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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
15/47

15 お使い終了

 

 黙って見ていた魔樹じぃが声をかけてきた。

『怪我が治って良かったのぉ。しかしこれでは適性試験にならんの。わしはお主に魔術で落として欲しかったのじゃが』

 適性試験? 何それ。

 そういうことは石を落とす前にちゃんと説明してほしい。

 それを聞いたところでボロボロの杖は使い物にならないと思うし、わたしが魔術で簡単に落とせればの話。そもそも今のわたしには魔術なんて使えないから。

「レベルが高すぎだよ。わたしには無理だと思う」



 魔樹じぃは枝をゆさゆさ上下に動かした。

『わしの与える物とお主の力がどれくらい合うか見定める試験じゃったが。今回の試験は予想外じゃ』

 他の魔樹を探したほうが良さそうだね。

「別に不合格でも良いよ。また探せば良いんだから」

『まだ何も言っておらぬぞ』

 わたしは想像してみた。自分が中身がおじいさんの枝で作った杖を使用するところを。



 アダブカタブラ、ルルルのル〜……ゴキッ。



 呪文を唱えた途端に杖がポッキリ、こ腰が!? なんて杖から声が聴こえてきそう。使い勝手が良くないね。



『お主、今とっても失礼なことを考えておるな。顔に出ておるぞ』

「真面目なことを考えてただけだから、お気になさらずに」

『…………』

 光る石を手に取りそれを眺めていたユーリが顔を上げた。

「ミリィ? 魔樹は何と言っているのですか?」

「魔樹じぃはわたしの適性を調べるために、光る石を魔術で取って欲しかったんだって」

「そうでしたか」



「別の魔樹からも試験を出されて合格しないとダメなの?」

 わたしは気になってユーリに聞いてみると、ユーリは首を振った。

「そんな話は聞いたことがない。さっきも言いましたが、しゃべる魔樹は特別変種であまり生態を知られていませんので書物にも記されていません」

 それを聞いて安心したよ。魔術を使った試験を出さない魔樹を探せば良いんだからね。

 わたしは魔樹じぃとの話を早々に切り上げることにした。

「ユーリ、そろそろ行こう。魔樹じぃ、わたし達忙しいからさようなら」

 わたしが魔樹じぃに背を向けると、枝で肩をツンツンしてきた。



『これこれまだ話は終わっておらぬ。怪我をさせたお詫びと、カンガールの子を助けた褒美にその石はそなたにやろう。今回はわしの考えていたものとちと、違う結果になってしもうたがの。特別じゃぞ』

 この光る石は綺麗だけど、わたしに石をコレクションする趣味はない。

 今探しているのは杖になる魔樹の枝だからね。

「もらっても荷物になるから遠慮します」

『お主、持ち帰るのが面倒だからと断ったな』

 ギクリ。この魔樹じぃ、意外と鋭い。



 だいたいご褒美って言うけど、空から落ちてきたものじゃない。

 そこでわたしはあることに気がついた。わたしは魔樹じぃを探るように見つめる。

「石が空から降ってきたとか、頭痛とか言ってたけど、わたしに試験をさせるための嘘なんじゃないの?」

『そ、それはじゃな。そうした方がお主の力を見れるかと考えてじゃな』

 風も吹いてないのに葉がざわざわと揺れ動き、聴こえる声はしどろもどろになっている。かなり動揺しているとみた。



「人の親切心をそんなことに使うなんてなんて人、じゃないなんて魔樹なの。わたしはその石のせいで散々な目にあったんだからね」

 試験だからと言って人の親切心を利用するのはよくない。被害を受けた身としては一言言いたくなっちゃったのだ。

 鼻息荒く言ってのけると、枝がしなだれた。

『すまぬと思うておる。だからその石はお詫びのしるしじゃよ。まさか人の子に説教されるとは思わなんだ』

 いや、参ったとつぶやく魔樹じぃ。



 そうだこの石は熱心に眺めていたユーリにあげよう。

「気に入ったならそれユーリにあげるよ」

『これこれ。その石は魔術師にとって大事な石じゃ、そう簡単にあげ渡すでない』

 すかさず魔樹じぃが口を挟む。魔樹じぃの声が聞こえないユーリは首を振ってわたしに石を渡してきた。

 あ、見た目ほど重くないね。



「これはミリィのですよ。魔樹から渡されたのはミリィですので。それに僕とこの魔樹との相性は良くないと思いますし、僕はもうすでに自分の石を持っていますのでこれは必要ありません」

 ユーリの言葉にわたしは気づいてしまった。魔樹じぃがユーリにじゃなくてわたしにあげたってことは、遠回しに相性が良いって言われた気がしてすごく凹む。

 それはつまり中身おじいさんな魔樹じぃがわたしの探していた魔樹ってことになるから。



「売ったらお金になる?」

『これっ、売るでない!』

「ミリィ、これは特殊な物ですから買う人はいないと思いますよ」

 二人から止められた。売ったお金で何かプレゼントしてユーリに貸しを返せるかと思ったのにダメか。

「じゃあ、置いていこう」

 地面に転がそうとしたわたしの手をユーリが止める。



「お忘れですかミリィ。杖の材料に魔石も含まれています。この石はその魔石ですよ」

『少年の言う通りじゃよ。お主には価値あるものじゃ、磨けば綺麗な輝きを見せるじゃろう』

 魔樹じぃの言葉はなんだか通販番組の司会者みたいだからスルー。

 確かに出掛け際にクレーメンスさんから杖に必要な材料の説明を受けた。その中に魔石という単語も出てきた気がする。

「お持ち帰りした方が良いのかな」

「リストに書いてありますよね?」



 わたしがクレーメンスさんから渡されたメモをエプロンドレスのポケットから取り出すと、ユーリは優しく微笑みリストの文字を指差している。

「ほら、ここに」

 はーい、ユーリ先生。わたし文字が読めませーん。

 と、手を上げたいところだけれど。ユーリのこの顔はわたしがセーデルフェルトの文字を読めると思われてるよ、どうしよう。

 なんとなく言い出せずに微笑んでいるユーリにわたしは曖昧に笑い返す。

「とりあえずこの石はもらっておくね。魔樹じぃ、ありがと」

『もう少し喜ぶ顔が見たかったが何じゃろなぁ……まあ、良い。有効に活用するのじゃぞ』



 リストを見たわたしはまだ何か書かれていることに気がついて、クレーメンスさんの言葉を思い出した。

「必要な物は確か三つあったはず。魔石の他に杖になる枝とあともう一つは……」

「ここに書いてあるじゃないですか……ああ」

 ユーリは怪訝な顔をしたあと、何かに気がついたようにポンっと手を打った。

「なに?」

「ミリィはフェルト語を読めないのですね。普通に話せているので失念していました。帰ったらフェルト語の勉強も必要ですね」



 異世界の文字が読めないことに気づいてくれたのは良かったけど、英語も満足にできないわたしに、未知なる文字フェルト語なんて到底解読できないと思う。

 そうだ、その話は遠ざけることにしよう。

「勉強の話より今は材料を探さないと」

 ユーリが何か言いたそうな顔をしているけど、魔樹じぃが間に割って入ってきた。

『枝が欲しいのじゃな、ほれ』

 魔樹じぃが体を揺らすとバサバサバサと、雨のごとく枝が降ってきて、わたしとユーリは頭をかばって慌てて枝から逃げた。



『出血大サービスじゃ、好きなものを持って行くが良い』

「もう、いきなり枝を降らせないでよ。気前よくいっぱいくれたけど、ハゲないの?」

 見上げるとさっきより枝が所々減って、ボリュームのなくなった木はなんだか寂しくなっている。

『安心するが良い、この時期は生え変わりの時期じゃ』

 魔樹、猫や犬みたいだ。



 わたしが枝を選んでいると、ユーリが横にやって来た。

「三つ目の材料の水はこの近くに泉があるのでそこで汲んでいきましょう」

 あ、ユーリの言葉で思い出した。三つ目は泉の水だった。

「ユーリ、案内係お願いね」

「それはもちろんですが、帰ったら杖作りにフェルト語の勉強と忙しくなりますね」

 なんてことなの、流れたかと思っていたフェルト語の勉強がすでに確定してるよ。

 せっかく宿題のない春休みなのに、異世界に来て勉強しないとだなんてガックリ。



 そんなこんなで泉に寄って水を瓶に汲むとわたしの材料採集は終了した。

 泉はとても澄んでいて、綺麗な翡翠色をしていた。

 ユーリの話によると、この泉の水は不純物が入っていなくて杖作りに欠かせない水なんだって。

 ここまでたどり着くのに色々あったけど、なんとか杖の材料が手に入ったよ。




 クレーメンスさんの家に帰るとアントンさんが出迎えてくれて、部屋で寝ているクレーメンスさんを起こしてくれた。

 わたしがボロボロになった杖の残骸を見せて謝ると。

「おやまあ、そのようなことが。杖が役に立ったようで何よりですよ〜」

 怒られなかったからホッとしたよ。クレーメンスさんって心が広いんだね。

 なんて思っていたらユーリにおでこに問答無用で、『森での歩き方。獣には近づかない!』と大きな文字で書かれてあるらしい紙を貼られた。

 わたしには読めないから意味ないと思うのだけど、前が見づらいからやめてほしい。それと、カンガールが危険な動物だなんていまだに信じられないよ。



 クレーメンスさんの魔力が回復するまで、わたしはユーリに教わりながら杖作りとフェルト語の読み書きを勉強した。

 フェルト語はひらがな五十音と同じ五十音の文字でできている。

 フェルト文字五十音を使って単語を作るから、一文字ずつカードを作ってパズルのように組み合わせて覚えていく。五十音さえ覚えちゃうと意外と楽しかった。

 ただちょっぴりユーリの微笑みの圧力、みたいなものを感じたけれど。



 杖作りについてはまるで図画工作か料理をしているみたいだ。

 魔樹じぃからもらった枝はそのまま使うのかと思ったら、樹皮を剥いでおろし器具でゴリゴリ擦って粉末にして水を加えて混ぜる。そうすると、粘土みたくなってそれを長細い杖の形にしていく。

 この形にするのが大変で、すぐに乾いてカピカピになっちゃうしヒビが入りやすい。思うように真っ直ぐできずにひび割れがない杖にするのに一苦労した。



 光る石の魔石の方は、大きなお鍋に魔石と泉の水を入れて火にかけかき混ぜる。

 かき混ぜていると、あら不思議。バスケットボール大の魔石がどんどん小さくなって、テニスボール大にまでなっちゃった。

 魔石を布でピカピカに磨いて杖の片方、持ち手の部分に金具で取り付け杖の完成!

 パール色の杖に淡いパールオレンジの魔石。なかなか良いできに苦労が報われたよ。杖作りって手間がかかったけど、結構楽しかったな。



 杖が完成する頃にはようやくクレーメンスさんの魔力も回復して、わたしは虹ヶ丘に帰ることができた。

 虹ヶ丘に帰ってきたのは悲しいかな、始業式前日だよ。

 あ〜あ、わたしの春休みはフェルト語と杖作りで終わっちゃった。

 でも楽しかったし、アントンさんが作ってくれるセーデルフェルトのご飯も美味しかったから、こんな春休みも良いよね。



 わたし香月美里は、異世界セーデルフェルト王国で魔術を習うためにスタート地点に着きました!




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