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習いごとは魔術です  作者: サフト
1章 魔術を身につけよう!
11/47

11 魔術を習ってみませんか?

 

 わたしはリビングを指差した。

「えっと、じゃあ。あそこにある本を動かせますか?」

「お安い御用ですよ〜」

 クレーメンスさんが杖を軽く振ると床に散乱していた本が宙に浮いて、すいーっと壁に設置されてある本棚に収まった。



「わぁ! 本が自分の場所に戻って行っちゃった。他のも動かせますか?」

「リトルレディの仰せのままに〜」

 クレーメンスさんは悪戯っぽく笑うと恭しくお辞儀する。

 わたしはここぞとばかりに、床に散らかっている巻物や脱ぎ捨てられたローブにブーツを次々指定していった。



 クレーメンスさんは快くお片付けしてくれたよ。人様の家でも散らかっていたら居心地悪いからね。

 リビングはすっかり綺麗に片付いてさらに床までピカピカになっちゃった。とっても良い感じだね。

「魔術ってすごく便利ですね!」

 向こうの世界に魔術があったら、お手伝いなんてあっという間に片付いちゃうのにね。

 こっちの世界は便利で良いなぁ、なんて思っていたら。



 ユーリが眉間にしわを寄せカップの中をしげしげと眺めて、ため息までついている。

「どうかしたの?」

「いいえ。ミリィもクレーメンスに習えば魔術が使えるようになりますよ」

「わたしにも魔術が使えるの? そんな力がある感じ全然しないんだけどなぁ」

 漫画やアニメだと何か変化が起こったりするけど現実は違う。みなぎるパワーを感じたり、自分の両手を見ても特に変わったところもない。わたしにも何か動かせるかな?



 ティーカップに向かって「力よいでよ! カップよ動け〜」なんて念じてみてもカップはびくともしなければ、紅茶に何の反応もなし。

 あっ、ユーリ。クスって笑ったなぁ。拳で口許隠してもわかるんだから。目が笑ってるもの。ちょっと試してみるくらい良いじゃない。

 口を尖らせて抗議の顔を作ったら、ユーリに堪えきれないと、肩を揺らしてさらに笑われた。むむ〜っ!



 クレーメンスさんはのほほん顏でクッキーを齧りながら、シュガーポットから角砂糖を取り出して自分のカップに一個二個と落としていった。

「自分ではまだ自覚がないと思いますが、ミリィさんには十分素質がありますよ〜。先程手に触れ確認しましたからね」

「手を触っただけでわかるんですか?」

「一人前の魔術師でしたら魔力を全身から感じ取れますよ〜。ですが、魔術師になる前のいわば卵さんは魔力が微力なので、手に触れて確認するのです」



「僕もミリィと初めて会った時、魔力を感じ取れましたよ」

 アレだよね。わたしが握手かと思って手を出し時。ユーリはあの時わたしに魔力があるって感じたんだね。

 あっちの世界で魔術は存在しないから魔力は使えないけど、感じることはできるのか。



「それと先程ミリィがイノシカを追い払おうと枝を振り回した時、見たと言っていた光ですが。あれはミリィの魔力がさせたものですよ。焦げた土からも魔力を感じましたので」

 ユーリの言葉にわたしは口をポカンと思わず開けちゃった。

 線香花火の光はわたしが出したの!?



 岩から引っこ抜いたあの枝は、ユーリはただの木だって言ってたけど、やっぱり線香花火の木じゃなかったのね。なんかガッカリ。

 あの枝をまた見つけたら、もう一度振り回して線香花火やり放題だって密かに楽しみにしてたのになぁ。



「でもあの光はすぐに消えちゃったし、あの後枝を振っても光らなかったよ?」

 クレーメンスさんは紅茶を一口飲んで考えるように宙を見た。

「それはですね〜。ミリィさんが危険にさらされ、魔力が体内から一時的に外に発散させられたのでしょうね」

 信じられない。わたしってば自覚なしに自分の魔力とやらでイノシカを撃退しちゃってたの!?



「ミリィ、魔力は持っているだけでは役に立ちません。知識を身につけて魔術として成り立つのです」

「魔術は奥が深いですよ〜。戦があった昔、魔術師は騎士と同じように国や人々を守る存在でしたからね〜。魔術は便利なだけじゃなく、人々を助けるることもできますよ〜」

 えっへんと、胸を張って言うクレーメンスさんは、見かけによらず実はすごく偉い人なのかも。不健康でゆるゆるキャラにしか見えないんだけどね。



「そうだ、良いことを思いつきましたよ〜。ミリィさんにはまず自分の魔力を知っていただくことから始めていただきましょう!」

 クレーメンスさんの意見にユーリも頷いている。

「ここで魔力や魔術について話すより、実際に体験した方が実感も持てると思いますよ」

 それはつまり。



「魔術師になるお試し体験期間ってこと? 後任の話は?」

「後任の話なんて形式上ですので今は気にしなくて大丈夫ですよ〜。まずはお試し期間です」

「それと、ミリィにはセーデルフェルトの良いところもいっぱい案内しますね。楽しみにしていてください」

 後任の話は気にしなくて良いのなら、お試し期間を体験してみようかな。



 クレーメンスさんがずいっと顔を近づけてきた。

「ミリィさん魔術を習ってみませんか?」

 クレーメンスさん、顔が近いです。

「わ、わかりました。習ってみようかな」

 返事をすると二人はにっこり笑った。

 わたし、なんだか流されている気がするのは気のせいかな?



 ユーリがなんで渋い顔してカップを眺めていたのかわかったよ。

 クレーメンスさんが淹れてくれた紅茶を飲んだら、とんでもなく濃くて苦かった。クレーメンスさんは平気な顔で飲んでたけど、飲まない方が良さそうだね。



 クレーメンスさんは甘党らしく、角砂糖を合計五個も入れたからシュガーポットをユーリに取り上げられてた。

「疲労回復には甘い物が一番なのですよ〜」

 子供みたく口を尖らせるクレーメンスさんに、ユーリはにっこり微笑んだ。

「取りすぎは体に毒ですよ」

 どっちが大人かわからないよね。



 そんなこんなで香月 美里、この春魔術を習うことになりました。(お試し体験してみます。)




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