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TOKYO DUNGEON  作者: 心
8/10

ボロボロの酒場

仕事が忙しく更新遅くなりました。

「はぁ…きつかった…。こんなんで飯食えるのかな俺…」

 

 気持ち悪さも大分落ち着いてきて、俺たちは食事に行くことにした。

 

 乗り物酔いもしないし、絶叫アトラクションも得意だったはずの俺を気持ち悪くさせるほどのブンブンをやった張本人は反省の色もなく、足取りは軽やかだ。

 

 〈嬉しいのはわかるけど…。せめてごめんの一言くらい…〉

 

「敦士にいちゃん。何か言うことない?」

 

 俺は恨みがましい目で敦士兄ちゃんを見るが、敦士兄ちゃんの返答は右斜め上をいっていた。

 

「何食べる?ってちょっ!おい、やめろ!蹴るなって!」

 

 こんなことになるなら言わなきゃよかった…

 

 そもそも、こんな恨みがましい目をしてる相手に食事のジャンルなんて普通は聞かないだろ!!

 

 俺は敦士兄ちゃんのすねを蹴り続けた。

 

「もしかしてあれか?さっきのゲロ気にしてんのか?痛い!痛いって!」

 

「ゲロ?誰のせいで吐いたんだっけ?普通は一言あってもいいんじゃない?今なら涼音さんが何に対して謝ってるのか聞いた意味が痛いほどわかるよ」

 

「それは本当にすまん!俺が悪かった!だから蹴るのをやめてくれ…!」

 

 レベル6の冒険者に痛みを感じさせる程の蹴りを何度も繰り返すのはそれなりの体力を使うので、俺は仕方ないな…といいながら蹴るのを止めてあげた。

 

「お、お前…なんか逞しくなったな…」

 

「あ?誰のせい?」

 

 俺の怒気におされたのかヒィッと小さな悲鳴を上げた敦士兄ちゃんの平謝りはバベルの周辺に広がる屋台街まで続いた。

 

 

 目の前には道を行きかう数えきれない人と数百もの屋台が広がっている。

 

 普段であれば、それがお祭りのようだなとテンションも上がるのであろうが、その屋台の先を見れば、新宿、いや、東京最大級のEXダンジョンと言われる『バベル』の堂々たる姿が現れ、俺は言葉を失ったまま立ち尽くしてしまう。

 

「ち、近くで見ると高すぎない?これがダンジョンなの?」

 

「このダンジョンが特別なだけだ。他の地域に雲を突き抜けるような高さのダンジョンは発見されてないしな。攻略はいつになることやら…。広さも魔物の強さもあるが、最前線で戦っている攻略組達も階数で言えば横浜のランドマークタワーにも届いてないんだからな…。」

 

 これと同じような高さのダンジョンができたらすぐわかるよな…

 

 そういえば、ランドマークタワーって何階だっけ?エレベーターに乗った時に耳鳴りがしたのは覚えてるけど…。

 

 てかそんな高い場所を毎回のように攻略組は上り下りしてるのか!?

 

「ねえ敦士兄ちゃん?ダンジョンって一階街に戻ったらまた最初から上らないといけないの?それだとバベルって実質攻略不可能じゃない?」

 

「あぁギルドで説明されなかったか?涼音さんも抜けてるな。答えは『ノー』だ。基本的にはポタ屋が指定された階層に転移させてくれる。ポタ屋ってのは一度行ったことのある場所ならダンジョン内〈と言ってもポータルが使えるのは階層の入り口限定だが〉に転移可能なんだよ。ただ攻略組のいくような最前線は普通のポタ屋じゃ実力的にも行けないからクランやパーティーで育成して囲うんだよ。転移術者が弱くて攻略中に死んじまったら最悪の場合、帰れなくなっちまうからな」

 

 過去に実力のないポタ屋が金を払って高位のポタ屋に最前線に転移を頼んだことがあって、彼は実力もないのに格安で最前線までのポタ屋をしていたらしい。

 

 しかし、ダンジョン内で護衛をしながら探索などできるはずもなく、あっけなく死んでしまったのだという。

 

 依頼をしていた冒険者は徒歩で入り口まで出ることには成功したがパーティーはほぼ壊滅状態になった。

 

 これに問題があると気づいた冒険者は法律では決まっていないが、冒険者のルールとして最前線に行く場合は実力のある転移術者のみを連れて行くことに決めたらしい。

 

 だけどこの決まりには無理があった。転移術者はそれなりの数がいるが、実力者となると数えるほどしかいないのだ。

 

 攻略を進めたいクランやパーティーはこぞって実力のある転移術者を囲い込もうとする。

 

 そうするとどうなるか?囲い込みに失敗した者は徒歩をよぎなくされる訳だ。

 

 徒歩で攻略をするよりも、まだ低レベルの転移術者を育てた方が効率がいいので、囲い込みに失敗したクランやパーティーはほぼ全てが今ではそうしているという。

 

「取り敢えず、飯にしようぜ。ここが俺のオススメの屋台だ。俺が紹介するからには味は保障するぜ?値段も安いし量も多い!駆出しの時は毎日ここに通ってたもんだ」

 

 敦士兄ちゃんが指を指してる屋台は大き目のテントのようになっており、綺麗とはお世辞にも言えないようなボロボロの店?であった。これ知らなかったら店だなんて思わないぞ…。

 

 他のお店はこんなボロボロのテントじゃないぞ!?オープンして長くても5年しか経っていないのに、ここまでボロボロなるもんなのか?と俺は不安に思うも敦士兄ちゃんの顔は自信満々だ。

 

 すたすたと歩いてる後ろを俺は少し不安に思いながらついていった。

 

「2名様かい?持ち帰らないなら早く中に入っておいで!入り口に立たれたんじゃ邪魔だよ!…って敦士じゃないか!」

 

 恰幅のいい50代くらいの欧米人のおばちゃんが酒樽を持ちながら敦士の顔を見て笑顔を見せる。

 

 近くで見ると太っているというよりも筋肉でパンプアップされているといった感じだ。

 

「アマンダさん!お久しぶりです!最近、池袋のクエストで新宿に来ていなかったもので顔も出せずに申しわけない」

 

「みんなで心配してたんだよ?まぁアンタみたいなしぶとい奴が死んだとは思ってなかったけどね!っとこっちの女…男の子かい?まさかあんたショタにめざ…」

 

 おばさんの言葉を最後まで聞かずに敦士兄ちゃんは会話を遮る。

 

「ちょっとアマンダさん!!冗談でもやめてくださいよ!こいつは俺の施設の後輩…弟みたいなもんです。今さっき冒険者登録したルーキーですよ」

 

「あぁ…この子があんたの言ってた子かい?涼音を諦めたのかと思ったよ!今日はたくさん食べさせてやるからとにかく入んな!」

 

 敦士兄ちゃんGJ!このおばさん危ないこと言おうとしてたよ!

 

 てかやっぱり涼音さんを狙ってんだなぁ…

 

 気持ちは痛いほどわかるけど。

 

 俺はスルーしてあげようと涼音さんの名前は聞かなかったことにした。

 

 しかし、俺の話って何話したんだ…。

 

「「「「いらっしゃいませー!」」」」

 

 案内されるがままにテントの入り口をくぐり中に入るとまたしても俺に驚愕が襲う。

 

 今日だけで何回驚いたんだ?もう数えきれないけど…。この街は外と違いすぎる…。

 

 中は外から見たテントの10倍くらいの広さがあり、屋台というよりも酒場に近い佇まいだ。

 

 ダンジョンから出てきてそのまま入店したのか、冒険者装備のままの客が目立つ。

 

「屋台…じゃない?」

 

「ようこそ!【クラン】アマンダの酒場へ!ここはダンジョン産の食材がメインの酒場さね。さあ座っておくれ!ってぼけーっとして!敦士の弟分は拡張魔法の付与は初めて見るのかい?」

 

「えぇ…。そもそも東京に着いたのも今日ですから。何だか驚くのに疲れてきました」

 

「あたしも冒険者だけど、ここに来た当初は何にでも驚いてたもんさ。直に慣れるよ」

 

 この店は主人であるアマンダの率いるクラン【アマンダの酒場】が運営している酒場でクランメンバーは全て女性で構成されているらしい。

 

 名前からは想像出来ないが攻略組にも属しており、アマンダは勿論、メンバーも高レベルのレベル保持者だ。

 

 ダンジョン攻略と酒場の運営をシフトで管理しており、高階層の魔物肉や貴重な野菜、果物を自給自足で仕入れられるため値段も安く、冒険者の中では知る人ぞ知る酒場だと敦士兄ちゃんが教えてくれた。

 

 敦士兄ちゃんの説明が終わるのを見計らったように机にスッとメニューが出される。

 

「お帰りなさいお兄にゃん?ご飯にするにゃ?それともお酒にゃ?これがメニューにゃん?」

 

 お兄にゃん!?にゃ!?すごい棒読みだし、何故全て疑問形!?あ、ちなみにステータス補正でお酒もタバコもレベル2以上なら都内限定で15歳からOKだ。

 

 俺は目の前に現れた少女を思わず二度見してしまった。

 

 身長は俺の胸くらいだから150cmくらいか?顔は10人とすれ違えば10人が振り返るようなまだ幼さが残るものの整った顔立ちで歳は自分と同じくらいだろう。

 

 サラサラとした銀髪を胸のあたりまで真っ直ぐに伸ばし、眉のあたりで真っ直ぐに切られた前髪が気になるのか手で撫でるように弄っている。

 

 でも気になるのは髪の色や無表情だが整った可愛らしい顔ではない。

 

 今、俺の視線の先にあるのは頭の上に乗っている髪の色と同じぴこぴこ動く猫耳と、ちらちらと後に見えるこれも髪と同じ色の尻尾だ。

 

 リ、リアル猫耳少女キタァァァァア!!!!!

 

 やばい!フカフカそうだよ!!モフモフしたい!

 

 っと落ち着け…キャラが崩壊するところだった…。

 

 他人種の話は聞いていたけど、獣人って種族かな?アニメとか漫画でしか昔は見れないと思っていたけど現実世界で見ることになるなんてなぁ。

 

「ちょ、アマンダさん!まだルシルにこんなことやらせてるんですか!?」

 

「何だい?まんざらでもないだろう?新宿でもやってみたら売り上げが倍増しちゃってね!今じゃルシルのにゃんにゃん中毒者まででてるくらいだよ」

 

「前の店は秋葉原だったから何となくわかりますけど…。新宿だと怪しすぎますよ!ルシルも何か言えよ…。高レベル冒険者のプライドはないのか!?」

 

「別に嫌じゃない。アマンダには恩返ししたい。あ…にゃん」

 

 確かにルシルって子のにゃんは偽物でありながらも本物の猫耳と尻尾が合わさってすごい攻撃力だ。

 

 俺もここを通う自信がある。

 

 だけど欲を言えば喜怒哀楽があまりでない子のようだが、にこっと笑ってにゃんにゃん言ってほし…っとまた危ないところだった。

 

「ハァ…。ルシルが良いってんなら良いけどよ。アイドル活動してない高位冒険者にここまでされるのはむず痒いんだよ。俺の時は普通に喋ってくれ」

 

 俺も普通に喋って下さいと言うとルシルは小さく頷いた。

 

 敦士兄ちゃんに合わせて言ってしまったが、ちょっと、いや、かなり残念だ…。

 

「最近じゃ写真集やテレビ出演、冒険者タレントのオファーも来るからアイドルともう変わらんさ。喋るのが得意な子じゃないから全部断ってるけどね」

 

 何はともあれ、タレント業なんてやるよりもこの子は冒険者のほうが向いてるよ…とアマンダさんが言ってるのを横でうんうんと頷いてるのを見ると自覚があるんだろうな。

 

「さあて!続きは食事を頼んでからでもいいだろう。ここは酒場だよ!注文しておくれ」

 

 あぁそういえば食事をとりにきたんだっけ。

 

 俺はメニューを見ると今日のオススメと書かれた紙の一番上にある『ロック鳥のグリル定食』を頼む。

 

 どんな鳥かはわからないけど、グリルで鳥、しかもオススメであれば心配ないだろう。

 

 敦士兄ちゃんは『ミノタウロスのサーロインステーキセット』を頼んでいた。

 

 ミノタウロスって牛だけど、名前通りあの二足歩行のミノタウロスだよな…?

 

 オーダーを伝えるとスタスタとルシルは厨房の方へ向かう。

 

 話を再開してから15分ほど待っていると鉄板の上に肉汁が落ちてジュージューと音を鳴らしているグリルとステーキがやってきた。

 

 目の前に置かれると、ソースのあまじょっぱい香りが鼻をくすぐり食欲を刺激してくる。

 

 話の途中だったが我慢出来ず、手を合わせてナイフも使わずに肉にかじりつく。

 

 うまい…。噛んだ時に中から肉汁がジュワァっと溢れだすのに脂っこさがまるでない。

 

 かといって淡泊な味わいでもなく旨みをそのまま噛んでいるような感じだ。

 

 敦士兄ちゃんも目を瞑り味わうように無言で箸をすすめていることからステーキも美味しいのであろう。

 

 結局、お互いの食べているものが羨ましくなり、俺がミノタウロスのステーキセット、敦士兄ちゃんがロック鳥のグリルを追加注文するのであった。

次回こそはダンジョンへ!

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