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TOKYO DUNGEON  作者: 心
6/10

壁の中の景色

お気に入りありがとうございます!

6/2加筆修正

 敦士兄ちゃんが『今なら空いてるな』と言っていたが俺の目には決して空いてるようには見えなかった。


 車を入国検査に通すために警備兵に車を預けて俺たちも列に並ぶ。


 日本人だけではなく多国籍なその列は軽く2000人以上ならんでいるんじゃないだろうか?


 待ってる間にも後ろには続々と列が出来ていくから早くきたのは正解なのだろうけど…。


「そういえば、お前に渡すものがあった。これを読んでくれ。俺からの入都祝いだ」


 そう言って一冊の本を俺に差し出してくる。


 表紙は全面革張りで魔方陣のようなものが彫られていて高価そうだが、魔方陣が胡散臭くかなり怪しい雰囲気だ。


「これは…?入都祝いにしては怪しすぎない?」


「怪しいとか言うな!これはかなり高価な魔法書だ!この魔法書を読めば多言語を覚えることができるんだぞ!?」


 詳しく聞くと、この本はエンチャンターと言われる付与のスペシャリストによって言語理解のスキルが付与してあり、英語からスワヒリ語!更には他人種言語まで勉強せずとも、これを読むだけで覚えちゃうと言うスーパーアイテムらしい!


 エンチャンターは数種類のスキル付与しかスキル習得することができないかわりに、貴重なスキルを付与できれば一生遊んで暮らせる程の富を手に入れられるという。その中でも代表的なのがこの言語理解らしい。


 敦士兄ちゃんが高価って言うくらいだ。怖くて値段は聞けないな…。


「東京は日本人以外にもたくさんの国の奴らがいるからな!これを読めば言葉で困る事がないってわけだ!俺は東京に来てから言葉で苦労したからな…。これを買うまで大変だったんだよ…。まぁ兄心ってやつだな」


「敦士兄ちゃん…!」


「そんなきらきらした目で見るな!!!魔法書の使い方は全部共通して指で字をなぞりながら目でそれを追うだけでいいからな!簡単だろ?まだ時間もあるし今のうちに読んじまえよ?」


 空いてる時間を狙ったとはいえ、既に1時間以上待たされたのでこれ幸いとばかりに本を読み始める。


 ページ数はかなりあるがページを進むごとに頭の中に知識が流れ込むのがわかって楽しい。


 読み終わる頃には4時間弱が経過しており、そろそろ自分たちの番が回ってきそうだったので丁度良かった.


 やっと俺たちの番になり入都料を払って書類にサインをすると、入都を許可されたことを証明する入都証を貰い壁の内側へと入った。


 入都代は一人、日本円にして10万。


 聞いてはいたが高いな…。


 一か月に最低でも4回、この数字は一か月に敦士兄ちゃんが葵学園に来る回数だ。


 単純計算で最低でも40万敦士兄ちゃんはこれを帰るたびに払い、この行列に並んでいたのか…。


 改めて頭が上がらないな…と実感した。


 本人はたいしたことではないと言っているが…。


 サインした書類の内容は予想した通りのことがかいてあった。


 書類は都内での怪我や死亡時などの責任は全て自己責任とし、ダンジョン都市内の銀行や金庫に預けている資産は死亡時に限り9割を放棄することになるということを御了承下さいというような内容だ。残りの1割は遺族などに渡されるらしい。


 普通の冒険者はよっぽどのルーキーじゃなければ必要なもの以外は両替をして、都外の銀行や金庫に預けるようなので、この決まりはあってないようなものだという。


 それでも都内で家などの持ち運べない資産を持っていた人は没収される人もいるようだけど。


 さて、壁の内側に入ってからは驚きに満ちていた。


 まず、俺の記憶通りなら世田谷区は一つ一つの街がそれなりに発展していたはずである。変わっていないのは、目の前に広がる整備された環状七号線、ただそれだけだ。


 道路以外は緑に覆われており、ボロボロになった家やビルは、それこそ何百年、何千年と経過した遺跡のような景色に変わっていた。


 敦士は車を止めて外に出ると、葉にも外にでるように手招きした。


「驚いたろ?俺も初めて来たときは目を疑った。東京の冒険者や商人なんかは震災前を旧文明、震災後を新文明なんて言う奴もいるくらいだ。確かに東京の技術は異常なくらい発展してるし気持ちはわかるけどな」


 いやいやいや!目を疑うどころじゃないでしょ!


 東京って言われてるから東京だってわかるけど、何も知らずに連れてこられたら日本だなんて思わないくらいかわっちゃってるよ!!!


「何でこんなになっちゃったのさ?家族で住んでた家にも行ってみたかったんだけど…」


「それは俺もわからない。ただ研究者の中じゃダンジョンの材料にされたんじゃないかって説が有力だって聞いたことがあるな。都内の旧住宅街はどこもこんな感じだよ。残念だがお前の家も駄目だろうな」


 自分の家から家族の写真などを持っていきたいなと淡い期待を胸に抱いていたが、敦士の言葉に悔しそうに拳を握りこむが敦士が車に戻るのを見て葉も仕方なく車に乗り込んだ。


 5年しか経っていないにも関わらず、車から見える景色はタイムスリップしたかのような錯覚をおこさせる。


 本当にこんなになった東京に文明があるのか?


 そんな疑問まで湧いてくるほどである。


「そういえば、さっきまであんなに人がいたのに、車にも人にすれ違わないけどどうなってるの?」


「あぁ、さっきも話したけどポタ屋に頼むから基本的には東京じゃ車は使わないんだよ。使うとしても開拓してる奴とか俺らみたいに震災後、初めて来る奴に今の東京を見せてやろうって奴だけだな。そういうわけで、さっきまで並んでいた奴らは出入りのある冒険者や商売人ばかりだったってことだな」


「なるほどね…。態々、俺に見せる為に車で走ってくれてるわけだ。てか開拓って何?新しい情報でてきたけどそれは仕事なの?」


「冒険者の仕事の一種だな。新しいダンジョンや新しい発見をするとそれに見合った報酬がもらえる。トレジャーハンターってのに近いかもな。研究者気質な奴に多いよ。お、そろそろ淡島通りだな。見とけよ?高い木に囲まれてて今まで見えなかったがここからなら見れるぜ?あれがバベルだ」


 言われて窓の外に視線を動かすとそこには雲を突き抜ける一本の柱が見えた。


 柱といっても、新宿からそれなりに離れている場所からこうやって視認できるということが、その高さを表わしていた


「あれがバベル…。あれって何階層あんだよ…!?頂上が見えない…」


「何階層かはだーれも知らねぇよ。だが中に入ると更に驚くぜ?塔の直径は200メートル程度なのに中はその何十倍、何百倍って広さがあるんだからな!バベルの周りは屋台とかパーティー募集とかも多い。 『1階層は』たいしたことないから食事や観光ついでに見学しよう。ステータスも使えるようになるしな。遅かれ早かれ入るんだろ?」


『一階層は』を強く協調した言い方は俺にまだその先には行くなと釘を刺したのだろう。


「わかったよ。新宿に着いたら連れてって。『一階層』だけだけどね」


 それから30分程、車を走らせると一気に街並みが近未来的になり、人も沢山見かけるようになってきた。


 新宿は震災後も変わらず日本最大の歓楽街であり、今も眠らない街と言われているらしい。


 あちらこちらにある巨大な液晶モニターには、新宿のプロモーションムービーのようなものが映し出されている。


 プロモーションムービーとプロモーションムービーの間には、カジノ等の娯楽施設の宣伝や夜のお店の宣伝、新作の武器や防具の宣伝が流れており見てて飽きることはなかった。


 こうやって外をみていると車が停車した。


「降りるぞ。今から冒険者ギルドに案内するからついてきてくれ」


 先に車を降りて歩き出した敦士を追うようにして車を降りる。


 敦士の進む先には10階建ての豪華な建物が建っており、入り口には腰に剣を刺し肩に銃をさげた男がしっかりと警備している。少し気後れした葉を置いて、敦士はそこに何の躊躇もなく入っていく。


 俺は引き攣った笑顔で軽く会釈をしながら入り口に向うが、ちらっとこちらを見ると何もなかったように視線を元の位置に戻された。


 こええええええぇぇぇぇぇぇえええ!!!


 内心びびりまくりだった俺だがビルの中に入るとその恐怖も活気と熱気にかき消された。


 床は大き目の黒と白のタイルが貼ってあり、インテリアは白と黒で統一されている。正面にある長いカウンターはシルバーでスタイリッシュなデザインだ。コンセプトがオフィスと言うよりカフェモダンなのではと疑ってしまうほどお洒落だ。


 それこそ居ぬきですぐにでもお洒落なカフェやバーが開けるんじゃないか!?と内装を見渡しただけなら思うだろう。


 だが問題がある。活気や熱気を出している正体…。そう!!人だ!!!


 戦闘服に身を包んだ人、冒険者のテンプレみたいな人、中世かってつっこみたくなるほどの厳つい鎧姿の人、ビキニアーマーえろすぎる!!!な女の子などなど!多種多様なスタイルの人間で溢れており、ギルド内はカオスと化していた。


敦士兄ちゃんは赤くなりながら、ここではこれが普通だ!あまりじろじろ見てやるな…と言っている。


敦士兄ちゃんもダンジョンに入るときはこんな恰好をしているのだろう…。


俺もこのカオスの仲間入りを果たすのかな…。


 そんなことを考えながら正面のカウンターへ目をやると、がたいのいい男の前には大きな宝石のようなものが大量に並べられており、それをカウンターの中の綺麗なお姉さんが受け取ると、買い取られたのだろう。宝石が札束へと換わっていく。


「どうだ?ここが冒険者ギルド本部だ。ダンジョンが多いからこの時間でも冒険者が多いんだ。さっきのお前が見てた買取所の宝石、あれは魔石だ。そうだなぁ…。あの大きさと数なら100.000DYってところか?」


「日本円の10倍だから…。えっと…。ひゃ、ひゃくまん!?!?!?!」


「声が大きい!恥ずかしいだろ!あの男は中々の冒険者だよ。見てみろ。周りにパーティーがいないだろ?あれはソロだ。あのレベルの冒険者なら3日くらいダンジョンに潜ればこんなもんだ。寧ろ少し少ないくらいだな。」


「3日で100万だから30日で1000万!?これは金銭感覚もおかしくなるはず…。」


 急に金勘定を始めた葉の言葉を敦士が苦笑いしながら否定する。


「落ち着け落ち着け!冒険者は基本的にダンジョンに一回潜ると潜った日数と同じくらい休むし、回復薬や装備のメンテナンスにも金が掛かるから、実際はお前の想像の半分以下の手取りになるな」


「いやいや、平然と言ってますけど外の世界ではサラリーマンが汗水たらして働いても稼げませんけど!?」


 何を当たり前のことを?と言いたそうな顔をしながら敦士はその質問に答える。


「俺たちは命がけで仕事してるんだぞ?そして手に入れた物は、そのどれもが従来のエネルギーや素材などの資源に代わるものだ。サラリーマンと比べられたら全冒険者を敵にまわすぞ?お前の驚きもわからないわけじゃないけどな。俺も最初は驚いたさ」


 唖然としている俺を置いて敦士兄ちゃんは空いているカウンターに向っていく。


 さっきから驚きすぎて時間がちょこちょこ止まる俺も悪いけど置いて行きすぎだろ!?


「こんなところで時間が止まってたら街を見てる間に寿命がきちまうぞ!早く来い!」


 俺は急いで敦士兄ちゃんの元へ向かうとギルドのお姉さんに席に座るように勧められた。


 このお姉さんはクールそうな美人だなぁ…。そういえば、さっきから新宿で見かける人はイケメンだったり美少女だったりレベル高いな…。何て考えながら席に着く。


 ちなみにステータスに魅力や容姿に磨きをかけるChaチャームという項目があり、レベルが上がることによってChaが上がるのを知るのはもう少し先の話である。


「『こんなところ』へようこそ。私は冒険者ギルド職員の涼音すずねと申します。本日は『こんなところ』への登録で本当によろしいのですか?」


 涼音という名前の美人職員さんは敦士兄ちゃんを見ながらニコニコしている。


 何か怒ってるし登録するのは俺なんだけど!?


「す、涼音ちゃん!?これは誤解なんだ…。謝るから!!!謝るから許してくれ!!!」


「何に謝るんですか?別に怒ってませんよ?それで本日はお隣の方の登録でよろしいのですか?」


「えぇ・・・っとギルドを『こんなところ』って言って本当にごめん!」


「聞いてましたか?お隣の方の登録でよろしいですか?」


 ぷ…。敦士兄ちゃんが半泣きなところを初めてみた…ぶははは!


 これは敦士兄ちゃん…。涼音ってギルド職員に惚れてるな?


 俺は心の中で大爆笑をしながら二人を見ている。


「はい。こいつの登録でよろしいです…」


「やっと日本語が通じましたか。それでは身分証と入都証の確認をさせていただけますか?」


「確認が取れました。坂江葉様ですね。改めまして私は冒険者ギルド職員の涼音と申します。以後お見知りおきを。これから冒険者になるための説明をさせて頂きますがよろしいでしょうか?あ、それと敦士様?もう結構ですので2階の酒場にでも行ってお待ち下さい。」


 笑顔を崩さずに殺気を出すという高等テクニックを使う涼音さんは只者ではなさそうだ…。


 敦士兄ちゃんは背中に哀愁を漂わせて言われるがままエレベーターの方へ向かっていく。


「それでは説明をさせて頂きます。よろしいですか?」


 すごい切り替えの速さに俺は驚きながらも首を千切れんばかりに縦に振ると先ほどとは違い涼音さんは優しい笑みをみせる。


 涼音さんには逆らってはいけない…。俺の第6感がそう告げていた。

長くなったのでギルドの詳しい話は次回!

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