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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
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37 おほほなお茶会?

 

 会議があるというクレーメンスさんを見送った後、エミリアとユーリの姿を探していると、うさぎの形をした植え込みを一人で眺めているエミリアを発見!

 ふんわりひらひらしたフリルがたくさん付いた淡いスミレ色のドレスに、裾や襟に白いレース。ウエストに大きなピンクのリボンと同じ色のバラの花がついたドレスを着ている。

 エミリアっていつ見てもゴージャスキュートなお人形さんだよね。



 ちなみにわたしのドレスはパステルオレンジ色で、スカート部分に黄色の小さな花の刺繍が裾のあたりに散りばめられて、刺繍と同じ花がウエストリボンに付いているんだよ。

 わたしはドレスの事はよくわからないから、クレーメンスさんにお任せした。

 そしたらクレーメンスさんなんだか張り切っちゃって、仕立て屋さんをお屋敷に呼んでサイズや布を選んで作ってくれたんだ。

 エミリアみたくふりふりゴージャスドレスが出来上がったらどうしようかと思っていたんだけど、出来上がったドレスを見て、小さな花が可愛くて一目で気に入っちゃったよ。



 さっそくエミリアに近づいて声をかけちゃおう!

「こんにちはエミリア!」

「きゃっ! 突然背後から驚かすなんて悪趣味ですわよミリィ。それと挨拶はこんにちはではなく、ご機嫌ようですわ」

 エミリアの肩が跳ねると、綺麗にクルッとした縦ロールまで揺れる。

 エミリアって、いつもドレスと頭にリボンを付けている。今日も頭にドレスとお揃いのピンクの大きなリボンを付けているって事は、リボンがすごく好きなんだね。



 あ、今ミリィって名前で呼んでくれたよね!

 エミリアが名前で呼んでくれたの初めてかも。なんだか嬉しいなぁ。

「えへ、間違えちゃった」

 ペロリと舌を出す。

 あ、すごい顔で睨まれちゃったよ。行儀作法の先生がスパルタなのを忘れてた。

「淑女たるものいついかなる時も気を抜かず、振る舞いに気をつけることですわ。そんな事では……」

 エミリアがお説教モードに入ろうとしたら、前から背の高い女の子とぽっちゃりとした女の子がこっちにやって来た。



「エミリア様、ご機嫌よう」

 二人揃って挨拶をすると。ぽっちゃりとした子が胸に手をあて、うっとりとエミリアを見つめた。

「まあ、そのレース見事ですわね。エミリア様、今日のドレスも素敵ですわ!」

「このドレス行きつけの仕立て屋に特別に作っていただきましたの。ですがマルタさんのご実家、伯爵領地で作られるレース編みには到底及びませんことよ。あなたのレースのリボンとっても素敵ですもの」

 なに、なんなの。突然なにが始まったの?



 エミリアが女の子の言葉に返事を返すと二人揃って笑いあってる。

 そして今度は背の高い子が話し始めた。

「エミリア様は今日もリボンがとてもお似合いですわ。リボンと言ったらエミリア様の隣に並ぶ方などおりませんもの」

 女の子にリボンを褒められてエミリアの口許がちょっぴりゆるんでいるよ。エミリアって、本当にリボンが好きなんだね。

「あら、バーバラさんの水色のドレスも瞳の色とお揃いでとてもお色が綺麗ですわ。さすがは男爵家、高い染色技術をお持ちですわね」



 突然目の前で始まった子供とは思えない褒め褒め合戦に、わたしはただぽけっと見ちゃってた。

 押したり引いたりの褒め褒め合戦がひと段落すると、エミリアとそのお友達が「オホホ」「うふふ」と笑いあっている。

 だからわたしも一緒ににこにこしとこうっと。

 だってこの会話に入っていくの無理でしょう?

 あ、ぽっちゃりさんと目が合っちゃった。マルタさんだっけ?



「あら、エミリア様。そちらの方は?」

「わたくし先ほど両陛下にご挨拶をされているところを見かけたのですが、魔術師長アルムグレーン公爵様のお弟子さんではありませんか?」

 背の高い子がわたしではなく、なぜかエミリアに確認を取っている。名前はバーバラさんだったと思う。

 エミリアに聞いたならわたしは答えない方が良いのかなぁ。困ったぞと思っていたら。



「ええ、その通りでしてよ。彼女がクレーメンス様の所で魔術のお勉強をしているミリィさんですの」

 エミリアがわたしに視線を向けて頷いてきた。

 あ、ああ。ここで自己紹介ね。

「初めまして、わたしはクレーメンス、様から魔術を習っているミリ・コウヅキです」

 危ない危ない、いつものようにクレーメンスさんって言うところだった。ここではクレーメンス様ってしっかり頭に叩き込んでおかなくちゃ。エミリア先生に睨まれちゃう。



 エミリアから教わった淑女のお辞儀簡単バージョン、ドレスの裾をちょっと持って軽くお辞儀をして顔を上げる。

「まあ、あなたが」

 驚いた顔でわたしを見てくるマルタさん。

「ミリィ様はもう魔術が使えますの?」

「まだ習っている途中で、基本的な魔術を少し」

「そうですの」

 マルタさんが残念そうな顔をした。



「ところでミリィ様。そのドレス、花の刺繍が可愛いですわね。どちらでお求めに?」

 お求め……ああ、どこで買ったのかって事ね。

「これはクレーメンス様がお屋敷に仕立て屋を呼んで作っていただいた物で、お店まではちょっと」

 言葉を濁すとバーバラさんが肩を落とした。これはまずい。空気を入れ替えないと!



「後でクレーメンス様にどこのお店か聞いてみますね。あの、わたしはこちらのファッション事情とか流行ってる物なんかは良くわからないので、色々教えて下さい」

 マルタさんとバーバラさんがお互い顔を見合わせると、困ったようにエミリアに視線を向けた。

 え、何? わたしなんかまずい事言っちゃった?



「わたし達よりエミリア様にお聞きになった方が良いと思いますわ」

「そうですわ。エミリア様はわたし達のお手本なんですもの」

 あ、そうなんだ。わからないでもないかな。だってわたしの行儀作法の先生だからね。

 エミリアはドレスのポケットから扇子を取り出して広げると、口許を隠した。



「おほほ、わたくしはブローマン侯爵家の者として、一人の誇りあるレディーとして、当然の振る舞いをしているだけですのよ。ミリィさんは異世界から来たのですもの、あなた達だって彼女のお手本である事は当然ですわ」

 エミリアの言葉に二人が頬を染めた。

 この子達、エミリアの事が好きなんだね。エミリアったら、扇子で照れてるのを隠しちゃって。本当に照れ屋さんだなぁ。



 それにしても日本の扇子と違って、セーデルフェルトの扇子はゴージャスだね。

 レースのリボンにふわふわなファーみたいなのが付いてるよ。

 扇子にはピンクのバラの絵が描かれてあってよく見ると、キラキラしたガラスのような石が貼り付けてある。あれってまさか本物の宝石じゃないよね〜。



 マルタさんとバーバラさんの目も扇子に釘付けになっている。

「まあ! エミリア様、その扇子はリ・レ・ローサの功績を認められ、栄誉ある方にのみ与えられると言われている称号扇子ノーブルですの?」

 称号扇子?

 リ・レ・ローサは確か、エミリアと初めて会った時にエミリアが自己紹介でそんな単語を言っていたっけ。



「ええ、先日王妃様より賜りましたの」

 誇らしそうに微笑むエミリア。

「「まあ!」」

 眩しいものでも見るようにバーバラさんは両手を胸に当て、マルタさんは指を組み合わせてうっとりとエミリアを見つめている。

「ああ、そうでしたわ。ミリィさんもニジガオカでフクハンチョウとビカイインと仰る社交クラブに入っているのでしたわよね?」



 うぎゃ、ここでその名が出ようとは思ってなかったよ。

「えっと、まあ……それは」

 わたしのはエミリアが言っている社交クラブじゃないんだけど、なんて答えろって言うのよ〜。

 あ、学校のクラブなら今年は手芸クラブに入ったけど。

 エミリアが言っている社交クラブは、わたしの世界にあるクラブとちょっと違うみたい。

 お茶会したりダンスをしたり、色んな人と交流するところだってユーリが言ってたから。

 お願いだからエミリア、その事は持ち出さないで!



「まあ! 社交クラブを二つも!」

 マルタさんとバーバラさんの視線が一気にわたしに集まる。

 言えやしないよ。

「た、大した事ないです」

 だって登校班の副班長と美化委員が何かって、こっちの世界の子にどうやって説明するの〜。

「わたし達、ニジガオカの社交クラブについて知りたいですわ」

 マルタさんの言葉にバーバラさんが頷き、エミリアが何かを閃いたように扇子を閉じた。



「そうですわ、ミリィさん。今度ニジガオカの社交クラブについてわたくし達にお話ししてくださらない?」

「え、それはまた突然に」

 エミリア、話を広げないで〜。背中に冷や汗が流れる。

 わたしの内心なんか知るはずもないエミリア。

「社交とはすなわち上流階級の者達によるコミュニケーションの場。そして情報交換の場でしてよ」

 それはユーリから聞いたけどさ。なんかクラブ違いなんだよね。でもどうやってわかってもらおう。



 キリッとしまった表情と厳しい口調は麗しのエミリアお嬢様から、行儀作法に厳しいスパルタエミリア先生の顏へと変身。

 このままだと新たなお作法特訓や講義を追加されそうな気配。

 逃げたい。そうだ逃げよう!



「あの、喉が渇いたのでちょっと失礼します」

「あら、では社交クラブのお話はまた今度ですわね。マルタさん、バーバラさんわたくし達はお花を鑑賞しに参りますわよ」

 わたしは軽くお辞儀をしてその場を後にした。

 次にこの話題が出たらなんて答えようか考えておこう。



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