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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
34/47

34 新しい仲間クワッピー

 

「魔術で自分を守る」

 わたしがこぼした独り言はしっかりユーリに届いていた。

「そうだよ。ミリィにはそれが出来るだけの魔力があるんだ。これからは防衛の魔術も教えてあげるから安心して」

 ユーリがそう言うのなら、自分の身を守るために魔術を習ってみよう。

 だって、みんなとお別れするなんてそんなのイヤだもの。

「うん。頑張ってみる」



 きっとわたしが急に泣き出したから戸惑わせちゃったよね。

 ユーリはほっとしたように息を吐き出し、一瞬ためらうようにした後、わたしの頭を撫でてきた。

「そう言ってくれて嬉しいよ。僕が全力でミリィの力になるから」

 心強い言葉とそっと優しく撫でる手の動き。それは恥ずかしいような、ちょっとくすぐったくて、でもなんだか安心する変な感じだった。



「これだけは覚えておいて。我が国にはイノシカやライグルのような危険な生き物も多少はいる。でもそれだけが全てではないってことを。それに負けないくらい良いところもいっぱいあるんだよ」

 凶暴で危険な動物はもう懲り懲りだけど、この世界の人達は好きだもの。



「良いところをいっぱい知ればここがもっと好きになれるかな?」

 ユーリが微笑み大きく頷く。

「そうなるように僕がミリィを色々なところに連れて行くつもりだよ。異世界で出逢った大事な友達に、このセーデルフェルトを少しでも好きになってもらいたいからね」

 友達……その言葉になんだか胸がぽわっと温かくなって、また涙が溢れてきたけど気にせず笑顔に変えた。

「ユーリがどこに連れて行ってくれるのか楽しみにしてるね」



 気持ちが落ち着いてきたらなんだか違和感を感じた。

 さっきからユーリが変。

 いつものユーリじゃないのは、しゃべり方が違うから?

 いつもより優しいのは、怖い思いをしたわたしを気遣ってくれてるからかな。

 気持ちが落ち着いてくると、頭でもしっかり考えられるようになってきた。

 ピクニックは環境を変えてわたしに勉強させるためだけじゃなくて、ユーリはわたしにセーデルフェルトの良いところを見せてくれようとしたんだよね。



 せっかくセーデルフェルトという世界と、そこで暮らすみんなと出逢えたんだもの。セーデルフェルトの良いところをいっぱい知りたい。

「落ち着いたみたいだね」

 わたしが頷くと、ユーリは上着のポケットからハンカチを取り出してわたしに貸してくれた。

 今さらだけど、泣き顔見られちゃって恥ずかしすぎる。

 わたしはハンカチを受け取って下を向いて涙を拭った。



「ところでミリィ。東屋で勉強しているはずのあなたが、どうしてここにいるのです?」

「あ……それは、その」

 あれ、しゃべり方がいつものユーリに戻っている。

 う〜、今ユーリの瞳がキラリと光った気がする。イヤ〜な予感。

 これは気のせいなんかじゃない。だって、この場から逃げたくなってきたから。



『魔術師の心得百選』を読むように言われていたのに、こっそり抜け出しちゃったし。

 ここは後ろめたさを隠すために話題を変えよう。

 ユーリが来なかったら、わたしはテュコさんが来るまでリッターの下敷きにされていたわけだから……お礼、そうだよお礼を言っておかないとね。



「ユーリ、助けてくれてありがとう」

 笑顔でお礼を伝えるとユーリはわたしの顔をじっと見た後、あきれ顔をした。

「助けるのも僕の務めですがミリィ、話を逸らさないで下さい」

 ユーリの言葉を遮るように、丸っこい生き物がわたしの肩の上に乗っかってきた。

「ぴぴっ」

 ナイスタイミング! 天の助けだね!

「コキアの精さん、名前は?」

 訊ねるとコキアの精は黄緑色の瞳をくりくり動かした。

「クワッピー」

「クワッピーって言うんだ。クワッピーのお陰だよ本当にありがと!」

 わたしは肩にとまったコキアの精の頭をそっと撫でた。



「ミリィ、話はまだ途中です。騎士団の野営地視察から戻ったらミリィを素敵な場所に案内しようと考えていたのですが」

 えっ、今から素敵な場所に連れて行ってくれるの?

 ユーリの口からそんな事を言われて嬉しくなっちゃった。

「行きたい!」

「今から行けないこともないのですが、それはまた今度にしましょう」

「え〜〜、ダメなの?」

 言っといて撤回なんてひどいよユーリ。



 肩を落としたわたしにユーリがいつものように微笑んだ。

「今のミリィがしなければいけない事があるでしょう?」

 その言葉に思い浮かぶのは黒くて分厚いあの本。

「魔術師の心得百選?」

 ユーリが首を振った。あれ、違うのかな?



「怪我の治療です」

 言われて思い出した。ライグルに翼ではたかれた時に吹っ飛ばされて、あちこちズキズキ痛むから肘とか膝に擦り傷ができてるはず。

「じゃあ治療が終わったら行こうよ!」

「急がなくてもミリィがまだ帰らず、我が国にいてくれる意思があるのでしたら、いつでも行けますよ」

 わたしはみんなとお別れする気はないもの。

 これからユーリにセーデルフェルトの良いところをいっぱい教えてもらえるから、急ぐ事はないよね。

「それもそうだね」

 わたしがにっこり笑うと、ユーリから柔らかな笑顔が返ってきた。




 ここに来た目的であるグナットの花の蜜玉を採って東屋に戻る途中。

 大人を呼びに行ってくれていたエミリアと、駆けつけてくれたテュコさんとハンナさんに出会った。

「ミリィ様、お怪我は?」

「心配かけてごめんなさい。ユーリが魔術で治してくれたから大丈夫です」

「エミリア様からミリィ様がライグルに襲われたと聞き、心臓が張り裂けるかと思いました。ご無事で安心しました」

 わたしの元気な姿を見た二人がほっとした表情の中、

「ユリウス様に感謝なさることですわ」



 エミリアはわたしと視線が合うとツンとそっぽを向いた。

「エミリア、ありがと!」

 大人を呼びに行ってくれたエミリアには抱きついてお礼を伝えると、

「お離しなさいな! わたくしは何もしていなくってよ!」

 ぷりぷり怒って引き剥がされたけど、ほんのり赤いほっぺたに気づいちゃった。照れ屋さん。



「おい、オレのリッターが人を襲うわけないだろ!」

 リッターの背中を撫でながらマティアスがぷんぷん怒っている。なんでわたし達についてきたのかわからない。

 みんなと合流する前に、ユーリに傷を治してもらっていると、ユーリの護衛騎士とマティアスの護衛騎士がやって来た。

 二人の騎士さんは蜜まみれになって寝こけているリッターを、近くの川まで運んで洗っていた。



 水の冷たさに目を覚ましたリッターは、まだ蜜玉の睡眠効果が抜けていないのかぼーっとして、クワッピーがリッターの耳をくちばしで突っついても眠そうだったよ。

 わたしはリッターの眠そうな表情を見て、ユーリが言った通り襲ってこないって言ったことに納得したよ。

 表情だけじゃなくて、リッターの動きもゆっくりで、動物園にいるナマケモノみたいなんだもん。これなら安心だよね。



 全身汚れていたクワッピーはわたしが川で洗ってあげた。

 汚れてどんな姿かわからなかったクワッピーは、ペンギンを緑色にして丸く縮めた可愛い姿をしていた。

 頭にはふわふわな毛が生えていて撫でると、瞳をとろんとさせるからすっごく可愛い!

 ユーリの話ではコキアの丘がクワッピーの家らしいんだけど、なぜかわたしの肩を気に入ったみたいで、帰り道はクワッピーも一緒についてきちゃった。



 王都に着くと、マティアスとリッターは護衛騎士と共に王宮に帰って行ったけど。

 クワッピーはわたし達についてきちゃった。

 クレーメンス邸に戻ると朝より顔色のよくなったクレーメンスさんが出迎えてくれて、クワッピーを見て首を傾げたよ。

「コキアの精は人に懐く事がないのですが、珍しいですね〜」

「この子どうしたら良いですか?」

 ここで一緒に暮らしたいな。

 なんて、ちょっと期待してクレーメンスを見上げる。



「ミリィさんに懐いているようですし、我が家は大歓迎ですよ〜。クワッピーさん、好きなだけ滞在して下さいね」

「わぁ! クレーメンスさんありがとう!」

 嬉しくなってクレーメンスさんにタックルするように抱きつく。

「ミ、ミリィ! はしたないですわ!」

「クレーメンスはまだ体調がすぐれないのですよ」

 速攻で赤鬼のように顔を赤く目を吊り上げたエミリアと、あきれ顔で額を押さえたユーリにそれぞれ腕を剥がされた。



「大丈夫ですよ〜。ミリィさんの一人や二人、ど〜んと受け止められますから。いつでもハグ歓迎です」

「クレーメンス様、ミリィを甘やかしてはいけませんわ!」

「ミリィにこちらの常識を覚えさせなくては」

 眉間にしわをよせるエミリアに、気難しい顔で呟くユーリ。こっちで気安くハグしたらダメなのかな。



 クワッピーは言葉が通じるのか、クレーメンスさんの肩にとまると、短い手でクレーメンスさんの頬っぺたをペタペタ触った。

「ピピッピー」

 どうやらクレーメンスさんを気に入ったみたい。



 お土産の蜜玉をエミリアと一緒にクレーメンスさんに渡すと大喜びしてくれたよ。それは良いのだけど……。

「では早速いただきましょうね〜」

 ポトッ、ポトッ、ポトッ。

「クレーメンス様、お待ち下さい!」

「クレーメンスさん、ストーーップ!」



 わたしとエミリアは二人して大慌てでクレーメンスさんを止めに入った。

 なぜかと言うと、クレーメンスさんがティーカップに蜜玉をいっぱい投入し始めたから。

 そんなに入れたらお休み三秒どころか、永遠にお休みなさいになっちゃうよ!

「クレーメンスさん、それは飲んじゃダメです」

「え〜、せっかくのミリィさんとエミリアさんからのお土産ですよ〜」



 口を尖らせるクレーメンスさんの手からわたしがカップを取り上げると、エミリアもささっと動いた。

「わたくし新しい紅茶を淹れますわ。クレーメンス様、蜜玉は人には効果が強く現れるので、ご使用はワンカップに一個でお願い致します」

「そうですか〜。では一個で我慢ですね〜」

 エミリアの真剣な顔にクレーメンスさんはまだ不服そうに口を尖らせていたけど、渋々頷いたのだった。

 セーデルフェルトの大魔術師長が永遠にお休みなさい、なんて事になっちゃったら大騒ぎになっちゃうからね。



 セーデルフェルトで初めてのピクニックは、ライグルに襲われそうになってなんだかドタバタだったけど、クワッピーっていう新しい友達もできたから行って良かった!

 それにエミリアともピクニックに行く前と比べたら、前より仲良くなれたと思うからね。




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