バベル
忙しくて更新遅くなりました><
「ちょいとばかしダンジョンに潜る前に食いすぎちまったなぁ…。ま、ダンジョンの1階層は上層から魔物が降りてこない限りポップしないし腹ごなしの散歩には丁度いいか」
「まだ装備も買ってないのにそんな呑気なこと言ってていいのかよ…。」
念のため、敦士兄ちゃんのお古のナイフを護身用にと貰ってはいるが…。
「バベルは潜る冒険者も多いし、2階層では兵士が警備してるからな。2階層の兵士が全滅しない限り降りてくるなんてことは滅多にないから心配するな。万が一、魔物が降りてきても俺がなんとかしてやるさ」
はぁ…。初めてのダンジョンだってのに呑気なもんだな…。
アマンダの酒場で食事を終えた俺たち二人は、ステータスを取得するためにバベルへ向かって歩いていた。
震災前は新宿駅のあった場所に今では駅のかわりに雲をも突き抜ける塔が鎮座している。
太陽に照らされている塔を見上げながら俺は目を細めた。
新宿駅の旧東口のアルタ前はバベルを中心に広場になっていて多数の冒険者や道具屋などが集まっていて、ダンジョンに潜る冒険者は装備のチェックや薬などの買い足しなどをしている様子が各所で窺える。
「バベル30階層までのポタ50000DYで承りますー!」
「マッピングスキル持ちレベル4ポーターです!パーティーにどうですかー?」
「戦闘スキル持ちレベル8鍛冶師!レベリングに付き合ってくれる奴はいないか?」
バベルからすぐのこの広場は屋台街より人は少ないが、ポタ屋やパーティー希望者などの賑わいをみせており、屋台とはまた違った活気に満ちているように見える。
「ねぇ敦士兄ちゃん。ポーターって何?それとレベリングって?」
「ポーターってのは道案内をしながら荷物持ちをする奴の総称だな。空間拡張魔法のスキルを持ってるが付与は出来ないって奴には安定した職業として人気だ。レベリングってのは自分のレベルより高い 魔物 と戦うことでレベルを上げやすくする方法だ。あの鍛冶師のおっちゃんは多分、鍛冶の素材を自分で入手してるのだろう。レベルを上げて階層を重ねれば希少な鉱石なんかも手に入るからな。」
なるほど。アイテムポーチやアイテムバッグなどの魔道具と言われる物は高価だからすぐには買えないもんな。
そのポーチにも限界があるわけで…。空間拡張魔法があれば荷物を気にしないでダンジョンに潜れるっていうのは確かに魅力的だ…
お、あのポーターはパーティーが決まったみたいだ。4人組の如何にも冒険者って人たちとワープポータルに乗って消えて行った。
鍛冶師のおじさんはアマンダさんみたいに自分で素材を採ってくるスタイルなのか?
見た目はかなり強そうなのに中々パーティーに誘われないなぁ。
「あの鍛冶師のおっちゃんは中々パーティーに誘われないね。何か理由でもあるの?」
「あぁ、生産職のレベリングってのは戦闘職と比べるとリスクが高くなるからな。いくら戦闘スキルがあっても戦闘を生業にしてる奴と生産を生業にしてる奴ではスキルのレベルも違えばステータスの上がり方も違うからな。まぁスキル基本的にスキルは秘匿するし、聞かないのもマナーだから実力がわからない奴とは組み辛いってところか」
「言えばいいのにとは思うけど、そんな訳にもいかない…のか。」
「冒険者のスキルは命綱にもなるからな。生産職でレベルを上げたいなら根気よく固定のパーティーを探すか低階層で自力で頑張るしかないな。まぁ本職が鍛冶師なら固定で組むのも困難だろうが…。そんなことより今は自分の事を考えろ。お前はスタート地点にも立ってないんだからな」
そうだ。今は人のことを言ってる場合じゃない。
剣術のセンス的にも戦闘スキルが取れないってことは無いだろうと言われてはいる。それでも実際にステータスを取得してからでないと戦闘スキルの有無は確認できないわけだし、俺は不安を拭いきれないでいた。
「よし、着いたぞ。これから入るわけだが注意しておくぞ。まだお前は装備も揃えてない無防備なただの人間だ。今日はステータスを取ってダンジョンの雰囲気を見せるだけ、俺の指示には絶対に従ってもらうし、まず遭遇することはないと思うが、万が一に魔物が出ても手を出すな。この2つはしっかり守ってくれ。わかったな?」
俺はしっかりと敦士兄ちゃんの目を見て頷くと俺たちはダンジョンの入り口を潜った。
「ウグッ…」
視界が歪んだと思うと目の前が一気にホワイトアウトする。それに何だ?この体が引っ張られる感じは…。
俺は気づくと真っ直ぐに伸びた横幅25メートル程の廊下に立っていた。
細かなレリーフが刻まれた美しい壁面は何とも神秘的で、壁面のいたるところについている石が薄っすらと光ることで明かりの役目を果たしていた。
1階層は2階層の入り口まで真っ直ぐな一本道で出来ており、分かれ道は一切ないということで今回は2階層の入り口まで行くことになった。
俺はあの気持ち悪い歪みのおかげで未だに視点が定まっていないが、遅れまいとよろよろとと後ろをついていく。
「大丈夫か?ダンジョンの出入りと階層の移動はいつもこんな感じだ。出口と入り口には基本的にモンスターはいないが毎回の警戒は怠るなよ。これで外に出ればステータスを見られるようになったぞ。ちなみにダンジョンの外に出ないとレベルとスキルは更新されないから階層を上るときは気をつけろよ。」
一体どんな仕組みなんだろう…。
魔力っていうのは研究の成果として観測することに成功している。魔力とはダンジョンやモンスターが二酸化炭素を取り込んだあとに排出する魔素という気体を変換したもので、ステータスを持っているものは魔素を体内で魔力に変換できるようになることが分かっている。これは魔物も同じことができるらしい。
人によっては人間の魔物化だと言う人もいるし、ステータスを持つことに異論を唱える者も多い。彼らは自分たちのことを自然体と言い。ステータス所持者を差別や軽蔑の対象としている。
ステータスやスキルに関してはまだ何もわかってないだけあって不安な人間のほうが多いのだから、そのような人々が自然と現れるのも頷けるけどね…。
「さてと、そろそろ1階層の中間くらいまできたけど戻るか?当初の予定通りステータスはこれで習得できてるはずだしな」
「そうだね。まだ装備もないことだし戻ろう。ステータスも早く見たいしね!」
「そうだな。俺もお前のステータスは楽しみだ。かえろ…!?この音は何だ!?」
ゴゴゴゴゴゴゴッ…っと何かが崩れるような音に言葉が遮られる。
音を辿るとどうやら足元から聞こえてきているようだ。周りの床を見回していると異変に気が付いた。
「敦士兄ちゃん!床が!!!」
「床にひびが!?おかしい!1階層にはこんな罠はないはずだ!入り口まで振り返らずに走れ!どう考えても異常事態だ!」
その言葉を聞いて全力で廊下を駆けるが、まるでひびが意志を持っているかのように俺達二人を追いかけてくる。
視界に映る床のひびは徐々に大きくなってきている。目の錯覚や気のせいではなさそうだ。
「あ、敦士兄ちゃん!?これどうなってんだよ!?」
「こんな事は俺も初めてだ!何が何だかわからねぇ!いいから喋らずに走るのに集中しろ!」
「そ、そんなこと言っても…!うわあああぁぁあああっ!」
ひびが無かったのは確認していた!何でこんなことになったんだよ!!!!
踏み込んだ床が突然沈み、俺の右足に絡むようにして床がガッチリと固まった。
「敦士兄ちゃん!足が床に!足が!!!!くそぉぉお!!!こんところで…!こんなところで死んでたまるか!!!」
俺は必死に固まった床から足を抜くために左足に力を込める。うんともすんとも動かない状況に冷たい汗が全身から流れ落ちる。
敦士も葉を助けようと動こうとするが、葉の周りを囲むようにしてひびが入っているため近づくことが出来ずにいた。
〈おかしい!葉の周りでひびが止まっている!?ピンポイントで葉を狙ってるってことか!?こんな現象はどこのダンジョンでも聞いたことがないぞ!!!!〉
「葉!今からロープを投げるからそれを体に巻きつけろ!どんな仕組み化はしらねぇーが、どうやらひびは意志を持ってお前だけを狙っているようだ!早く!!」
素早く投げられたロープを掴み体に巻きつけようとするが、徐々に広がるひびに焦り手元が覚束ない。
〈こんな簡単なこと!!落ち着け…!!落ち着け…!!!〉
俺は自分の心に言い聞かすようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「早く巻きつけろ!落ちても俺が引っ張り出してやる!!!」
そうは言われても焦りはそう簡単に拭うことができない。
未だ抜けそうもない右足を見ると、周りのひび割れた床が俺を中心にしてぐにゃぐにゃと動き始めた。
一瞬の浮遊感。俺の体は足元にぽっかりと空いた穴に落ちていく。
すぐに上を向いて穴の端に手をかけようとするが、その手は空を切るだけで掴むことは叶わなかった。
頭上から俺を呼ぶ敦士兄ちゃんの声が聞こえているが、さっきまで空いていた穴が徐々に塞がっていくと、その声も聞こえなくなった。
穴は途中から細くなっているのか、滑り落ちるように下へ下へと体を運んでいく。
どうにかしてスピードを緩めようと接地面を手で押えると、接地面はスベスベとしており、まるで滑り台のようだ。
少しスピードは落ちてきただろうか?俺はどうなる?死ぬのか?
どこに滑り落ちてるのかはわからないが、目線を先にむけると僅かに光がこぼれている。
〈こんなところで死ぬわけにはいかない…!〉
葉は足と手を使ってさらに減速を試みる。
二度目の浮遊感。俺は薄暗いトンネルのような場所に体を投げ出された。
次回の更新も少し遅くなると思われます…