19 美里の夏休み
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ゆるゆる更新になっても連載停止にはしないので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
真っ青な空に綿菓子のようにもくもくした雲。花壇のひまわりが見つめる先は、ギラギラと地上に熱を降り注ぐ太陽。
窓を開けると、聴こえてくるのはセミの鳴き声シャワー。
今日も快晴、朝から暑い。
わたしは夏休みの宿題は、七月中に片付けて後は思う存分遊ぶタイプ。
今年も夏の練習帳と自由研究、それと工作も終わらせちゃった。
だから後はのんびり夏休みのイベントを楽しむだけ。
「プールに花火にお祭りだーー!」
な〜んて思っていたところにクレーメンスさんから手紙がきた。
「美里、夏のホームステイのお誘いがきてるぞ。ゴロゴロしてないで行ってこい」
「異世界で夏休みなんて楽しそうね〜。日記にかけるじゃない」
異世界をすんなり受け入れちゃう大人なんて家の親くらいだよ。
異世界に行って魔術修行をしました。そんなこと書いたら先生に頭を疑われちゃう。
だいたい日記の宿題なんて出てないんだから。
親にぐいぐい押されるままに、わたしはセーデルフェルトに行くことになった。
いつもの通りにうさぎ堂業務冷蔵庫に入って、何歩が歩いた先に見えてきた扉を開ける。
目が明るさに慣れてくると、わたしは扉の向こうの景色に目をこすった。
そこがとっても広いどこかの室内だったから。
長方形の形をした部屋には夜空を描いた天井と青から群青色へと変わるグラデーションで塗られた壁。
壁の反対側には光がたくさん入る大きな窓がある。
つるつるした硬い床には、映画やアニメに出てくる魔法陣のようなものがそこかしこに描かれてあった。
丸い円の中や外に書き込まれた文字は、フェルト文字を複雑にしたセーデルフェルトの古代文字。
わたしにはまだ読めないから何が書いてあるかはわからないけど、きっと何かの呪文だと思う。
困ったなぁ、全く知らない場所に出ちゃったみたい。
いつもは丘の上にあるクレーメンスさんちの近くに出るんだよね。でも今わたしがいる場所はいつも出る場所と違う。
「ここはどこ?」
室内を見回していると後ろから声をかけられた。
「ここは私のお家で〜す」
振り返るとクレーメンスさんがにこにこしながらわたしの方に歩いてきたよ。
びっくりした!
誰もいないと思ってたから心臓が跳ね上がったじゃない。
「驚かさないで下さいよ〜」
わたしが恨みがましく見つめても、クレーメンスさんは相変わらずにこにこ笑っている。
「転移術ですよ〜。歩かなくて良いうえ、近場は魔力の消費も少なくて済むのでこっちのほうが楽ちんなんです」
ようするに歩くのが面倒くさいんだね。
クレーメンスさんって体弱いみたいだけど、しっかり食べて歩いて体力をつけた方が良いと思う。
「ところでクレーメンスさん、いつの間にこんなに広い部屋を作ったんですか?」
わたしが知る限り丘の上にある小さな家にはこんな部屋なかったもの。
「ここはいつものお家じゃないのです〜。丘の上じゃなくて王都にあるんですよ」
「王都って、王様や王妃様が住んでるお城がある街のことですか?」
「その通り〜。セーデルフェルトで一番大きく人や物が集まる大国の心臓部。それが王都です」
丘の上だけじゃなく、王都にも家があったんだね。
執事のアントンさんもいるし、クレーメンスさんはやっぱりお金持ちなんだね。
「扉を出た先が丘の上じゃないのはどうしてですか?」
「ミリィさんの魔力も出てきましたし、魔術の訓練も本格的になってあそこではちょっと手狭になったのです。それで場所を変えてみました。ここはと〜っても広いお部屋でしょ?」
気分転換にお引越し〜、なんて楽しそうに言うクレーメンスさんは、両手を広げてその場でクルクル回転する。
この広さは体育館が一つ入るくらいだよ。
「何をする部屋ですか?」
「この部屋は魔術を使う専用のお部屋で〜す。今日からはここでお勉強しましょうね」
目が回ったのかヨタヨタとおぼつかない足取りで壁に手をついている。
「クレーメンスさん大丈夫ですか?」
顔色が真っ青だよ。
体力ないのに調子に乗ってくるくる回るから酔っちゃうんだよ。
クレーメンスさんが家の中を案内してくれた。
魔術専用の大きな広間がある家は、家と言うよりお屋敷だ。
広い食堂に本がたくさんある図書室、長い廊下に大きな階段。たくさんある客室に絵画や壺、鉄の鎧騎士が飾られた部屋なんてのもある。剥製はちょっと怖い。
「さあ、今日からここがミリィさんのお部屋ですよ〜」
最後に案内された扉を開くクレーメンスさん。
うわぁ、なんかこの部屋すごい。
窓には白の刺繍入り淡いオレンジ色のカーテン。壁は白地にピンクの小花柄。ベッドにはお姫様仕様のレースのカーテンが付いている。
一言で言うとメルヘンな部屋。
「ここがわたしの部屋」
「お気に召しませんでしたか?」
ちょっと引き気味なわたしの反応を見て、クレーメンスさんの顔がしょんぼりしちゃった。
わたしは慌てて両手と首を同時に振った。
「いえ、あのっ。こんな豪華な部屋に泊まらせてもらって良いのかなって」
宿泊費とか請求されても払えないよ。だから普通の部屋に変えてもらいたいんだけど。
「ここはミリィさん専用に作らせたお部屋ですから、遠慮しないでくださいね〜」
ええっ、それ聞いたら余計になんだか気がひけるよ。
だって、セーデルフェルトに滞在時のわたしの衣食住は香月家では一円も払ってないんだもん。
食費くらいは払えても払う手段がないんだけどね。
向こうの世界のお金とこっちのお金は違うらしいから。
遠慮するなと言われても。いつも良くしてもらっているからお礼に何かしたい。わたしに何かできることを……あっ!
良い考えがある。
「何かお手伝いをさせて下さい」
首をかしげるクレーメンスさん。
「お手伝いですか?」
「床拭き窓拭き部屋の掃除に食器洗い。あとは、庭の草むしりに簡単なご飯なら作れますよ」
指折り自分のできるお手伝いを伝えたけれど、クレーメンスさんにあっさり却下されちゃった。
「この屋敷にはアントンの他にも使用人がいますので、ミリィさんはそんなことしなくて良いですよ〜」
却下されても引き下がれない。
「でも、何かしたいです」
「そうですね〜。では、こうしましょう。いつかミリィさんの力が必要になった時に助けていただく、というのはどうでしょう?」
そんなんで良いの?
「今のわたしではなんの力にもなれないと思いますけど」
「今はまだ見習いさんなだけですよ。出世払いということで、ミリィさんは魔術に専念して下さいね〜」
クレーメンスさんは悪戯っぽく笑うとウィンクをした。
わたしが魔術師として出世?
先のことはわからないし、わたしの魔術なんてあてにならないと思うけど。わたしに何かできることが見つかったら、セーデルフェルトでの美味しいご飯と快適な暮らしのお礼をしよう。
そのうち何か見つけて使用人さんのお手伝いをしても良いよね。
お姫様ルームがわたしの部屋っていうのはなんだかむず痒いけど、こんな部屋滅多に住めないから貴重な体験だって思うことにしよう。
クレーメンスさんがクローゼットの扉を開いて中の物をわたしに見せてきた。
「可愛らしいドレスもご自由にど〜ぞ
」
これまたメルヘンで乙女チックなドレスの数々に、わたしは口をあんぐり開けちゃった。
こっちの女の子にはこんな服が流行っているの?
流行っていると言うより、ドレスを着る文化なのかも。
クレーメンスさんのせっかくの好意を無にしちゃダメだよね。わたしは笑顔を顔に貼り付けてお礼を言った。
「クレーメンスさんありがとうございます」
「お気になさらずに〜。私には子供がいませんのでミリィさんをお迎えする準備はとっても楽しかったですよ〜」
青白い顔でにこにこ笑うクレーメンスさん。その顔を見てわたしはひらめいた。
そうだ、クレーメンスさんが健康になるように何か考えてみよう!




