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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
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04 我が家はゆかいな香月家

 

 お父さんは電話の向こうの誰かと一言二言話をすると、途中でわたしに受話器を渡してきた。

「誰?」

「話せばわかるぞ」

 わたしは受話器を耳に当てた。



「もしもし?」

『よぉ、香月兄弟の四番目』

 受話器の向こうから聞き慣れた声と、このセリフは……!

 和菓子屋うさぎ堂の壱兎。

「だからわたしは四番目じゃなくて美里だって!」

 って、そうじゃなくて。いつものフリにのっちゃったじゃないの〜。

『がははっ、良い反応だ!』

 この人大人だよね。毎度毎度子供をからかってそんなに楽しいかなぁ。

「お父さんから電話に出ろって言われたんだけど」

『そっちに執事服のおじいさんが行ったろ?』

「ユーリの知り合いだって言ってたけど……壱兎、そのおじいさんが家に来たってどうして知ってるの?」

『お前の家を教えたのが俺だからな』



 壱兎が教えたの!?

 アントンさんが家に来なければこんな事にはならなかったのに〜。

「教えたらダメじゃん! アントンさん見かけは良い人そうだけど、はっきり言って怪しい人だよ。よくわからない国から来たとか、魔術がどうとか言ってるし。今、家は大変な事になってるんだからね!」

 受話器の向こうで壱兎の笑い声が聞こえた。

 何がおかしいのかわからない。



『まあ、その反応が当然だな。お前の親は普通の思考とち〜っとばかしズレてるからな。受け入れちまう方がレアだ』

 壱兎と家のお父さんは仲が良い。

 だからか壱兎の言葉からは家の親をバカにした風には感じない。むしろ感心しているような、どこか嬉しそうにも聞こえる。

「変わってるのは否定しないけど、ってそんな事よりわたしには訳がわからないんだけど、ユーリもアントンさんも一体何者なの?」



 留学とか旅行だとか言いくるめられて、見知らぬ国や知らない人の家に預けられるなんて冗談じゃないよ。

『世の中にはな、科学じゃ証明できないあれやこれやってもんがいっぱいあるんだよ。だがな安心しろ、アントンもユーリも身元はこの壱兎様が保証する。アントンの言葉が信じられないと言うのなら、自分の目で見て確かめると良い。明日うさぎ堂で待ってるからな』

 受話器の向こうで壱兎の声が途絶えた。

「何それ? 二人が何者か知ってるなら教え……!」



 ツー……ツー……ツー……。



「えっ、ちょっと壱兎!? ああっ、切れちゃった!」

 信じられない、電話の途中で切っちゃうなんて。

 受話器を本機に置くと、お父さんが話しかけてきた。

「壱兎はなんだって?」

「自分の目で見て確かめろ。明日、うさぎ堂に来いって言われた」

 壱兎も何かを知っていてわたしに教えてくれなかった。

 大人ってホントわかんない。

 は〜っ、とため息をつくと横でお父さんが頷いた。



「壱兎の言う通りだぞ。美里、こんな経験は滅多にできるものじゃない。異世界を自分の目で見てこい」

 聞き慣れない単語に首をひねる。

「イセカイ?」

「簡単に言うと地球上にない異なる世界のことだ」

 難しすぎてよくわからない。

 でもこれだけはわかるよ。セーデルフェルトは日本と違う国らしいってこと。

 行かなきゃわからないってこと。

 そして……。



「わたし一人だけでお父さんとお母さんは行かないの?」

「招待された者のみが行くことを許されているからな」

 やっぱり一人で行かなきゃいけないみたい。

 親も兄弟も友達すらいない……あ、ユーリはいるのか。

 とにかく慣れた場所から離れて知らない国に行くことへの不安が大きい。

「なんだか気が重いな」

「そんな気持ちは最初だけだ。楽しいぞ〜!」

 なんでそう言い切れるのよ。



 キッチンで夕食の準備に取り掛かり始めたらしいお母さんが、にんじん片手にリビングに顔を出した。

「美里ちゃんの夢が叶うのよ〜。楽しいに決まってるじゃないの〜」

「わたしの夢?」

「あらやだ、忘れちゃったの〜。魔法使いになりたいって言っていたじゃないの」

 まったく覚えてない。

「わたし、そんなこと言った?」



「いつだったかしら〜、五年くらい前だったかしら?」

 それ、わたしが保育園児だった頃の話じゃないの!

 もう小さい子じゃないんだから、魔法使いになりたいなんて言わないわよ。

「お、それはパパも覚えているぞ。あと、大きくなったら海外留学したいとも言っていたな」

「それは覚えてる」

 四年生の頃に主人公が外国で寮暮らしをする漫画を読んで、自分も留学がしたいって言った覚えがある。

「ふふっ、夢が二つも叶っちゃうわね!」

「良かったなぁ、美里!」



 アントンさんが言ったのは魔法使いじゃなくて、魔術士だよ。

 わたしが憧れたのは、海外留学であって異世界留学じゃないの!

 なんて、にこにこ楽しそうに笑う二人を前に、わたしは訂正する気力もなくなっちゃった。

 のんきで無責任な二人はあてにならないから放っておこう。

 こうなったら自分でなんとかするしかないか!



 お父さんはわたしが異世界に行くことを他の兄弟にこう説明してた。

「明日から美里は友達の家に行くからいないぞ」

「一人欠けるとちょっと寂しくなっちゃうわね」

 のんきな親からはマイペースな子供が生まれるらしい。

「へ〜、そうなんだ。おやつ係がいなくなるな。母さん俺、明日朝練あるからおむすびよろしく。お茶飲む人ーー?」

「ふ〜ん、人口密度が減るのね。私は午前から部活よ。お母さんお弁当お願い。お父さんソース取って」

「よそでヘマするなよ〜。オレは春休み遊びまくってやるぜ! 琥羽のコロッケも〜らい! 星里姉ご飯お代わり〜」

「美里姉ちゃんお土産買ってきて! みんな聞いてよ。今日ボクこ〜んくらい、でっかいダンゴムシ捕まえたんだ。あ、影羽兄がボクのコロッケ取ったーー!」

「美里お姉ちゃん行ってらっしゃ〜い! あのね、保育園の桜が咲きそうだよ。葵羽お兄ちゃん桜食べたことある? 萌パセリいらな〜い」

 兄弟が多いと一人減ったところでどうって事ない。

 いつも通りの騒がしい夕食だったよ。



 自分でなんとかしたくても子供に何ができるわけでもなく、兄姉に相談もできなくて、考えているうちに朝になっちゃった。

 家を出る時、お父さんとお母さんがこんな事を言ってきた。

「難しく考えずに行くだけ行ってみて、合わないようなら帰ってくれば良いのよ〜。決めるのは美里ですもの」

「パパ達、アントンさんが変な人なら美里を預けないし、家にも入れてないぞ」

「そうよ〜。パパの直感が外れた事ないものね〜」

「そうだぞ、パパの直感は優れてるからな。それに壱兎が二人の身元を保証しているんだ。安心して行ってこい」



 根拠のない自信と、やたらと前向きな言葉で見送られちゃった。

 お父さん本人が言う通り、お父さんの直感はあたる。

 とりあえずうさぎ堂に行ってみよう。





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