面に向けて振ってみた。



 ………………



「ありゃ、何も起こらないね。さっきの光はわたしの見間違いかなぁ」

 首をかしげて枝の先を確認していると、ユーリが岩の反対側に回っていった。

 後をついて行ってみよう。

 難しい顔で地面を見つめるユーリ。

「あ、そこの焦げているところに火花みたいなのが当たったんだよ」

 そうだった。光の証拠があるのを忘れてた。

 ユーリは焦げた土を手に取った。

「なるほど…………」

 顔を上げたユーリは楽しそうに口許に笑みを浮かべる。

「これから楽しくなりそうですね」

 なんだろう……この笑顔はどうも怖く感じる。



「一週間前にあっちの世界で会った時のユーリと、こっちでのユーリってなんか雰囲気が違うね?」

 わたしがぽろっと呟いた言葉に小首を傾げるユーリ。

「向こうの世界は僕にとって異世界です。ホームとアウェイを使い分ける。礼儀正しくするのは当然でしょう?」



 外では礼儀正しくするのはわかるんだけど、何か引っかかりを覚えるよ。

 意味ありげな笑顔なんて、初めて会った時は一度もしてなかったし。注意書きも冗談だって言っていたけど冗談に聞こえない。

 うわぁ……もしかして、こっちが素のユーリ?

 お行儀が良くて優しい王子様ぜんとした一週間前のユーリは、よそ行き用のユーリだったんだ。

 丁寧な言葉遣いや礼儀正しいところは変わらないけど、中身が黒い!

 ユーリが坂の上を指差した。

「さあ、ミリィ行きますよ」

 あっちです、と前を歩くユーリの後をわたしは複雑な気持ちでついて行った。




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