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RC 世界の始まり  作者: 桐沢渚
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一話 フレア・バーンリミット

かつて争いがあった。踏み外した者と友だった三人との戦争は世界を焼き、争いによってそれまで存在していなかった魔物達が生まれた。

争いの後に残ったのは巨大な大陸のみ。他に島は無く、外海で囲まれた大陸は四つの区画に分けられ、各組織によって治められていた。


北の十指教。東のグランガード。南の帝国。そして、西のロイヤルクラウン。

各々の組織はそれぞれ異なるやり方で己の土地を治め、その土地を守ってきた。


争いから千年を越す時を経た世界は、四つの組織の均衡によって保たれていた。

そんな世界で今、長刀を背負った一人の少女が西の区画、ロイヤルクラウンの城下街へと脚を踏み入れた。



「んーーー!・・・はぁ!よーやく着いた!ここがロイヤルクラウン・・・」


私は大きく背中を伸ばし、先に見えるロイヤルクラウンの城を眺めていた。西の区画を統べる最強の傭兵国ロイヤルクラウン。ようやくここまで来たんだ!

それにしても・・・すごい賑わい!城への一本道を挟む形で様々な店があるんだねー。

ざっと見渡した限りで、武器屋、本屋、道具屋、酒場・・・鞍に荷物を乗せ馬を引く行商人らしき者から鎧に身を包んだ騎士。街の者であろう者、様々な人、人、人!他の城下街にはこの旅でいくつか行ったけど、ここまで大きい街は初めてだ。


私は一つ、大きく息を吸い込むと、その道を一歩一歩進み始める。宿で先に体を休めるのもいいけど、おじいちゃんから貰ったお金も底をつき始めてたし、前の町から此処までそれほど距離もなく、魔物との戦いもなかったし、体力は十分ある。

武器屋や、道具屋に後ろ髪を引かれつつも本来の目的を忘れてはいけない。おじいちゃんの期待を受け、私がここ、ロイヤルクラウンにやってきた目的。それは・・・



「ロイヤルクラウンに入れてください!」



馬車が二台並んでもまだ余裕のある橋を渡った私は、間近で見るロイヤルクラウン城の大きさ、美しさに息を呑んだ。

大きい。それに綺麗。橋の下の川も綺麗だったけど、この城は雰囲気そのものが気品に溢れてる。壁は白を基調として窓枠や屋根、所々が黒く、白と黒の絶妙なバランス。芸術は良く分からないけど、心から綺麗だと思ってしまう。

それにこの大きさ!そりゃ街からここまで結構歩いたし、そこからでも城はハッキリと見えてたから大きいとは思ってたけど、近くで見るとやっぱり違う。

見とれている私は視線を感じた。門兵が二人、私をじっと見てる・・・気がする。


城の外観に心奪われていた私はようやくさっきの言葉を言ったのだ。

門兵の二人は全身を漆黒の鎧で包んでおり、片手には巨大な斧槍を携えている。その顔も、フルフェイス型の兜によって見ることはできない。


「ようこそ我がロイヤルクラウンへ。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


女の人だったの!?こんな凄い鎧と斧槍持ってるから男の人だと思ってた。そういえばおじいちゃんがロイヤルクラウンは女性が多いって言ってたっけ・・・・と、いけない、名前名前!


「フレアです!フレア・バーンリミット!ダロの村から来ました!」


そう言った私に対して二人は何も言わず、じっと佇んでいる。私の方を見てるのか、それすらもわからないんだけど・・・。

うー・・・もしかして田舎娘は駄目なのかなぁ・・・。だめよフレア!弱気になったらだめだめ!ここまで必死こいてやってきたんだもん!絶対ロイヤルクラウンに入れてもらうのよ!・・・でもやっぱり私なんか入れる訳ないかも・・・。

不安な目で見つめる私に、さっきの門兵さんがようやく口を開いた。


「分かりました。どうぞこちらへ」


そう言うと一人は踵を返し、黙っていたもう一人の門兵さんが壁に設置されていたレバーを引いた。

鈍く、重い音を立てながら、城に似合った大きさの門が開いていく。

半分程開いた門から、先を歩く門兵さんの後を着いて行く様に歩いてく。中もまた広く、青々とした芝生に花壇が等間隔に植えられており、現在の季節である春の花が咲いていた。

正面には城内への入り口があり、そこにもまた門と門兵が佇んでいる。


はぁー立派なものだなぁ。私の村と比べると月とスッポン。いや、魔牛ステーキと蚯蚓蛙の肉くらい違うね。というか、中に入れてくれたって事はロイヤルクラウンに入れるってこと!?きゃー!おじいちゃん!私ようやくここまでこれたよぉー!


「どうぞこちらへ」


いけない、いつもの癖でまた回りが見えなくなってた。そんな私を門兵さんが待っててくれている。

慌てて小走りに近づいた私を、門兵さんは一瞥するとまた歩き始めた。

あれ?城の入り口はこっちじゃないの?なんでそんな明後日の方へ?


「あのぉ、こっちじゃないんですか?」


正面に見える城の入り口を指差す私に門兵さんはチラリと私を見ただけで何も言わず、また歩み始めた。

んんんー?確かにこっちにも何か建物はあるみたいだけど、手続みたいな物はいらないのかな?まぁ着いて行けば分かるよね。


しばらく回りの景色を見つつ門兵さんに着いていくと、思い出したかのように門兵さんが口を開いた。


「ダロの村からと来たと言いましたね」


「え?あ・・・はい。そうです」


「足で来たのですか?」


「はぁ・・・自分の足で歩いて来ましたけど」


「どれ程かかりましたか?」


「へ?」


質問の意味が分からず私は歩みを止めた。同時に門兵さんも足を止め、私の方を振り向き、真っ直ぐに私を見ている。

何日かかったかって・・・はっ!もしかしてこれは試験!?正直に1ヶ月なんて言ったら

『ぷっ、一ヶ月もかかるなんて話にならないわ!今すぐ出て行け!』

なんて言われるんじゃない!?折角ロイヤルクラウンまで来たのにそれは無いよ!

よ・・・よし。ここは嘘をついてでも10日くらいって言っておけば・・・

いや!だめだめ!嘘はつくなっておじいちゃんに言われてきたんじゃない!

ううー・・・ここは正直に言った方が良いよね・・・。


「い・・・一ヶ月・・・です」


消え入るような声で答えた私に対して、門兵さんは『そうですか』と一言発しただけで、また歩み始めた。

え・・・えっと・・・よかった・・・のかな?と、とにかく!帰れって言われなかったからいいんだよね?

おずおずと着いていく私に門兵さんはまた口を閉ざして黙々と歩く。


暫く着いていくと、様々な建物の中から一つの建物の中に入っていく門兵さんと私。薄暗い通路を抜けると中は広く、中央には石で出来た舞台。舞台を囲むように壁があり、その上に観戦する為の席が設けられいる。

なるほど、ここは一種の鍛錬場みたいなところね。と、いうことは・・・


「上がってきてください」


舞台まで歩を進めた門兵さんは私を見つめてそう言った。

ですよねー!鍛錬場なんだから腕試しするよねー!名前言ってはい合格!なんてありえないよねー!

くぅ・・・ロイヤルクラウンの方と闘えるのは嬉しいけどつまりはあれだよね。これに勝てなきゃ入れないって事。

でもまって、いくらロイヤルクラウンとはいえ門兵さんが相手ならなんとかなるかも!だって隊長さんとかじゃないんだし!私だって村では一番の腕だし!?ダロから此処までこの長刀一本で魔物と戦いながら生き抜いてやってきたし!?

よ・・・よし。やってやるわ!ここまで生き抜いてきた私の力見せてやる!

私が舞台に上がったのを見て門兵さんはハッキリとした声で説明を始めた。


「勝利条件は相手が降参するか気絶する事。殺しは不可。いいですか?」


「は、はい!」


「では・・・開始」


そう言って門兵さんは斧槍を構えた。

私も長刀を背中から抜き、構える。抜くって言ってるけど凄く長いからねコレ。腕を回して上げようにも刀身が完全に抜けないから勢いをつけて投げてそれをキャッチして構えるしかないんだけど。面倒くさいといえば面倒くさいけど、おじいちゃんが昔使ってたって言うから小さい頃からコレ使って頑張ってきたんだけど・・・。

それにしても・・・


シャレにならん!なんなのこの気迫というか勢いは!ただ斧槍を構えているだけなのに一歩も動けない。駄目だ。私はこの人に勝てない。いつもはズッシリと重い長刀の重さが分からない。手が震える。呼吸が乱れる。脹脛の筋肉がぴくぴくしてる。今の私の顔には大量の汗が流れてる筈。

嫌だ・・・この人と戦いたくない。


「怖いですか?」


そんな私を見て声をかける門兵さん。

怖いって!今まで腕に自信があるっていう奴とか魔物とか戦ってきたけど、ここまで戦いたくないって思った人は初めて。なんというか、分かるのよね。私はこの人には絶対に勝てないって。そこまで実力に差があるって一太刀も受けずに分かる。

・・・けどさ、ここで何もできず諦めたら終了ですよ。門兵さんでこれ程の方。ならもっと上の方達はどうなんだろう。見てみたい。そんな方達と一度でいいから闘ってみたい。あれ?私なんかわくわくしてる。

そんな事考えてたら不思議と呼吸が楽になってきた。手の震えも収まってきたし。


「深呼吸を」


そんな私の変化を見て門兵さんがアドバイスをくれた。言われた通り大きく息を吸い込み、吐く。不思議とそれだけで体の重さが楽になった。足も動く。よし・・・これならいける!

キッと門兵さんに意識を集中させた私は違和感を感じた。

今・・・何かした?いや、門兵さんはその場から動いてない様に見えるけど、明らかに何かが違う。というか、動いてないけど動いたような・・・矛盾するけどそんな気がする。


「見えましたか?」


「へ?」


「今のが見えましたか?」


「え、えーと・・・見えませんでしたけど・・・けど何か動いたようなそうじゃないような・・・」


もごもごと口ごもる私を見て門兵さんは納得したのか。斧槍の柄の尻部分、石突きの部分で舞台を軽く叩く。

瞬間、私の両腕と腹部と両脹脛の衣服が破れる。血は出ていない。衣服だけ優しく撫でたような感じだ。

見えなかった。何をされたかも分からなかった。けど私はその瞬間、確かに死んだんだ。


「本来ならば今頃死んでいます。まだ続けますか」


今頃あの世にいってもおかしくない状態にされて続けますか?って続けられる訳ないでしょー!

あーあ。ごめんおじいちゃん。だめだっだよ私。折角ここまで来たのになぁ・・・。なんて言って村に帰ればいいんだろ・・・。


「いえ・・・私の負けです。ありがとうございました」


私はそれだけ告げ、一礼すると長刀を投げ、背中の鞘へと入れる。

肩を落としとぼとぼと来た道を引き返そうと歩き始めると、後ろから声が聞こえた。


「どちらへ?」


「帰るんです。私は不合格ですから」


くうううう・・・どちらへって帰るしかないじゃない!これ以上惨めにさせないでよ!私のメンタルライフは既に0よ!


「誰も不合格と言っていません」


「・・・へ?」


「ですから、不合格とは言っていません」


思わず振り返る。耳を疑った。あれほど無様に負けた私に不合格ではないと言った。どういう意味かと問おうとした私より先に、門兵さんはが先に口開いた。


「始めから勝敗は関係ありません。ただ、あなたの今の実力を見る為のものです。私より実力が劣り、己を失いかけたあなたでしたが私のアドバイスを聞き入れ、しっかりと己を取り戻す事が出来ました。合格です」


そういうと門兵さんは私に近づき、鎧の篭手と一体化した手部分の鎧を外すと手を伸ばした。


「フレア・バーンリミットさん。ロイヤルクラウンへようこそ」


訳も分からずその手を握る私が感じたのは、きっとその鎧の下は笑顔を見せているであろう門兵さんの暖かさだった。


初投稿です。拙い文章で、不定期更新ですが完結まで書ききりたいと思います。

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