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Artificial Selection  作者: 宮本護風
プロローグ
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プロローグ

「凛、久しぶりだな」


煌が真剣な表情で前にいる男を見つめる。


「ああ、いつぶりだろうな。父親とはいえ、ネオナチスを裏切ったくせに、よく俺の前に姿を現わすことができたな」


凛の言葉には皮肉が満ち満ちていた。凛という名前の割には、その口調は嫌味ったらしいものであった。


「煌、再会を喜んでいる暇なんてないぞ。俺たちはINOの一員として、これでネオナチスを崩壊させて、平和な世界を作ることができるんだ」


そう言って基は拳銃を構える。銃口は凛の方を向いていた。


「そうだな。ネオナチスを倒すことができれば、これ以上世界における争いは起こらなくなる。それに……」


基の言葉に感化されて、煌は短剣を両手に持ったが、煌はしばらく言うのをためらった。


「これ以上、俺とお前のような存在も生まれなくなる」


煌は凛の方を終始見つめていた。


「俺とお前はアウスバル計画の最高傑作だっていうのに、それをお前が撲滅しようとするのか? とんだ矛盾だな」


凛は笑みを浮かべながら、右腰にしまっていた銃に手をかける。その刹那、基が発砲する。


「先手必勝!」


そう言って放たれた弾丸は本来ならば、凛に命中していただろう。だが、気付いたら、弾丸は後ろの壁に当たっていた。凛は普通の動きでかわしていた。


「おい、お前、どこ撃ってんだよ?」


凛は前に立っていた場所から少し右に離れた場所に何事もなかったかのように立っている。


「やはり一筋縄ではいかないか……」


基は凛の不意をついたつもりだったのだが、そんなことには意味はなかった。


「基、そんなことは意味がないぞ。あいつを倒せるのは、あいつと同じ、アウスバルの俺だけだ。お前は俺の後方支援に回ってくれ」


そう言って煌は、両手に持っている短剣を凛の方に向けて、凛と全く同じ速さで動いて、凛に突撃した。


「やった!」


基は煌の迅速な動きに勝利を確信した。だが、凛も同じく短剣で煌の攻撃を受け止めていた。


「危ねぇ危ねぇ。もう少し遅れていたら、お前の短剣は俺の心臓に突き立てられていたよ」


今度は凛が反撃に転じる。煌も負けじと激しい打ち合いが始まる。二人はアウスバルの能力の一つである、量子演算からの未来予知(prediction)により先を読み合い、さらに覚醒神経による超速行動(mobility)により、ありえない速さで攻防を繰り返した。


「すごい……。これがアウスバルの力か……」


基は、自分には到底できない芸当を目の当たりにして、ただただ感嘆することしかできなかった。基は後方支援のことなど忘れていた。


「基、俺たちから目を離すな! 隙を見つけたらすぐに撃つんだ! 俺に当たるかもしれないなんて、そんな心配はいらない! 俺なら必ずかわせるから!」


煌の言葉に、基は我に返って、必死に二人の動きを追った。


激しい打ち合いの中で、凛が口を開く。


「なあ、煌。お前はどうしてネオナチスを倒そうとしているんだ?」


「お前たちが世界の平和を脅かしているからだ」


「お前は自分をアウスバルと疎む勢力の一員になって、そこで平和を望むのか?」


煌は言葉に詰まる。


「ネオナチスに戻れ」


凛の言葉は急に優しくなった。煌は依然として何も言えなかった。


「俺たちなら、お前をアウスバルなどと言って蔑んだりはしない。むしろ、俺たちはネオナチスでは改革を進める英雄でいられるんだ。それに比べてどうだ? 連合国のやつらは、お前を世界平和のためと言って、激戦地に駆り出して、あたかも正義を装っている。そんな奴らのためになぜお前が身を危険にさらす必要があるんだ? だいたい、日本だって、昔はドイツ、イタリアと同盟を結んで、アウスバル計画に与していたからこそ、第二次世界大戦で勝つことができたんだ。なのにあいつらは第三次世界大戦に勝つために、アウスバルの研究所をことごとく破壊して、勝利したんだ。そんな行為をしたあいつらが、平和平和と声高に叫んでいる。そんな世界に反抗するためにネオナチスは成立したんだ。なあ煌、いったいどっちが正義なんだ?」


凛の至って論理立てられた説明に、煌は何も言えなかった。


「煌、そんなやつに惑わされるんじゃない!」


基の声で煌は反論に転じた。


「ネオナチスは、それならどうして武力に訴えて、平和を求めるんだ? 話し合いでわかるはずじゃないか」


煌を連合国側にとどまらせた基に、凛は嫌悪感を抱く。


「もう少しだったのによ。あの基とかいうやつ、ウゼェ!」


そう言って凛は、基の方に向かった。基は防衛態勢をとる暇もなかった。


「基! 危ない!」


煌は素早く腰元から銃を取り出し、基の方に向かう凛を撃った。煌は未来予知(prediction)を使うことができなかった。基を助けることに必死で、焦ってしまった。


「かかったな!」


凛がすっと右にはける。凛が避けると、そこには基が立っていた。煌が放った銃弾は基に向かっていた。煌は右手を基の方に向ける。だが、もうどうしようもなかった。銃弾は基の胸を貫いた。基はその場に倒れこんだ。


「あ、ああ、あ……」


煌は自分がしでかしたことに、自分で驚き、まともな声も出なかった。


「基!」


煌は基へと駆け寄る。基の胸からは血が溢れ出て止まらない。


「あーあ、仲間殺しちゃったね。煌が悪いんだよ、ネオナチスに入っていたら、こんなことにはなっていなかったのに」


凛はあたかも悪いのは撃った煌というような口ぶりだ。煌はそんな言葉に耳を傾けている暇はなかった。


「基、基!」


煌が何度叫んでも、返事はない。出てくるのは、血だけだった。そんな中で、ヘリの音が聞こえる。ネオナチスのヘリだった。


「惜しかったな! もう少しでネオナチスを潰せたのに! 俺たちは絶対にあきらめない! INOをぶっ潰してやる!」


そう言って凛はヘリに乗って去っていった。後に残ったのは、煌と、返事をしない基だけだった。煌の言葉にならない悲痛な叫びが、ドイツの地に響き渡った。


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