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Artificial Selection  作者: 宮本護風
第一高校編
12/15

コンペティション 2

煌は教室を出て廊下を走っていた。煌は何かから逃れるように走っていた。もちろん追いかけてくるものなど何もないのだ。煌は彼自身から逃げたかったのかもしれない。


煌はとにかくどこかへ行きたかった。一人になれる場所に、いち早く行きたかった。煌は子供のように周りの目を気にせず、必死に走っていた。


こんなことをしても何にもならない。煌はそんなことはわかっていた。しかし、彼にはそれ以外の対処法が全くわからなかった。


せっかくクロエに出会えて、叱咤激励を受け、INOに戻る決意をしたのに、どうしていきなりの訓練で味方のパネルを撃ってしまったんだ。敵のパネルを撃って、命中させるのはもちろんいいし、最悪外してもいい。それでも、味方の標的だけは絶対に撃ってはいけない。そんなことは、実際に味方を誤射した俺が一番よくわかっている。


それなのに、俺は絶対に撃ってはいけない味方の標的をまた撃ってしまった。俺は何かに呪われているのか? ふざけんなよ。


確かに、俺が決意を新たにした時、基からの声が聞こえたんだ。あの時基は俺の成功を祈ってくれた。それで俺が失敗したってことは、あれは俺の空耳で、実際は、基は俺にINOに復帰することを望んでいないってことなのか? 


基、はっきり教えてくれ。俺がINOに戻るべきなのか、それともINOに戻らずに普通の人間として一生を終えるべきなのか。


煌は走りながらそう祈ったが、救いの声は聞こえてこなかった。基の声が聞こえてこないことは、煌の復帰の判断をさらに利己的なものであったと、煌自身に痛感させた。


煌はどうすればいいかもわからず、とにかく走り続けていた。





クロエたちが残った教室には、煌が出て行った後、すぐに上杉が授業に入ってきた。


「それでは授業を始めましょうか」


上杉は教卓にたって、周りを見渡す。今日も煌がいないことに気づく。


「煌は今日も遅刻ですか。全く、訓練に参加して真面目に戻ったかと思えば、訓練が終わるとすぐに訓練場を出て行くし、学校をそれ以来休むし、今日は遅刻するし、何を考えているのでしょうね」


上杉の言う通りだ。煌が出て行った理由はクロエと愛佳始め、全員のクラスメイトがわからなかった。ただ一人、煌を再び闇に陥れた理由を知っている岳を除いては。


「煌はさっきは来ていました。でも私が今度のコンペティションでペアを組むことを要求すると、取り乱して、また出て行ってしまいました」


クロエは上杉にあったことを話す。


「ますますわかりませんね。クロエさんにペアを組もうと言われたことが気に入らなかったのでしょうか? そうだとすれば、彼はかなりの変わり者ですね」


クラスは一瞬上杉のユーモアに明るくなった。ただクロエはしかめつらしい顔つきをしていた。なぜ煌は出て行ったのか? 少なくとも、自分が言ったことに間違いは無かったし、煌を怒らせるような発言も無かった。となると、愛佳の発言か? しかし愛佳の発言にもトゲのあるものは無かった。それ以外の可能性もクロエには考えもよらなかった。


ただ一つ、考えている中で、気になることが立ち現れた。煌が出くわした任務中の事件。それは一体何なのか? 煌が急に取り乱すとすれば、それを知らない者がそれを掘り下げる発言をした以外考えられない。クロエは答えには近づきつつあったが、全貌は、まだ不明瞭なままだった。


この時、岳だけは煌の取り乱した理由を知っていた。


「訓練に参加してうまくできたじゃない」


この愛佳の言葉が煌の思い悩む心に水を差した。煌にとっては、味方の標的を撃ってしまったあの訓練はうまくいったはずなどないのだ。確実に立ち直った煌の心の中に、あの基との記憶が再生していたのだ。岳は、わざとではないにしろ、煌が取り乱した原因を作った愛佳を憎んだ。





授業が終わり、クロエは岳と愛佳の元へ来る。


「ねえ、煌がどこに行ったかわかるかしら?」


検討はついていたが、岳はクロエの質問に答えたくなど無かった。再び煌をさらなる闇へと突き落としかねない可能性を作るクロエを煌から遠ざけておきたかった。


「わからないな。あいつはいつも適当に思い立ったところへ行くからな」


岳は答えをはぐらかした。


「煌なら屋上じゃないかしら? 煌は屋上によく行くよ!」


愛佳が岳の思いをないがしろにするがごとく、何の下心もない満面の笑みでクロエに答えを教える。岳は愛佳にさらに苛立った。


「そうなんだ! ありがとね、まだあいつとの話は済んでなかったから!」


そう言ってクロエは屋上へと急ぐ。


「クロエさん」


岳はクロエを引き止めた。クロエは岳の方を振り向く。


「何かしら?」


「ペアのことだと思う。クロエさんは煌と組みたいのかもしれない。でも煌がそれを望まないのなら、無理強いはしないでやってほしい」


ただでさえ真面目な岳はいつも以上に真剣な表情で言う。何かクロエも感じるものがあったのだろう、クロエはそれを受け入れた。


「わかったわ」


そう言ってクロエは屋上へと今度こそ出発した。


「ねえ岳! どうして煌がクロエとペアを組んでコンペティションに出ることに反対するのよ! 煌が立ち直れるいいきっかけじゃない!」


愛佳は岳の言動を批判する。


「何も知らない奴がそうやっても、煌を苦しめるだけだ」


愛佳は岳の言葉の意味がわからなかった。二人の心の溝は、広がりつつあった。

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