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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
46/47

46 魔石の使い方

 

 わたしが着ているワンピースドレスは、ウェストリボンのところに杖をくくり付けられるようになっている。

 だからいつもそこに杖を付けて持ち歩いているのだけれど。



「おかしいなぁ」

「またどこかに置き忘れましたね?」

 あきれ顔のユーリにわたしは苦笑いする。

 前に何度か杖を置き忘れた事があるから。

「あはは。ちょっと待って、どこに置いたか思い出すから」



 確かここに来る前に、転移術に失敗して納屋の屋根に飛んだんだよね。

 そこで救出に来てくれたクレーメンスさんと話をして、このローブをもらったんだよ。

 そのままクレーメンスさんの転移術でお城に転移。

 そっか、納屋の屋根だ!

 ローブを着た時にきっと落としたに違いないよ。

 心を読まれたのか、それとも顔に出てたのか、ユーリがため息をついた。



「置いた場所に心当たりがあるようですね。杖は魔術師にとってなくてはならない物です。ミリィのうっかりミスをなくすために何か考えなくては……」

 これはまずい、反省文かおでこに注意書き貼り付けの刑か、とにかくこの話の流れは良くない予感。



「ユーリ、話が脱線してるよ。魔石の事を教えて」

 わたしの強引な会話の軌道修正にユーリは気にする事なく頷いた。

「仕方ありません、話を戻しましょう。今は僕の杖を使います。ミリィ、僕がクワッピーに持たせた魔石はどこにありますか?」

「自分の部屋の机だよ。木彫りのクマの隣に置いてあるけど」

 杖を返すとユーリは目をつぶり軽く二回振った。



 杖先から淡い青緑色の光が円になって現れ、空中でフラフープのようにクルクル回る。

 数回回って何もない空間にぽんぽんぽんっと、次から次にミントグリーンの丸い石が現れた。

「その魔術便利だね。なんて言うの?」

 空中に浮かんだ石を杖を振りながら器用に集めて手に取るユーリ。



「この魔術は物体転移術です。ミリィも練習すれば使えるようになれますよ」

 良い事思いついちゃった!

 その魔術を覚えれば杖を置き忘れた時に、どこでも出せるじゃない。

 ふふふ、なんて便利な魔術なの。

 これでうっかりしても大丈夫。

「ミリィ、この魔術は呼び寄せたい物の場所がわからなくては使用できません。それ以前に杖がなくては使えませんよ。つまり、杖を置き忘れては元も子もありません」



 あしからず、と付け加えられちゃった。

 うぎゃっ、回避したつもりが戻ってきたよ。

 考えている事がばれたうえにもっともな事を指摘されちゃった。また顔に出てたのかな。

 いつも耳に痛いユーリのお小言も久しぶりに聞くからなのか、なんだか嬉しい。

「気をつけます」

 素直に頷くと、ユーリが石を差し出してきた。



「この魔石は持ち主の感情を込める事ができるのです」

 両手を開いて石を受け取ると、ユーリは石に向けて杖を振った。

「術者が感謝の気持ちを込めるとオレンジ色になり、怒りの感情は赤。悲しみは青に変わり、嬉しい時には黄色。石に込める感情によって光が変わるように魔術をかけられます」

 ユーリの言葉に反応するように石の光が次々と色を変える。

「何これ、すごい!」



 クルクル変わる石の光に感動しているわたしに、ユーリは変ですね、と首を傾げた。

「魔石を利用しての伝達手段は『魔術師の心得百選』に掲載されているはずですが」

 あ〜……うう〜……。

 そういえば魔石の使い方についてそんな項目があったような。

「試験に合格した後は色々あったから、覚えた事がちょっとだけ頭からぽろっとこぼれたかも。あはは」



 ユーリの顔をチラッと見て冷や汗たらり。

 ユーリからとっても良い笑顔が返ってきたから。

「こぼれたらまた詰め込めば良いですよ」

 これは間違いなく宿題の嵐になる予感。

 うぇ〜ん、なんか色々ボロが出て話が不穏な方向に向かってるよ〜。

「ユーリ、それより緑色の光の意味は何?」

「緑は感情と言うより、了承または受け入れるといったメッセージになります」



 わたしの手紙にユーリは、魔石が緑色に光るように魔術をかけて送ってきた。

 それはつまり……。

「ユーリはもう怒ってないよってずっと返事をくれてたんだね」

「ええ、虫が苦手なミリィの目の前に不用意にカブト虫を近づけた僕にも非はありますが、ミリィが僕の魔石に気づかなかった事にはかなりショックでした」

 ショックと言いながらユーリの顔はニコニコしている。だからその笑顔怖い!



 わたしの手紙の返事にあえて魔石を送ったのは、わたしに抜き打ちテストをしたんじゃないのかと思えてきた。

 確認する勇気はないけどね。

 試験が終わった途端、覚えた事が抜けちゃった自分に嘆きたくなるよ。

 一人で悶々とあれこれ考えて落ち込んだわたしがバカみたいじゃない。

 でも思い切ってお城に来て、ユーリの気持ちが聞けた事にはなんだかほっとしたよ。



「よかった、ユーリに嫌われてなかったんだね」

「ミリィは大事な友達ですよ。嫌うはずがありません」

 ユーリの言葉になんだか胸のあたりがぽかぽかする。

 この際だからもう一つ気になる事を聞いてみようかな。



「あの日以来ユーリはどうしてクレーメンス邸に来なくなっちゃったの?」

 ユーリはずっと怒っていて、わたしの顔も見たくないから、クレーメンス邸に来ないんじゃないかと落ち込んでたんだから。

「それは、その……」



 気まずそうに顔をそらし言葉を濁すユーリ。

 こんな表情するのは珍しい。言いたくない事みたいだ。

「無理には聞かないけど」

 仲直りできたのになんだかまだ溝があるような感じがする。

「そうして下さい」



 ホッとしたようなユーリの表情に、隠し事をされているみたいで胸にモヤッとしたものを感じる。

 でも言いたくない事を無理に聞くのは良くないよね。

「このまま家に帰ったら気になって夜寝られないけど、聞かないでおくね」

 ユーリが眉をピクリとさせた。



「ミリィ、帰るとは?」

「急だけど家の事情で今日の夕方、虹ヶ丘に帰る事になったの」

 わたしの突然帰る発言にユーリが目を大きくしている。

 驚くのも無理ないよね。昨日決まったのだから。

「それは急……ですね。今回はあまり出かけられなかったのが残念です」



 ユーリの言葉にセーデルフェルトで過ごした夏のひと時が頭をよぎった。

 色々な人との出会いや、新しい魔術を覚えたり魔術師の試験もあって本当に大変だったよ。

 ちょっぴり危険な事もあったけど、わたしはユーリににっこり笑った。



「内容盛りだくさんで濃い夏休みだったけど、虹ヶ丘に戻る前にユーリと仲直りできて、いつもみたく話せて良かったよ」

 ふとユーリを噴水に突き飛ばした元凶を思い出して寒気が襲って身震いする。

「ミリィ?」

 ユーリに顔を覗き込まれてわたしは頬を引きつらせた。

「今、お茶会でわたしの頭に張り付いた黒い物体を思い出しちゃった」

「ああ、カブト虫ですが」



 ユーリが何か思い出したように空中で杖を動かすと、ミントグリーンに光る小さな魔石はわたしのてからテーブルの上に移動した。

「ミリィ、もう一度両手を前に出して下さい」

「今度は何が出てくるの?」

「大したものではありませんよ」

 言われた通りに両手を広げで出すと、ユーリが杖を小さく振った。

 手の平にポンっと現れた物を見て、わたしは真っ先にソレを放り投げたよ。



「ぎゃぁぁ、カブト虫! 酷いよユーリ、怒ってないって言ったじゃん!」

 涙目になりながらユーリを睨むと、ユーリはしゃがんで地面に落ちたカブト虫を拾い上げていた。

「よく見て下さい」

「無理! ソレは見るのもイヤなの!」

 両腕を前にブロックして視界に入れないようにガードする。

 どうしてこんなモノがここにいるのよ!

 騎士のお兄さんの職務怠慢〜。



「あの時も言おうとしたのですが、コレはマティアスのおもちゃです」

 ちょっと待ってよ、何それ。

「おもちゃ……本物じゃないの?」

「ええ、偽物です。ガラス細工のカブト虫ですから飛びませんし動きませんよ」

 前に突き出した両腕を下ろしてユーリの手の中を覗く。

 ツヤツヤしてるけど、透明感がある。ソレが動かないとわかり、わたしは強張っていた体の力を抜いた。



「う〜、そっくりな作りして偽物だったのね」

 あの時のユーリがなぜカブト虫をわたしに近づけてきたのか今になってわかった。

 良く見れば偽物だとわかるから、ユーリはわたしに見せて安心させようとしてくれていたんだね。

「触ってみますか?」

「うっ、それはやめとく」

 わたしが頬をヒクヒクさせながら一歩後ろに退くと、ユーリは杖をカブト虫に向け一振りし黒いフォルムを消しさった。



 わたしったら本物だと疑わずにパニックを起こしてユーリを噴水に突き飛ばして、それが原因でユーリに嫌われたんじゃないかって。

 ずっと悩んだけど、そんな必要なかったなんて。

 なんだか自分が情けなくなってきた。

 ユーリと直接話をしてみたら、ちょっとしたすれ違いだったんだよね。

 肩を落として地面を見つめていると、ユーリに手を握られた。



いつもお立ち寄りありがとうございますm(._.)m

第1章は次の47話で終了となります。


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