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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
14/47

14 頭上注意!

 

 え、何? 近くに誰かいる。

 辺りをキョロキョロしていると。

「どうかしましたか?」

 ユーリが怪訝な顔をしている。ユーリには聴こえないのかな?

「今、声が聴こえたんだけど」

「僕には聴こえませんよ。風の音か鳥の鳴き声では?」

「はっきり聴こえたんだよ。誰かいるの?」

 木の向こう側に声をかけると。



『ここじゃよ、そなたの目の前に居る』



 声はわたしの正面から聴こえてきた。

「ここ、この木から声が聴こえる」

 しゃべる木、それとも中に人が入っているとか。いやいやまさか、人が入るには狭すぎるよ。

 とりあえずノックしてみよう。コンコン。

「入ってますか?」

『わしは扉ではない!』

「じゃあ、どちら様?」

『人の子よ、わしのことが知りたくば、まず自らが名乗るのが礼儀じゃ。ほれ、名乗らんか』



 名乗れと言われて、見ず知らずの人に素直に名前を教えるのは防犯上良くない。小学生のやってはいけないお約束。

「そこまで知りたくないし、名乗るほどのものでもありませんが、通りすがりの子供その一とその二よ。名乗りました、さようなら。ユーリこの場所は危険だからあっちに行こう」

『これこれ、待たぬか』

 怪しい人には近づかない。これも基本です。怪しい木も同じ、引き止められても近寄るな危険。

 わたしはユーリの手を引いたけれど、ユーリは動かなった。



「ミリィ、その木はもしかしたら魔樹かもしれません」

「えっ、魔樹ってしゃべるの?」

「基本はしゃべりません。ですが、中には特別変種で人と会話ができる魔樹があると、クレーメンスから聞いたことがあります」

「ふ〜ん、そうなんだ。見た目ではわからないけど、中身はおじいさんみたいだよ」



『じいさんとは失礼な。わしはまだまだ若い。その少年の言った通りわしは魔樹。お主、この森に魔樹探しに来た魔術師の卵じゃろ?』

 わたしは両手を腰に当て探るように木を観察する。

「どうしてそれを知っているの? さてはずっと見てたのね。でも動けないのにどうやって」

『誰が動けぬと申した。森の中ならわしは自由に移動できる』

 土が盛り上がって地面から根っこが出てきた。うねうねと動く根っこの不気味な感じにちょっと引く。



 なんて木なの。根っこが足となって動くから自由に移動して、影からこっそりわたし達の様子を伺っていたのね。

「怖っ、あなたストーカーじゃない!」

『確かにずっと見ておった。だがしかし非難される言われはないぞ。ここはわしら魔樹の森。よそ者を警戒するのも当然じゃ』

 よそ者、そんな風に言われたら反論できない。確かにわたしはこことは別の世界から来たよそ者だもの。



「木は何と言っているのです?」

 聴こえるのがわたしだけってなんか複雑。ユーリにも怪しい木との会話を教えてあげよう。

「この木は自称魔樹だって言ってるよ。わたし達のことずっと見てたって」

「監視されていたとは気づきませんでした。とりあえず自称魔樹さんの話を聞いてみましょう」

「わかった。自称魔樹のおじいさんわたし達に何か用?」



『自称ではない本物じゃ。まったく近頃の子らは失礼じゃな。この子だと思ったのじゃが冬眠中に勘が鈍ったかの』

 何やらブツブツ言いだした。

「わたし達急いでいるから、話が長くなるなら立ち去りますよ」

 わたしは早く本物の魔樹を見つけて、家に手紙を書かないといけないんだから。



『待て待て、すぐ済む。お主らにちと頼みがあるのじゃよ。ここで会ったのも何かの縁じゃと思って、わしの話を聞いてはもらえぬか?』

「それはわたし達にできること?」

『なぁに簡単なことじゃよ。枝に引っかかった石を取って欲しいのじゃ』

 ここはユーリの意見を聞いてみよう。

「ユーリ、自称魔樹のおじいさんが枝に引っかかった石を取って欲しいって言ってるよ」

「石ですか?」



『森を移動しとったら空から降ってきおった。ちょうど幹と枝の間にはまってしもうてなかなか落ちんのじゃ。これでは眩しくて眠ることもできん。重くて枝がこって持病の頭痛も誘発してしまう』

 木の頭がどこにあるのか気になるけど、頭痛になるってことはきっと深刻なんだね。声からまいっているのがわかるもの。



 木を見上げると確かに枝と幹の間に石がスポッとはまっていた。

 大きさはバスケットボールくらいでオレンジ色に光る石は、木を包み込むように光っている。

 木から出ている光はこの光だったのか。

「よじ登って取れそうな位置だね。やってみる」

 登ろうと幹に両手を伸ばしたら、木は後ずさって焦ったような声で止めてきた。

『よじ登る!? 重いのは勘弁して欲しいのぉ』

 重いとは失礼しちゃう。わたしは標準体重です。だいたい石を取るにはよじ登らないと取れないじゃないの。

 自称魔樹のおじいさん、わがままね。



『魔術師の卵ならちょちょいと杖で取ってはくれぬか?』

 わたしはポケットに手を入れ取り出した物を自称魔樹のおじいさん、自称魔樹じぃの前に出す。

「これで?」

『それはなんじゃ』

 怪訝そうな声が返ってきた。

「ボロボロだけど一応杖」

『やはり声をかけた相手を間違えたかのお……ではその少年に杖を借りて頼めぬか?』

 棒切れとなっちゃった杖じゃ石を突いて落とすことは無理だね。



「ユーリ、自称魔樹じぃがユーリの杖で光っている石を取って欲しいって言ってるよ」

 よじ登った方が楽なのに、杖で突いて落とせだなんて注文が多いよね。

 ユーリは眉を下げ申し訳なさそうな顔をした。

「僕の杖は気難しい気質ですので本来の目的以外での使用を嫌います。ご要望にはお答えできません」

 そうだよね、あっさり断られるのも無理ない。さっきからユーリ、魔術以外で使用しちゃダメだって言ってたもの。

 仕方ない、わたしがなんとかするしかないか。



 杖じゃなくても突っついて落ちれば良いんだから、地面に落ちている枝で代用できるじゃないの。わたしはなるべく長く杖っぽく見える物を拾った。

 光る石の下でジャンプする。崖に降りた時にひねった方の足に体重がかからないように気をつけて。

 うまく力が入らないけど枝が長いから石まで届く。ジャンプしながら枝で突っついてみるとちょっと傾いた。

「なんか良い感じ。よっと、こうすれば」

『お主、意味が違う! わしは』

 慌てて止めてきたけどわたしはその声を無視した。だってあともう少しで落ちそうだから。

「今とってあげるからじっとして動かないの!」

 魔樹じぃの言葉を遮り、枝を握る手に力を込め勢いよく突っつくと幹と枝の間にはまっていた石が外れ。ゴロン…………。

「あっ!」

「ミリィ!」

 とっさに両手で頭をかばったけれど直撃。光る石はわたしの頭の上に落ち、そのまま右足にもダメージを与えてから地面にコロコロ転がった。



 その場にうずくまって呼吸を押し殺すようにして痛みに耐える。

 う〜……痛い。頭と手の指先に、さっき崖で挫いた右足の指までやられた!

「ミリィ、大丈夫ですか?」

「だいじょぶ、だいじょぶだよ。もう少ししたら治まると思う」

 心配そうなユーリの声にわたしは笑って応えるけどダメ。痛すぎて顔が引きつる。

 ユーリがわたしの隣にしゃがみ込んできた。

「見せてください。先ほど崖の下に落ちた時、足をひねったでしょう?」

「どうしてそれを……」

 わたしが目を泳がせると、ユーリはため息をついた。

「わかりますよ、僕を侮らないでください」

 ユーリによってわたしはその場に座らされ、そっとショートブーツを脱がされた。



 崖でひねった足首と石が落下した時にあたった指先が赤く腫れている。

「ああ、やはりかなり腫れていますね。このまま歩いて帰るのは厳しいでしょうね」

『崖は登れてもお主には俊敏さが足りんようじゃの』

 しみじみとつぶやく魔樹じぃ。枝を揺らして上から頷いている。他人事だと思って無責任だ。

 親切がこんな形で災難になって返ってくるなんてとほほだよ。

「片足歩きでなんとか帰ってみせるよ」

 任せてって、胸を張るわたしにユーリは眉間にしわを寄せた。

「ご冗談を。こんな足で明るいうちに帰ることは不可能です」

 暗くなるとこの森に危険な動物が現れたりするのかな。これは困ったな。

「とりあえず魔樹探しは中断して、来た道を戻るしかないよね」

 ユーリはため息をつくと杖わたしの足に向けた。



「何するの?」

「今痛みを取り除いてあげますから。そのままじっとして」

 杖の先に淡い緑色の光が現れて、腫れた足を照らすと不思議なことが起きた。痛みがスーッとひいていったのだ。魔術ってこんなこともできるんだね。

 わたしは痛みの引いた自分の足を見ながら呟いた。

「迷惑かけてゴメン」

「本当に迷惑な人ですね。これからは痛いのを我慢してへらへら笑うのはやめてくださいね。これは一時的な応急処置です。クレーメンスの家に帰ったら薬をもらうことをお勧めします」



 優しく諭すような口調だけど、言葉の中に思いっきりトゲが入ってるよね。これは絶対に気のせいじゃない。ユーリの本音をチラッと見ちゃってさらに落ち込む。それでもわたしはユーリに感謝しているから。

「ありがとう」

 わたしは痛みと腫れがひいた足をブーツに入れると、ユーリがにこっと笑った。

「これも貸しにしておきます」

 パンダ貯金箱の中身で足りるかなぁ。元の世界に戻ったら金額を確認してみよう。




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