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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
23/47

23 真似してみよう、セーデルフェルト流ご挨拶?

 

 ハンバーグに再挑戦!

 今度はしっかり下味をつけて焼いたからバッチリだよ。

 形もさっきより綺麗にできてふっくらこんがり大満足。

 マッツさんがニンジンやジャガイモ、ブロッコリーを茹でてハンバーグのお皿に載せてくれた。

 わたしがハンバーグを作っているうちに、コーンポタージュまで作っちゃうなんて流石プロ。仕事が早いね。

 わたしは時計を見た。晩ごはんまで少し時間がある。


「このままだとハンバーグもスープ冷めちゃう。こっちの世界に電子レンジは流石にないよね。困ったな」

 でき立て熱々のハンバーグを前にうなる。

「デンシレンジと言う物はありませんが、冷めないようにする方法はありますよ」


 マッツさんは調理器具を洗うための魔術をかけ終わると、愛用の泡立て器を手に調理台にやってきた。

「魔術で冷めないように?」

 そんなエコで便利な魔術があるの?

「保存維持魔術を使えばいつでもでき立てを食べられますよ」

 保存維持……あっ、それってもしかして。

「食材庫にかけられている魔術!」

「正解です。やってみますか?」



 マッツさんに教えてもらいながら、ハンバーグに魔術をかけた。

 保存維持魔術はクレーメンスさんから出された水汲み課題、維持魔術を応用したものだった。

 魔術がしっかりかかっているか確認するのためお皿を触ると温かい。

 これでクレーメンスさんに温かいハンバーグを食べてもらえるね。

 わたしは厨房を貸してくれたマッツさんにお礼を言って厨房を出た。



 さて、これからどうしよっかな。

 クレーメンスさんは午後から書斎にこもって仕事中。ユーリはわたしがサインしたお茶会の招待状を持って自分の部屋に行っちゃった。

 今からユーリから出された宿題をやる……それは夜にしよう。

 ハンバーグ作りでちょっと疲れたから、のんびり庭にテーブルに飾る花でも摘みに行こうかな。



 クレーメンス邸の庭はとっても広くて温室や小川、小さな森に馬小屋、迷路のような庭園なんかもある。

 専属の庭師テュコさんに聞いて、クレーメンスさんの好きな花を教えてもらった。

 花を摘み終えてお屋敷に向かって歩いていると、前から誰かが歩いて来る。



 レースやリボンが付いたすみれ色のゴージャスドレスに、日傘をさした金色縦ロール髪の女の子。

 おとぎ話に出てきそうな子だけど、ユーリの知り合いかな?

 セーデルフェルトでわたしの知り合いと言えば、ユーリにクレーメンスさん。それとクレーメンス邸の人達だけだもの。

 ドレスをサラサラ揺らしながら優雅に歩く姿に思わず見惚れていると、わたしの前で立ち止まった女の子が日傘を少し持ち上げた。



 ぱっちりとしたつり目がちな瞳に長いまつ毛。赤い唇に日本人にはない真っ白な肌。

 ドレスの色とお揃いの髪のリボンを付けている。

 この子お人形さんみたい!

 女の子が口を開いた。



「ちょっとあなた」

「え、わたし?」

「間抜けな子ね。他に誰がいますの?」

 うわ〜、なんかツンツンしてるよ。今サラッと悪口言われたよね?

 面と向かって言われたの初めてだからあっけに取られちゃうよ。

「わたしに何か用事?」

「用がなければ声などかけませんわ。あなた新入りですの?」



 強烈キャラの登場にわたしはどう接していいかわからずぽかんとしちゃった。虹ヶ丘にこんな子いないもの。

 この子ってマンガに出てくる悪役お嬢様みたい。

「ちょっと聞いてますの!」

 目を吊り上げて怒る女の子の甲高い声に我に返った。

「あっ、聞いてるよ。もしかして迷子?」



 クレーメンス邸でわたしやユーリと同じ年くらいの子は初めて見るし、ユーリかクレーメンスさんのお客さんが広い庭で一人でいるはずないよね。

 こんな所にいるって事はきっと迷子に違いないって思ったんだけど。



 女の子は顔を真っ赤にした。日傘を持つ手がぷるぷる震えている。

「ま、迷子ですって……このわたくしが迷子なわけありませんわ。失礼ね!」

 違ったみたい、怒らせちゃったよ。キッと睨まれちゃった。

 顔がもっと赤くなる前に、女の子との話を早く切り上げた方が良さそうだね。頭に血が上って倒れちゃったら大変!

「違ったんだ、ごめんね。あっ、ちょっとこっち来て」

「あなたいきなり何をするんですの!?」



 わたしが女の子の手を取ると、驚いた女の子はまた目を吊り上げた。でもわたしは気にせず木陰まで女の子を引っ張って行く。

「すぐそこだよ。ほら着いた」

 女の子はわたしの腕を振り払うと両手を拳にして怒ってきた。

「あなたいったいなんなんですの。突然わたくしの手を掴んで乱暴ですわ。腕がもげたらどうしてくれますの!」

 大げさだなぁ。そんなに強く引っ張ってないじゃないの。



「大丈夫、子どもの力じゃもげないって。そうカッカしないで、木陰で話した方が涼しいでしょ?」

「それってわたくしに頭を冷やせと言っていますの?」

「違うよ。あなた暑いの苦手そうだから、ここなら日焼けしないし、風が吹くと気持ち良いから熱中症で倒れる心配もなさそうかなって」



 女の子はまた顔を赤くすると、一瞬うっと身体を後ろに引いた。

 えっ、ちょっと倒れるの?

「大丈夫!? 頭クラクラするの?」

 支えようと差し出した手は払われちゃった。

「わたくしそんなにヤワではなくってよ!」

 ツンっとそっぽを向いちゃった。

 とりあえず倒れる心配はなくなったからいっかな。



「それでわたしに何か用?」

 女の子は日傘を閉じると縦ロールを右手ではらった。

「あなたわたくしのことを知らないみたいですわね。寛大なわたくしが特別に教えてさしあげますわ」



 何か用があったんじゃ?

 もしかしたら異世界で初めての女の子の友達ができるかも。

 自己紹介してくれるなら聞いておこう。

「よ〜くお聴きなさい。わたくしはぶどう酒とレース編みで有名な西の領地を治める、ブローマン侯爵の娘エミリア・ブローマン。王立学院リ・レ・ローサに所属しておりますの」

 右手を腰にあてて自信満々に胸をはる女の子の顔は、勝気に瞳を輝かせている。



 これを見てわたしはピンときた。

 これってセーデルフェルト流の挨拶かな?

 ユーリがさっき言っていたじゃないの。周りを見て挨拶すれば良いって。

「あなたの名前も聞いてさしあげますわ」

 ほら、名乗りなさいな。と、エミリアは顎をクイっと動かしわたしに自己紹介の催促をしてきた。



 こっちの世界では決めゼリフ風に挨拶するのなら、エミリアに習って挨拶するべきだよね。これはチャンス。

 お茶会で失敗しないように今ここで練習してみよう!

 わたしは両手を腰にあて胸をはって大きく息を吸い込んだ。

「わたしはミリ・コウヅキ。茜町三班の副班長と美化委員の書記をして、家庭科クラブに所属していますわ」

 やったね、噛まずに言えた!

 セーデルフェルトの人に虹ヶ丘は何が有名か言ってもきっとわからないと思うから、そこはカットしても大丈夫だよね。

 意外と簡単じゃない。お茶会もなんとかなりそうだよ。



 一人小さくガッツポーズをしていたら、口を開けて瞳を見開いているエミリアが目に映った。

 あれ、わたしの挨拶どこか変だった?





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