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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
21/47

21 美里の異世界クッキング

 

 わたしの考えが甘かった。

 と〜っても甘かったよ。

 クレーメンスさんのお屋敷の厨房はわたしが知ってるキッチン、向こうの世界のキッチンとちょっと。ううん、かなり違った。



 どこが違うのかと言ったら、料理をするのに魔術が必要だってこと。厨房を使いこなすマッツさんももちろん魔術師。

 マッツさんは杖じゃなくてかき混ぜ器を振って野菜を切ったり、お鍋をかき混ぜたり。魔術でポッと火をつけちゃったり、お肉をひっくり返したりする。だから包丁もないし、フライ返しやお玉もない。



「魔術が使えない人はどうやって料理をするんですか?」

 魔術師人口は少ないって言っていたから、みんながみんな魔術で料理をしているわけじゃないと思う。

「魔術でしていることを調理器具を使って料理をします」



 それって手で作るってことだよね。

 良かった、調理器具がないわけじゃなかったんだ。

 わたしが魔術を使わずに料理をしたいと伝えると、マッツさんは驚いた顔をした。

「魔術を使わずに料理するのは大変ですよ?」



 いやいや、魔術を使っての料理の方が大変ですって。

 今のわたしが魔術で料理すると、きっと未知なるものを作っちゃう自信があるもの。

「大丈夫です。そっちの方が慣れてますから」

 胸をはってちょっぴり得意げに言うわたしに、マッツさんは珍しいものを見る目をした。



 わたしからしたら魔術で動くキッチンを使いこなせるようになるまで、かなり時間がかかると思うから普通に作ったほうが早いだけなのにね。

 魔術での料理があたりまえになっているマッツさんには普通に料理することの方が珍しいみたい。

 そんなわけで調理器具は厨房の倉庫にしまってあるから揃えてもらえることになった。



 いつもは午前はクレーメンスさん、午後はユーリの授業がある。

 でも今日はユーリに予定ができたとかで、午後の授業が中止になったとクレーメンスさんが教えてくれた。

 そうだ、前から気になっていることを聞いてみよう。



「ユーリはいつも何をしているんですか?」

 ユーリの姿を見るのはいつもお昼頃。夕ご飯を食べずにどこかへ行っちゃう時もある。

 クレーメンスさんと一緒に住んでいるのかと思っていたらそうでもないみたい。

 クレーメンスさんは食後のお茶に角砂糖をぽとぽとカップに投入しながら小首を傾げた。砂糖入れすぎです。



「そうですね〜、勉学に馬術と剣術、それと弓術その他諸々といったところでしょうか。ユリウス様、実はとってもお忙しい方なのですよ〜」

 この世界にも学校はあるみたいだけど、そんなに習い事をしてたんだ。その合間にわたしに授業をして、ユーリってハードスケジュールだったんだね。



 前にユーリにどこに住んでいるのか聞いた時は、ユーリの杖から地図が出てきた。

『僕の家は王都にあります。ミリィ、セーデルフェルトの王都がどこにあるのかわかりますか?』

 そこからセーデルフェルトの地理の話になって歴史や文化の話に移って。

『……ということで、今僕が話したことを覚えておいてくださいね。明日テストしますから』

 ちょっと待ってよ!

 今のは普通の会話、世間話だったじゃないの。話のオチにテストを持っていくなんて酷すぎる。

『内容なんて覚えきれてないよ〜』

 と、泣きつくとユーリが杖を振って分厚い本を出してきたんだよ。

『ではこれを暗記してくださいね』

 無理だから、一晩でこんなの暗記できないし!

 翌日テスト結果は散々で、宿題増量を告げられた。うううっ、あの時は大変だったよ。

 ユーリって優しそうな顔してスパルタだよ。天使の仮面を被った悪魔に見える時があるんだから。

 でも、忙しい中勉強を教えてくれるユーリって面倒見がいいと思う。



 テストに合格したり難しい問題が解けると、ユーリが不思議な魔術を見せてくれる。

 蔦が踊ったり、七色に光る蝶々を飛ばしてくれたり、夜空に流星のシャワーを降らせてくれたりね。

 ご褒美にユーリの魔術を見せてもらえると思うと、不思議とやる気が出ちゃうんだよね。

 どうしてクレーメンスさんがユーリをユリウス様と呼ぶのかわからないけど、きっとユーリが良いところのお坊ちゃんだからかな。

 アントンさんもマッツさんもユリウス様だからね。



「ミリィさんはユリウス様がいらつしゃらなくて寂しいですか?」

「うぇっ? 寂しいというよりはラッキーかなぁ」

 ちょっと考え事をしてたら思わず変な声が出ちゃったよ。

「ユリウス様が居なくてラッキーなのは授業がお休みになったからですね〜?」

「クレーメンスさん、意外と鋭いですね」

 でも、それだけじゃないんだけどね。

 午後の勉強タイムがなくなったってことは、今から計画を実行できるチャンスだよ!




 ランチを済ませた後、マッツさんに食材庫の中を見せてもらった。

 冷んやりとした食材庫の中には沢山の野菜やお肉に魚、牛乳やチーズに果物なんかが棚やカゴ別に並べられてある。

 どの棚にも温度管理と鮮度管理が食材ごとに出来るように、特別な魔術がかけられてあるんだって。

 向こうの世界にない食材も沢山あるけど、それを使って失敗するのはイヤだから、わたしが知ってる食材で出来る物が良いな。



「う〜ん、やっぱりアレかな」

 弟達が大好きなメニュー、ハンバーグ!

 ハンバーグは何回も手伝ってるから作り方は頭に入っているし、クレーメンスさんはお肉は硬くて顎が疲れるって言っていたからハンバーグなら大丈夫だよね。

 香月家の特製ハンバーグをクレーメンスさんが食べてくれると良いな!




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