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Artificial Selection  作者: 宮本護風
第一高校編
5/15

出会い 4

「朝か……」


クロエと愛佳が出会った頃、他の生徒とは一足遅く、煌もようやく目をさます。おもむろにベッドの上で背を上げて座った彼は何か考え事をしているようだ。


「俺は一体何やってんだろうな……」




煌はぼそりと呟く。煌の言葉は誰にも届かず、その問いに答えるものは誰もいない。あの事件からもう直ぐ1年が経とうとしている。そう、煌が凛との戦いの中で基を誤射し、帰らぬ人としてしまった日だ。


あの以来、任務を遂行することができないほど心を病んでしまった煌は、日本INOにより、しばらくは第一高校で療養することを勧められた。もっともその時、煌には冷静な判断力はなく、それに従っただけに過ぎないのだが。


毎日遅刻し、授業も寝て、INOの訓練にも参加しない、こんな生活を送っていた。幼馴染の愛佳や、基の弟の岳は煌が以前のように心に輝きを取り戻せるように、親身に接してくれるのに、煌は何もできずにいた。


このままじゃダメだ。そんなことはわかっている。こんな生活を送っていても、死んだ基が帰ってくるわけでもないし、あの世で喜んでいるはずがない。愛佳や岳は俺のために親身に接してくれて、良くしてくれるのに、本当に何をやっているんだろう。事件からしばらくたって、物事を冷静に考えられるようになった煌は毎日毎日こんなことを考えていた。


俺がやるべきことは、凛を倒し、ネオナチスを瓦解させ、アウスバルの存在を完全に消すことだ。INOも俺の力を必要としているはずだ。煌は頭ではわかっていたのだ。それでも行動に移すことができない。あの事件がやはり、まだ煌を苦しめ続けているのだ。


煌はひとしきり考えた後、ベッドから出て、遅刻ではあるが、高校に行く準備を始めた。






クロエは愛佳とともに必死に駆けている。


「愛佳、まだ着かないの?」


まさか入学初日から走るとは思っていなかったクロエは少し到着を焦っている。


「到着、ここだよ!」


愛佳は突然止まる。クロエはそれに対応できず、少し愛佳を追い抜いてしまう。


「ここが職員室なの」


「うん! じゃあ私は急ぐから! またね!」


そう言って愛佳は遅刻しないように走り出した。


「そそっかしい子ね……」


クロエはため息をつきながらも親しみやすい愛佳に早速親近感を抱いていた。とにかく友達に困ることはなさそうだ。そう思って職員室に足を踏み入れる。


(確か上杉先生だったわよね)


クロエは昨日職員に言われた担任の名前を思い出しながら職員室の前で声を出した。


「おはようございます。転校生のクロエ=アシュフォードです。上杉先生はいらっしゃいますか?」

クロエ=アシュフォード。その名を聞いた職員全員が凍りつく。


(何かまずいこと言っちゃったかしら?)


クロエは自分の言動を省みるが、特に気になるところはなかった。すると、奥の方から男の先生がクロエの元へ歩みを進めてくる。


「初めまして、クロエ=アシュフォードさん。これからあなたの担任をさせていただきます、上杉と申します。よろしくお願いしますね」


上杉は腰の低い、優しそうな人物だった。


「はい、よろしくお願いします」


「時間もありませんし、教室に向かいながらお話をしましょうか」


クロエは上杉に連れられて、教室へと向かった。


教室への間に上杉はクロエに話しかける。


「クロエさん、お話は聞いています。アメリカINO最高のエージェント。数々の任務をこなしてきた。今回はさらなる力の向上を目指して、お父様、つまり合衆国大統領の勧めで、この第一高校に留学した。そう耳にしております」


「はい、最高のエージェントという肩書きなどはここでは何の役にも立ちません。ここでもトップになれるように精一杯頑張ります」


「素晴らしい心構えですね。その様子だと、トップを取るのは容易いことでしょう」


上杉もクロエをおだてているような態度をとる。上杉だってあの職員が言っていた、INOで一番の能力を持つ者の存在を知っているはずだ。それを知りながら、クロエを褒め上げる態度に嫌気がさした。


「ああ、そういえばとんでもない奴が一人いたな」


上杉は思い出したようにそう呟く。


「とんでもない奴?」


クロエは待ってましたと言わんばかりに知らないふりをして、その情報を少しでも聞き出そうとする。


「ええ、我々元INOエージェントの教員陣が100人で束になっても赤子の手をひねるように我々を打ち負かしてしまう、そんなとんでもない奴がね」


「100人をですか!?」


クロエは驚きを隠せなかった。元INOエージェントと言ってもその実力は折り紙付きだ。そんな彼らを打ち負かすのはクロエでも3人が限界だろう。


「ええ、もはや普通のINOエージェントとは格が違う、とでも言っておきましょうか」


「率直にお聞きします、その人の名前を教えてはもらえないでしょうか?」


クロエはその人物の名前が知りたくて仕方がなかった。


「今話した内容は極秘ですので、それを特定するようなことはできません。あなた自身の目で見極めてください」


またそれか。クロエは話をはぐらかす職員といい上杉といい、少し鬱陶しく思っていた。




そうこう話しているうちに、教室へとたどり着いた。


「ここがあなたがこれからを過ごす、第一高校2年A組です。クロエさんは強襲科ですね。準備はいいですか?」


第一高校には二つの種類がある。強襲科と後方支援科だ。強襲科は主に、攻撃を仕掛けることに特化した訓練を受ける。後方支援科はパソコンを使った情報収集、ハッキング能力、新兵器開発などに関わる講習を受ける。クロエはもちろん強襲科だ。


「はい」


クロエは大きく息を吸った。教室に入る準備は整った。クロエが新たな生活を始める第一歩出会った。


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