コンペティション 4
クロエは煌とのやり取りを終えて教室へと戻ってきた。
「クロエ、どうだった?」
教室へ入ると愛佳の姿があった。
「ええ、ペアを組むことには成功したわ」
クロエは嬉しそうに愛佳に伝える。
「お〜! よかったじゃない! 煌とクロエが組んだら最強だもんね!」
愛佳が喜んでいるそばで、岳は黙っていた。
「もちろん、煌に無理強いはしていないから安心して」
クロエは岳に自分はちゃんと煌の同意を得てペアを組んだことを強調する。
「そうか、それを聞いて安心したよ」
岳の表情に微笑みが戻る。
「というか、岳は煌が復帰できないようにしているとしか思えないよ。なんなの無理強いしないでって」
愛佳は事情を知らない。だから悪気はないのだ。岳はさっきから何度も自分にそう言い聞かせている。
「そういうわけじゃないさ。ただ煌にはまだ早いのかもって思って」
岳はもっともらしく理由を述べる。
「そんなこといって甘やかすから、煌はいつまでたっても戻れないんだよ。もしかしたら、岳の
せいで煌はあのままなんじゃないの?」
「愛佳、少し言いすぎよ」
愛佳の無神経な言動に、ついに岳は我慢の限界がきた。クロエは愛佳を諌めたが、もはや岳は止まらなかった。
「九条、お前は何も知らないくせに、煌のことを本当に考えているような態度をとるよな。俺にとっては不愉快以外の何物でもないよ。煌がああなった理由はここでは俺しか知らない。どうせお前が知っているのはあいつは任務中の大きな事故で心を病んだってそんな程度なんだろう。そんな薄い理解でよく煌の保護者ヅラをできるよな。全く、勘違い野郎はこれだから鬱陶しいんだよ」
岳はいたって冷静だった。クロエにはいつもよりも岳は冷静であるように見えた。まるで冷静を保って怒りをいかにも論理立てて説明しようとしているようだった。岳の冷めた目にクロエは恐怖すらも感じた。
「な、何よ……。何怒ってるのよ?」
愛佳も少し岳を恐れているようだ。
「怒ってないさ。ただ、俺からしたらお前の言動は論理的でなく、感情に任せて、情報不足の状態で俺を批判してくるから話にならんと言っているだけだ」
そう言って岳は教室から出て行った。
岳が出て行った後、クロエと愛佳の間には少しの沈黙が流れた。
「なんなのよあいつ! いけ好かないわね!」
愛佳がせめてもの抵抗をクロエに見せた。
「大体あいつはいつもああやって気に入らないことがあったら、いかにも自分が正しいみたいに、冷静でいながら、私を理詰めで怒ってくるから嫌なのよ!」
愛佳がヒステリックに怒り出した。
「でも、愛佳にもダメなところはあったんじゃない? 岳は何か真実を知っているようだけど、それを無視して岳を批判するのはダメだったと思うわ」
クロエは愛佳の至らなかった点を幾つか批判した。
「確かに私にも悪いところはあったけどさ、それならその真実を教えてくれてもいいじゃない。話さないから説得力がないのよ」
「もしかしたら、打ち明けられないほど厳しい真実なのかもしれないわ」
クロエの鋭い指摘に愛佳は黙り込んだ。
「はい、もうこの話終わり! 岳はほっとけばまたいつもみたいに戻るよ!」
しばらくして愛佳の大きな声が響き渡る。愛佳はそれ以上岳のことと事件のことについて考えるのをやめた。
「ところでクロエ、煌との練習とかは決まっているの?」
愛佳は話題を変えて、クロエと会話を始めようとする。
「いいえ、煌は私と練習する気は無いらしいわ」
「ええ!? そんなの無茶でしょ! 練習がなかったらお互いの動きもわからないし、特徴だってわからないじゃない!」
焦る愛佳にクロエは落ち着いて話す。
「大丈夫よ。私に考えがあるの。私はパートナーの理解に失敗したことがないから任せて」
クロエは自信満々だった。クロエが一体どんな方法をとるのか、愛佳には全く見当もつかなかった。