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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
38/47

38 美里、反撃する!

 

 そそくさとエミリア達から遠ざかって、お菓子や飲み物が並んでいるテーブルに向かう。

 わたしがいるところより少し離れたところでちょっとした人だかりができていた。

 ドレスで着飾ったたくさんの女の子達と、騎士の制服や貴族服の子供版を着た男の子達が塊を作っている。

 あっちに美味しいお菓子のテーブルでもあるのかなぁ?

 よ〜く見ていると人だかりの中から銀色の髪が見えて、横顔もチラッと見えた。

 あ、ユーリ見っけ!



 人だかりの中心にいるユーリを囲むように、周りの子達がユーリに話しかけているみたい。

 ユーリが王子スマイルで何か話すと、男の子達がキラキラした目を向けたり、真面目な顔で頷いている。女の子達はため息を吐く子や顔を赤くしてぼーっとしている子もいる。

 これはファンに囲まれたアイドル状態だね。



 ユーリって美少年だからモテるだろうとは思っていたけど、予想を裏切らないモテっぷりに感心しちゃう。

 声をかけたいけど、この人だかりに向かって「おーい、ユーリー!」なんて言える勇気はわたしにはない。

 みんなからの視線を一斉に集めるのって心臓に悪いよ。



 ユーリがなんだか遠い人に思えてきちゃった。

 う〜ん、実際に遠い存在なのかも。だって、大国セーデルフェルトの王子だもの。生まれも育ちも庶民なわたしとでは、生まれついた世界が違うよね。

 いつも近くにいるからか、ユーリと住む世界が違う、なんて実感がわかないけど。

 話しかけるのはもう少し待って人が減ってからの方が良さそう。



 これからどうしようかなぁ。

 王宮の庭園には色々な花がいっぱい咲いていて、見て歩くのも楽しそう。こんなところめったに来れないよね。

 そうだ広い庭を散歩しようっと!




 セーデルフェルトには向こうの世界にない花や木がたくさんある。植木や花壇の花を眺めながら歩いていると、

「おい、そこの!」

 背後から聞こえた声に振り返る。

 そこには大きな木が一本あるだけで、人の姿は見当たらない。

 今、誰かに呼び止められた気がするんだけど。首をかしげるとまた声がした。

「こっちだ、へなちょこ魔術師。上を見ろ」



 言われた通りに見上げると、木の上に布袋を持ったお猿さん、違ったマティアスがニヤニヤ笑いを浮かべてこっちを見下ろしている。

 マティアスにへなちょことかそこの扱いされたよ。

 他に呼び方はないわけ?

 まだにやにや笑っているマティアスをちょっと睨むと鼻で笑わらってきた。



「お前も来てたんだな。正装なんかして似合わねーの」

「そこのとか、へなちょこ魔術師だなんて呼び方やめてよね。わたしには美里って名前があるんだから、ユーリの弟」

 ドレスが似合わないのは仕方ないじゃない。着る方だって慣れてないんだから。だからそれに関しての返答はスルーよ。

「何偉そうな事言ってんだよ。へなちょこ呼びが気に入らないって言うなら、クレーメンスと兄上の隣に並ぶ実力をつけてみろよ。そしたら呼び方を変えてやっても良い。ま、お前には出来ないだろうけどな」



 何よ偉そうに。

 クレーメンスさんとユーリの隣に並ぶ実力って言われて、今の私にあるわけないから言い返せなくて言葉に詰まる。

 マティアスみたいな酷いことを平気で言う人を、毒舌モンスターって言うんだって星里姉が言ってたよ。

 マティアスって口を開けばポンポン毒舌を吐いてくるから、わたしは話すのが苦手だ。

 これ以上関わったら心が折れそう。

 ここを離れて他の場所に行った方が身のため。



「チクチク言葉を言うために呼び止められたなら、わたしはもう行くから」

 くるりと回れ右して木に背中を向けたその時。

「まあ、待て。へなちょこにプレゼントだ、ほら!」

 マティアスがわたしにプレゼント?

 絶対なんかある。罠かもしれない。

 何をされるのか確認しようと振り返った時だった。

 バサバサッと、空から枯葉が降ってきた。

 赤や黄色にオレンジ色の葉を頭から被ったわたしは、ギュッと拳を握り木の上に向かって怒鳴る。



「何するのよ!?」

 髪やドレスに葉っぱがついちゃったじゃないの。せっかく可愛くしてもらったのに。

 このドレスきっとすご〜くお高いんだから。わたしにはもったいないくらいなんだから。

 綺麗なドレスを贈ってくれたクレーメンスさんと、髪を可愛くしてくれたハンナさんの顔が浮かぶ。

 二人の好意を台無しにしてくれたマティアスに、怒りでムカムカとしてきちゃった。



 髪についた葉を取り払ってから、両手で幹を掴む。

 こんなに大きな木はちょっとやそっとのことじゃビクともしないと思う。子供の力じゃなおさらね。

 でもわたしには良い考えがあった。

 クレーメンスさんが魔術を使う時には、想像力と集中力が大事だっていつも言っている。

 わたしはパッと思い浮かんだ光景を頭に貼り付け、力の限り思いっきり揺すった。



 毒舌嫌がらせモンスターを退治してやるんだから!

「木よ、台風に揺れる稲の如く大きく揺れ動け〜!」

 木はザワザワと上下に揺れだした。

 一番太い幹までは揺れなかったけれど、葉や枝は揺れてマティアスが乗っていた幹を揺することに成功。

 突然揺れだした足元にマティアスは大焦り。

「うわっ……やめろ、ばかっ!」



 体をぐらつかせながら木の上で必死にバランスを取ろうとしている。

 近くにある太い幹につかまれば良いのにね。

 マティアスはわたしが反撃するなんて思いもしなかったみたいだけど、でもお生憎様。

 こんなイタズラ影羽兄で慣らされてるわよ。

「香月家の四番目を甘く見ないでよね!」

 バキッ!

 枝が暴れるマティアスの重みに耐えられなくなって折れちゃった。

「うわぁーー!」



 バキッバキッバキッ……どさっ。

 猿も木から落ちる。あ、猿じゃなかった。

 マティアスは周りの枝や葉を巻き込みながら芝生に落ちた。

「いてててっ……何すんだよ!!」

 カッコ悪くもお尻から芝生に着地したマティアス。地面に両手をついてお尻を突き出し腰をさすってる。

「そっちが先にやったんでしょ。これでおあいこよ」



 思っていたより効果大で自分でもビックリしちゃった。

 今までの暴言の数々もこれでチャラにしてあげよう。

 もうここに用はないわ。

 さぁ〜て何か美味しいものを食べに行こうっと。



 立ち上がれないでいるマティアスを放ってわたしはその場を離れた。

 毒舌嫌がらせモンスターを退治してやったわ!

 今までマティアスには散々嫌なことを言われてきたから、胸の中がミントのアメを食べた時みたくすーっとした。




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