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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
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42 仲直りまでのタイムリミット②

 

 騒々しく扉を開けて中に入ってきたのはマティアスだった。

「無礼なヤツがなんでここにいるんだ!」

 わたしを見るなり猫のような目をさらに吊り上げ、足音も荒くやって来て。

「おいお前、何しに来た!?」

 目の前まで来ると人差し指を突きつけてきた。



「マティアスには関係ないでしょ。それより人を指差さないで」

「関係ないだと!」

 わたしが素っ気なく返すとマティアスは顔を真っ赤にしてワナワナと震えだした。

 だって今はマティアスの相手をする心の余裕なんてないもの。

「関係大有りだ! お前はこのオレに無礼な事をしただけでなく、兄上を噴水に突き落としただろ!」



 ユーリの事を持ち出されてわたしは言葉を詰まらせた。

 それをどう取ったのか勝ち誇ったようにマティアスが鼻で笑う。

「はは〜ん、さてはオレと兄上に謝りにでも来たか? ふんっ、謝ったところでもう手遅れだけどな!」

 キーキー騒ぐマティアス。

 そんな言い方されたくない。



 ムッとしつつ聞き捨てならない言葉が聞こえて、わたしは自分に向けられたマティアスの人差し指を横に払ってどかす。

「ユーリに謝りに来たのは確かだけど、マティアスに謝る気はないよ」

「な、なな……なんだその態度は! 兄上には謝罪して、なんでオレにはないんだよ!?」



 もう、うるさいなぁ。

 マティアスってヒステリー持ちなのかな。

 わたしはため息をついた。

「チクチク言葉を言ったのも、先に意地悪したのもマティアスじゃない。わたしはマティアスに暴言吐いてないんだから、あれくらいおあいこどころかお釣りがくるよ」

「うっ、お前……ヘナチョコ魔術師のくせに生意気だぞ!」



 事実を言われて逆ギレしたよ。

 なんか勘違いしてるし。わたしはまだ正式に魔術師になったわけじゃないんだけどね。

 わたしが知ってるマティアスっていつも威張るか怒るかだから苦手だ。

 話していると気力とか心を、かき氷の機械でゴリゴリ削られている気分になる。話をしていると疲れちゃう。

 黙っているわたしにマティアスは勢いがついたのか話し続ける。



「とにかく、ここはお前みたいな礼節をわきまえない野蛮なヤツが来る所じゃない。お前の相手なんかさせられて兄上も迷惑しているんだよ!」

「ユーリが迷惑している……?」

 マティアスの言葉に真っ暗になった。

「ふふん、当然だろ。兄上は魔力があるってだけで異世界に行かされて、できそこないの世話係にされたんだからな!」

 わたしはユーリの事を友達だと思っていたけれど、ユーリは違うの?



 ううん、マティアスの言うことが違うんだよ。

 ユーリはわたしがライグルの下敷きにされた時に言ってくれたもの。

「わたしのこと友達だって言ってくれたんだから、世話係だなんて……そうな風に思ってないはず」

 でも、今回の事でユーリの気持ちが変わってもおかしくない。

 噴水でのユーリの顔を思い出すと、自信がなくなって返す言葉も小さくなる。



 そういえば、お茶会でユーリの周りにいた子達って、男の子はきっちりとした貴族服を着て、女の子はエミリアみたくお嬢様って感じの子ばかりだった。

 こっちの世界の子は外で走り回ったり、お小遣い片手にお菓子屋さんで何を買うか真剣に悩んだり、ハンバーガーを大きな口を開けて食べたりしないんだろうな。



 エミリアが友達としていたオホホな会話は、何が楽しいのかさっぱりわからなかったもの。

 あの場に馴染めてないわたしって場違いな感じがしたし。

 ユーリがわたしのことを友達にしてくれたのが不思議だ。

 あの時の言葉は嘘じゃないよね?

 そう信じたいけれど自信がなくなってきた。



「お前みたいなヘナチョコが友達? ふん、そんなの兄上の社交辞令に決まってるだろ。似合わないドレスを褒めるようなもんだ。間に受けるなよな!」

 ユーリが言ってくれた事は嘘……?

 体が石になったように重くなったのを感じた。

 もうここに居たくない。これ以上マティアスと話たくない。

 そう思った時、わたしの前に大きな壁が現れた。



「は〜〜い、そこまで〜。子供の会話に大人が入るのはどうかと思い見守っていましたが。マティアス様〜、あまりお戯れが過ぎますと両陛下に報告させて頂きますよ〜?」

 クレーメンスさんののほほんとした声に、マティアスは小さく呻き一歩後ろに下がる。

 どうしたんだろ?



「大人のくせに告げ口するのか!」

「告げ口ではありません。報告ですよ〜」

「どっちでも同じだろ! 覚えてろ!」

 悪役な捨て台詞を言ってマティアスはドスドスと鼻息を荒らして部屋を出て行った。

 マティアスはいったい何しに来たのかなぁ。

 扉が荒々しく閉められた後、クレーメンスさんが振り返る。



「ミリィさん、マティアス様の言葉は聞き流しましょうね〜。彼はミリィさんに兄君を取られて拗ねていらっしゃるのです。それでミリィさんにトゲトゲしくあたるのでしょ〜」

 枯葉を木の上から落としてきたり、わたしに色々酷いことを言ってくるのはやきもちからだったの!

 拗ねて嫌がらせするなんて迷惑でしかないし、マティアスって小さい子供じゃないの。

 それならここは年上のわたしが大人になろう。



「クレーメンスさん、ここまでついて来てくれてありがとう」

 クレーメンスさんと庭園で会わなかったら、わたしはどうしたら良いのか途方に暮れてたから。

 ユーリと仲直りできるように気づかってくれたり、マティアスからかばってくれたクレーメンスさん。

 その気持ちが今のわたしにはすごく嬉しい。

 いつもは頼りない感じのクレーメンスさんだけど、今はなんだか頼もしいお兄さんに見える。



「これくらいおやすい御用ですよ〜」

 クレーメンスさんは気を取り直したように「さて、お姫様。そろそろお屋敷に戻りましょう」と言って、わたしに左手を差し出してきた。

 わたしが大きな手を取ると、クレーメンスさんは転移術を起動させ、お屋敷に二人で移動した。




 お茶会の次の日、いつも顔を出す時間帯にユーリは現れなかった。

 魔術の訓練に身が入らないわたしに、クレーメンスさんがユーリに手紙を書いみたらと言ってくれた。

 毎日手紙を書いて、王宮に仕事に行くクレーメンスさんに頼んで届けてもらったけれど、ユーリからの返事はない。



 今日は返事が来るかなって期待して、夜ベッドに潜るとユーリからの返事がなかった事に落ち込む。

 手紙、読むのもイヤなのかなぁ……。

 まだユーリと話もできてないのに落ち込まない!

 弱気になる自分に気合いを入れる。

 大丈夫、明日にはきっと返事が来るよ。

 絶対にユーリと仲直りするんだから!




 部屋の窓を開けると朝の涼しい風と共に、クワッピーが短い翼を必死で動かし中に入って来た。

 くちばしに淡く光るミントグリーン色の小さな丸い石をくわえている。

 わたしが手を出すと、クワッピーは石を手の平にコロンと置いた。



「ぴぴっ!」

 石を置いた手と反対側の腕に乗り、つぶらな瞳をぱちぱちさせてわたしを見上げてくるクワッピーは、わたしの癒しだよ。

「今日も見つけて来てくれたんだね。いつもありがとう」

「ぴ〜〜」

 モフモフした頭をなでると嬉しそうに目を閉じる。



 お茶会の翌日、クワッピーが毎日のようにミントグリーン色の同じ石を運んで来ては、私の手の平に置いていく。

 わたしを元気付けようとしてくれてるのかな。

 石はクワッピーからのプレゼントだと思って机の隅、クマ騎士からもらった木彫りのクマの隣に飾ってある。



 ただ待つことしか出来ないのって、落ち着かないし苦痛だ。

 ユーリに会ったらなんて話そうとか、この前と同じように口も聞いてくれなかったらどうしようとか、悪い方に頭が勝手に考えちゃう。

 気をまぎらわすためには何かしないと。

 この世界にはテレビも漫画もなくて、携帯ゲーム機ももちろんない。



 ここでわたしが出来る事は、魔術の訓練。クレーメンス邸の大きな図書室で読めそうな本を探して読書。

 それでも気がまぎれない時には、料理長のマッツさんと、偏食家クレーメンスさんが食べれそうなメニューを考えたり。

 庭師のテュコさんやメイドのハンナさんに、わたしに出来そうなことを手伝わせてもらって、お手伝いにひたすら集中する事で悪い方に考えないようにしてる。



 ユーリと仲直りが出来なくてもどかしいまま一日が過ぎていく。

 思わぬところからタイムリミットを告げられたのは、お茶会から七日後の事だった。



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