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Artificial Selection  作者: 宮本護風
第一高校編
6/15

出会い 5

「じゃあまず私が入ろう。合図するから、それから入ってきてください」


上杉が教室に入るとそれまで少し騒がしかった教室が静かになった。


「皆さんおはようございます。今日からこのクラスに留学してくる新しい生徒がいます。それでは入ってきてください」


生徒たち突然の報告に再びざわめく。クロエは、上杉に呼ばれ、教室へとゆっくりと歩みを進めていく。


「おお……」


「すげぇ綺麗……」


男子生徒たちはクロエのあまりの美しさに、一目見ただけで、その類の言葉しか発することしかできなかった。


「初めまして。アメリカから留学してきました。クロエ=アシュフォードです。これからわからないこともあって色々迷惑をかけてしまうかもしれませんが宜しくお願いします」


そう言ってクロエが頭を下げると、一人の男子生徒が何かを思い出したように大きな声を上げる。

「クロエさんって、アメリカINO最高のエージェントで、大統領の娘さんの人じゃん! 俺この前テレビで見たよ!」


周りもそれに同調するように再び騒がしくなる。


「その通りだ。だからお前もコテンパンにやられないようにしないとな」


「くっ、痛いところをついてきますね……」


男子生徒と上杉のやり取りがこのクラスの雰囲気を表している。悪くないクラスのようだ。とりあえず、出だしは上々だ、とクロエは思った。ふと教室を見渡すと、そこには見覚えのある顔があった。


「愛佳!」


愛佳はクロエに向かって手を振っていた。


「クロエさん、九条さんとは知り合いなのかな?」


「はい、今日の朝に出会っただけなんですけど、愛佳は私に優しく職員室の場所を教えてくれました」


「そうですか。それでは友達にも困らないようですね」


上杉は安心したようにクロエに言う。


ひと段落つくと、上杉が指示を出す。


「じゃあ、クロエさんは九条さんの席の近くの空いている席に座ってください」


上杉の指示に従い、愛佳の近くを見渡すと、愛佳の席の隣に、席が二つあることに気づいた。


「あの、二つありますけど、どっちに座ればいいんでしょうか?」


「ああ、九条さんのすぐ隣の席に座ってください。通路側の席は他の生徒の席なので」


この時、クロエは特に意識せずに愛佳の隣の席に座った。この席の隣の人間こそが、クロエが知りたくて仕方のない生徒であるとも知らずに。




「クロエ、私と同じクラスだね! 嬉しいよ!」


クロエが席に着くや否や、愛佳は嬉しさのあまり、はしゃぎだした。


「私も愛佳が同じクラスにいてくれて、一安心したわ。これからクラスメイトね」


クロエも愛佳ほどではないが、かなり嬉しそうだった。


二人が楽しそうに話していると、愛佳の後ろの方から男子生徒の声が聞こえてくる。


「九条、次の授業ってなんか予習あったっけ?」


背の高い男が低い声で愛佳に話しかける。


「ううん、次は数学だから特にないよ」


「そっか、ありがとう」


その男が去ろうとすると、愛佳は引き止める。


「待って(がく)! クロエ、この人は一条岳よ。私の男友達よ。ほら岳、クロエさんに挨拶しなさい!」


岳は立ち止まり、クロエに丁寧に挨拶をする。


「話し掛けにくくて、ためらっちゃったよ。はじめまして、一条岳です。クロエさんってすごいからなんだか話しかけづらくて。他のみんなもそう思っていると思うんだ。別に嫌ったりしてるわけじゃないからね。これからわからないことがあれば、よかったら俺に聞いてね」


「そうなの!? 全然怖くないから、みんな話しかけて欲しいわ! これからよろしくね、岳」


岳は接しやすい、気のいい青年だ。そう思ったクロエはますますこの学校における生活が良いものになると確信した。


そうして話していると、他の教員がクラスに入ってくる。


「授業始めるぞ〜」


その教員の合図で授業が始まった。


「じゃあ、また後でね。愛佳、岳」


そう言ってクロエ、愛佳、岳は自分の席へと戻っていった。授業が始まっても、クロエの隣の席は空いたままだった。





「はい今日はここまで。予習と復習しっかりやっとけよ」


そういって教員は教室から出て行った。


「ふぅ〜、疲れたぁ〜」


授業が終わるや否や、愛佳は机に突っ伏す。


「日本の数学って難しいわね、私にはついていくのがやっとよ」


「そんなことないよ! 私は確かについていくのがやっとだけど、クロエはいきなり難しい問題をふっかけられても答えられてたじゃん! すごいよ! あんなの答えられるの煌ぐらいだよ!」


愛佳は授業中に難問に正解したクロエを褒めちぎる。クロエは顔を赤くして喜ぶが、突然出てきた名前に引っかかる。


「煌? って誰かしら?」


愛佳は急に嬉しそうな表情になる。


「煌は、昔からの私の友達だよ! 本当にすごいんだ! 勉強もできて、INOエージェントとしても優秀だし!」


愛佳は煌という男のことを嬉しそうに話す。愛佳は煌という男が好きなのだろう。クロエはすぐにわかった。


「そうなの。あと私の隣の席の空席は誰なの?」


クロエの質問に愛佳はまた嬉しそうに答えようとする。


「ああ、その席は……」


「落ちこぼれだよ!」


突然他の男子生徒の声が愛佳の声を潰す。その声に愛佳は怒る。


「煌は落ちこぼれなんかじゃない!」


愛佳はこれまでクロエが見たことのないような表情で男子生徒たちに金切り声をあげる。


「落ちこぼれじゃないか。学校にはいつも遅刻、態度は最低、授業はサボるし、INOエージェントとしての心がまえがなってないんだよ。そのくせに頭だけはいいからな、あいつは。なんとかこの学校にいれているんだぜ」


男子生徒がそういって、愛佳がさらに反論をしようとしたその時、扉が大きな音をたてて開いた。


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