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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
22/47

22 美里のうっかりハンバーグ

 

 香月家ではひき肉が安いと、ハンバーグにメンチカツ、肉団子にロールキャベツ。この中のどれかを二種類作る。

 お母さんが材料が似てるから、まとめて作って冷凍しておくと便利なんだって。

 それでは、美里ちゃんのお料理教室始まり始まり〜〜!

 玉ねぎをみじん切りにして炒めて冷ます。ひき肉に玉ねぎや溶き卵、パン粉がなかったから堅パンを小さく砕いて牛乳に浸した物を加えた。

 あっ、そうそう。細かく刻んだシークレット食材も忘れずに入れないとね!

 材料をよ〜く混ぜてから形を整える。



 隣でマッツさんがメモを取りながら、わたしの手元を覗き込んでふむふむつぶやいているよ。

 フライパンでハンバーグを蒸し焼きにしていると、厨房に誰か入ってきた。



「ユリウス様、このような場所に」

 慌てて厨房の扉に駆け寄りお辞儀するマッツさんに、ユーリが軽く手を上げている。

「ミリィがここにいると聞いて見に来ただけです。気にしないで」



「今日は来ないんじゃなかったの?」

「来ないとは言っていませんよ。ミリィが夜やる宿題を出し忘れていたので来たのですが、君は何をしているのです?」

「お料理だよ」

「ミリィが?」

「そう、わたしが」

「…………」

 何かな、その間は?

 わたしは次に来るユーリの言葉を予想して先手を打つことにした。



「食べられる食材でいつも作っているように作ったから、食べられるよ。ほら、見て」

 美味しそうでしょ?って、ハンバーグを見せようとフライパンの蓋を開けようとして。

「あつっ!」

 少し開いた隙間から湯気がもわっと出て右手首にあたる。熱さに思わず蓋が手から離れガチャンとフライパンの上に落ちた。



 ううっ、ヒリヒリするよ〜。

「ミリィ様、すぐに処置を!」

 慌てるマッツさんにわたしは手をひらひらさせながら笑って返す。

「これくらい大丈夫ですよ」

 痛さをごまかすために手を振っていると、ユーリに腕を掴まれた。

「まったく君は。赤くなっていますね、じっとして」

「平気平気」

「ミリィ」

 いつも穏やか王子スマイルのユーリが、珍しく真剣な顔をしているよ。

 ここは言われた通りにじっとしていよう。



 ユーリは空いている方の手に杖を持ち、わたしの右手に向けて小さく振った。

 ヒリヒリとしていた所から痛みが引いていくのと同時に、赤みも引いていったよ。魔術ってやっぱ便利だよね!

「火傷はしっかり対処しなくては後に残りますよ」

 失敗失敗、わたしは苦笑いする。

「急に湯気が直撃するんだもの、びっくりしちゃった。ユーリありがと!」

 おっと、いけない。フライパンの中身は無事かな?



 ユーリのお説教が本格的に始まらないようにフライパンに意識を戻して、湯気に気をつけながら蓋を開ける

 。

 食欲をそそる香ばしい香りが鼻をくすぐり、フライパンの上にはふっくら焼けたハンバーグがジュージューと美味しそうな音を立てていた。

 問題は裏だよ。焼き目を確認しなくちゃね。フライ返しでハンバーグをひっくり返す。

「良かった〜、ハンバーグは無事だぁ」

 ちょっと焦げちゃったけど、苦味も隠し味の一つとしちゃおっと。



「マッツさん、お皿ちょうだい」

「このお皿にどうぞ」

 マッツさんが持って来てくれたお皿にハンバーグを載せて、ユーリとマッツさんに見せる。

「でっきあがり〜。美味しそうでしょ?」

「ミリィ、君という人は料理よりも火傷の心配をすべきです」

 まだ怒ってるみたい。

「次は気をつけるから、今はコレ」

 あきれ顔のユーリに対してマッツさんはわたしが作ったハンバーグに興味津々。



「これは美味しそうですね。なんと言う名前の料理でしょうか?」

「香月家特製シークレットハンバーグだよ」

 メモを取るマッツさん。

「ところで、なぜミリィが料理をしているのです?」

「いつもお世話になってる人へのお礼だよ」



 我ながらの上出来に顔がニマニマしちゃう。

 ユーリがハンバーグとわたしの顔を見比べてから、マッツさんに微笑む。

「胃薬の用意を」

「えっ、ユリウス様。それは……」

「あ、それひどっ! さっき食べられるって言ったとおり変な物入ってないし。ね、マッツさん?」

「ええ、ミリィ様が使われた食材に変わった物はなかったです。それに食材はすべて今朝仕入れた物でどれも新鮮ですよ」



 マッツさんのフォローにわたしは大きく頷く。

「家のレシピ暗記してあるんだから味だって大丈夫だよ」

 あ、ハンバーグソースを作ってないけど、それは後で作れば良いか。

「それではどく……味見は?」

 ユーリ今、毒って言った。毒味って言いかけたよね!

「失礼しちゃう」

 目をすわらせるわたしにユーリはにっこり。

「マッツが試食してみては?」

 ユーリが魔術でナイフとフォークを取り出し、マッツさんに渡した。



「えっ、はい、仰せのままに。ミリィ様、一口よろしいですか?」

 なんかわたしの不満顔も呟きもスルーされた。釈然としないなあ。マッツさんは食べたそうにしてくれてるのに。

 マッツさんに味見してもらえば、次からは作ってもらえるかな。

 わたしはマッツさんにハンバーグのお皿を渡した。

 マッツさんはお皿を調理台の上に置くと、近くにあった椅子を三脚、魔術で引き寄せる。



「ユリウス様もミリィ様もお座り下さい」

 三人がテーブルに着くと、マッツさんはハンバーグにナイフを入れ一口大に切ると口の中に入れた。

 切った断面から肉汁が溢れでている。良し、中まで火が通ってるね。

「マッツさん、味は?」

「ミリィ様、美味しいです! ふかふかして柔らかくとてもジューシーですね。これでしたらクレーメンス様もきっと食べてくださると思います」

「やった!」

 第一関門突破したよ。



「ユーリも食べて?」

 断られるのを覚悟でハンバーグを勧めると、ユーリは少し考えた後何か覚悟したような表情で再び魔術でフォークを取り出した。

「では、少しだけ」

 ハンバーグを小さく切って口に入れる。よく噛んで飲み込むと口を開いた。

「ハンバーグとは食材の味を楽しむ物ですか?」

「もう少しわかりやすく言って?」

 何かやっちゃったかな。

「肉と野菜の味しかしません。マッツ、本人のためにもこういった事ははっきり告げるべきです」

「いや、しかしユリウス様。私は食材本来の味が楽しめて良いと思いますよ」



 マッツさんのなぐさめのフォローはわたしの耳を通り過ぎていった。

「えっ、何それ。ユーリ、そのフォーク貸して」

 味付けしたはずだよ。

「このフォークですか? 新しいものを今出しますよ」

「良いよそれで」

 ユーリからフォークをもらってハンバーグを切って食べる。

 ユーリの言うとおりだ。わたしってば、しっかりやらかしてました。

 なんて事なの、下味をつけるのを忘れてるじゃないの〜!

「うっかりしでかしちゃったよ」



 がっくりうなだれるわたしに、マッツさんが励ましの声をかけてくれた。

「このマッツもミリィ様くらいの時には、ゆで卵を作るつもりが殻を割ってしまったり、よくうっかりをやったものです。もう一度作れば良いのですよ」

「作り直す時間ある?」

「もちろん」

「マッツさんありがとう!」

 わたしがマッツさんに飛びかからんばかりに両手をとって握手すると、マッツさんは「マッツもお手伝いしますよ。その元気で頑張りましょう!」と言ってくれた。良い人だね!



 のだけど、ユーリが間に入ってきた。

「ストップ。ミリィ、君はセーデルフェルトに魔術を習いに来たのであって、料理をしに来たわけではありませんよね?」

 確かにそうだけど。

 口をとがらせながらユーリの顔を見れば、王子様スマイルに宿題は? と書いてある。

「宿題……あっ、まだ出されてないよ」

 今日はユーリの授業が急に休みになったからね。ユーリは宿題を出しにわざわざクレーメンスさんの家に来たみたいだけど、まだ宿題の内容は言われてないと思う。



「ミリィ」

 ユーリが何か言う前に拝み倒そう!

「今だけ勉強パスさせて。作り終わったらしっかりやるから、お願いユーリ!」

 お願い、お願い〜。と、連呼してみるとユーリがため息混じりに許可をくれた。

「今回は特別ですよ」

「ありがとユーリ!」

 ガッツポーズするも、ユーリの次の言葉にわたしは一瞬固まちゃったよ。



「ただし、条件があります」

「条件って、次のテスト満点とか。分厚い本の読破や歴代王様の暗記?」

 無理難題、実力以上の力は発揮できないよ。

「それも良いですね」

 楽しそうに笑うユーリ。今わたしボケツ掘ったかも。

「違うの?」

 ユーリは着ていた上衣のポケットから一通の封筒を取り出した。

「僕が出す条件は、これに出席して下さい」



 渡された封筒の表側にフェルト文字でわたしの名前が書いてある。裏を見ると。

「えっと、おちゃかいへのごしょうたい?」

「一週間後に王宮で開かれるお茶会に出ていただけますか?」

 王宮でお茶会って、王様とかいる王宮で!?



「なんでわたしにそんな招待状が届いたの?」

 王様と会ったこともないのにどうして。

「ミリィを呼ぶための許可を出したのは国王です。君が招待されるのは不思議な事ではありませんよ」

 そうなの? でも、王様とお茶会。

「わたし挨拶の仕方とかお茶会のマナーって知らないよ。ユーリも出る?」

「ええ、僕も出席の予定です。ミリィ、あまり身構えなくて大丈夫です。参加者が適当に集まって、それぞれお茶を飲んだりおしゃべりする。それだけですから」



 知らない人とのお茶会に一人で放り込まれたらイヤだけど、ユーリがいるなら。

「それなら出ても良いかな。あ、でも偉い人にはこんな感じの挨拶をするんだよね?」

 わたしはエプロンスカートの裾を持って、映画や童話でプリンセスがやるお辞儀を真似してみた。たぶんこんなお辞儀してた気がする。あ、足がちょっとピリピリとする。

 あれ、ユーリが拳を口に当てわたしから顔を背けちゃったよ。なんか変?



「少し違いますが。挨拶などは難しく考えず、周りの人を見て真似すれば良いのですよ」

 そうなんだ、気を使わなくて良いんだね。

 お茶会に出るだけでハンバーグを作らせてもらえるのなら。

「わかった、その条件飲むよ」

 わたしの返事を聞いたユーリは、封筒からカードを取り出しにっこり微笑んだ。

「ではここにミリィのサインを」



(お知らせ)……本編とは別に『うさぎ堂壱兎』のお話を只今執筆中です。仕上がり次第投稿予定ですので、興味がある方はそちらもどうぞ。

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