旅立ちの前に
物語を描くって難しい。
国語力のなさが悔やまれます。
月日はまた流れ、今日、俺は中学校を卒業した。
今日は卒業式の後、最後の稽古と言われ、いつもの場所に呼び出されていた。
中学に入ってから始めた剣の稽古は順調に進み、始めた頃は一方的にやられてばかりだったが、今では稽古の成果もでてきて、敦士兄ちゃんに本気を出させることが出来るようになってきた。
敦士兄ちゃん曰く、俺には剣の才能があり、ステータスを強化かれたことで力では敦士兄ちゃんに敵うことはないが、技術はすでに敦士兄ちゃんと同じくらいはあるとのことだ。
「冒険者はあまりステータスのことは語らないほうがいいんだけど…。葉にだけは特別だからな?」
俺が目を輝かせて待っていると、敦士兄ちゃんは「ステータスオープン」と小さく呟いた。
すると、突然、半透明の画面のようなものが敦士兄ちゃんの目の前に現れて浮いていた。
どうやらこれがステータスらしく、スマートフォンのように指で文字を大きくしたり小さくしたり、スクロールしたりできるようだ。
初めてステータスを見て、感動しながら記載されている文字に目を通していく。
レベルは6と表示されており、その下にはStrやAgiなどのステータスが載っている。スキルの方に視線をずらすと一番レベルの高いスキルは剣術でレベル3だった。
話を聞くとレベル6は都市内で言えば下の方だそうだ。
レベルの割にランクの高い敵を倒せていたのは、スキルのレベルとバランス良く組めた固定パーティーのお蔭だと言っていた。
スキルはレベル5が現在確認されている中で最高らしく1で素人に毛が生えたくらい、2で中級者、3で上級者、4で達人、5は達人以上のみがたどり着く極みの境地だそうだ。
剣で言えば剣聖や剣神などと呼ばれるらしい。
敦士兄ちゃんは中学から剣道をやっていたせいか、最初からスキルレベルは2だったそうだ。
「まぁ剣道の足運びは使えるけど剣筋は実践じゃ使えなかったけどな」なんて笑っていたけど。
「もう俺が教えることはないかな…。寧ろ、これ以上強くなったら俺が勝てないかもしれない。情けないよ…。スキルもレベルもない葉にやられそうになるなんて…」
敦士兄ちゃんは悔しそうに話すが顔は綻んでいて、俺が強くなるのを喜んでくれているようだった。
「ま、取り敢えず、3年間、東京で生きていくのに必要な知識と技術は俺が教えた!普通は冒険者学校に通ってから東京に入るのだけど…。もうその必要もないだろ?」
冒険者学校とは14歳から入れる基礎学校で、ここで2年間みっちりと冒険者の基礎を学ぶのだ。
俺は敦士兄ちゃんから色々教わっていたから行かないけど…。
葵学園にいる間はおばさんの仕事を耕太や春香と手伝いたかった。それに早く家族を探したかったってのも行かなかった理由だ。
15歳〈中学卒業後〉になれば自己責任でだけど東京に入る事が出来る。それなのに学校に通ったら最短でも16歳からになってしまう。
1年程度のロスになるからなぁ…
敦士兄ちゃんがいて助かった。
「敦士兄ちゃんにみっちり鍛えられたからね。話を聞いて冒険の注意点やコツも教わったし…。早く家族を探したいから…。それに悪いけど学校で教わることはないと思うんだよね。」
「確かに俺の目から見ても学校に行く必要はないな。合格だ。これで俺の稽古はお終い。お前はもう強いよ。俺をすぐ抜かせるくらいにな。だけど絶対に油断するな。いいな?」
敦士の優しい言葉に葉は最後に大きな声で『ありがとうございました!』と一礼した。
最後の稽古が終わり俺は葵学園に帰ることにした。
「葉君、おかえりなさい。最後の稽古は終わったの?」
「あぁ、春香。ただいま。やっと敦士兄ちゃんに合格って言われたよ」
春香は嬉しそうに「よかったね。」と言ってくれた。
「葉君もとうとう冒険者になっちゃうんだもんなぁ…。稽古を始めてからの葉君は私から見ても頼りになりそうでかっこいいよ」
「ぶ、急に何?どうしたの?最初は冒険者になるのを反対してたのにすごい身の振り方だなぁ…」
そう、俺はおばさんと春香に冒険者になるって言った時に猛反対された。
まぁ気持ちはわかる。5割、これは初心者が最初にダンジョンに潜ってから1年後の生存率だ。
いくらレベルを上げようがスキルを上げようが冒険者に安全などは絶対にありえない。
ハイリスクハイリターン…。それが冒険者というものなのだ。
「そ、それはもういいじゃない!今は応援してるよ?それに身の振りかたとかじゃなくて本音だもん。私は友達や家族として好きだけど、学校の子達、結構、葉君のこと気になってた子多かったんだよ?」
な、なんだって!?
今言うことか!?遅いだろ!?俺の青春…。
でも確かに…思い当たる節はあったな…。
顔をみられてきゃーきゃー言われたり、うちの中学は学ランだったのだけど、ボタンを欲しがっていた後輩もいたっけ…。
耕太に爆発しろって言われたけどそういうことかーっ!!!???
こんな女みたいな顔立ちの優男のどこがいいんだか…。
俺は春香に無難な返事をするとニヤニヤしながら俺のことを見てくる。
何だ…!?少し気持ち悪いぞ!?
俺は春香から逃げるようにして食堂へ向った。
「おばちゃん、ただいまー!うぉっ!今日の晩飯が豪華だ…と!?」
「葉君おかえりなさい。あなた…耕太に似てきたわね…。こんなお年寄りに喧嘩でも売ってるのかしら?」
「いや、見た目じゃおばさんの年わか…」
急に背中にぞくっと殺気を感じて途中で喋るのを止めた、
「それでいいのよ?」とおばさんがにこにこしているが冷や汗が止まらない。
「今日は貴方と耕太と春香の卒業式でしょ?それに葉君の門出…になるからね?」
あぁ…なるほど。豪華な食事の意味がやっとわかった。
何か卒業した実感がなかったけど、こうやって祝ってもらえると今更ながら実感が出てくるなぁ…。
「おばさん。俺…敦士兄ちゃんみたいに肉とか一杯持ってくるから期待しててね!」
「はいはい。期待せずに待ってますよ。そうだ。そろそろご飯も炊けるからみんなを呼んできてくれるかしら?」
おばさんは期待しないで待ってると言うが、絶対に驚かせてやるんだからな…!などと思いながらみんなを呼びに行くのだった。
いつものようにおばさんが乾杯の音頭をとって始まった。耕太は相変わらず食欲旺盛で年下の子供たちからおかずを奪うのでは!?と思うほど目をぎらつかせていたので、春香が耕太の頭を思いっきり叩いていたのが面白かった。
食事が終わってからは、まとめた荷物〈と言っても実家みたいなものなので最低限しか詰めていないが〉の確認をしていた。
確認もそろそろ終わりという時に、耕太と春香に話しかけられた。
「葉君ちょっといい?屋上で3人で少しだけお喋りしない?」
「葉!しばらく会えなくなるだろうしいいだろ?」
俺も出発する前に話をしたかったのもあり屋上に行くことにした。
葵学園の屋上はそれなりに広く普段は洗濯を干したりするのに使っている。
3人で屋上に上ると雲一つない星空が広がっていた。
「もう5年もたったんだな…。最初は葉と仲良くなれるなんて思ってなかったぜ?」
耕太は懐かしそうに空を見上げながら俺が来た時のことを思い出しているようだ。
「あんたたち、初日に殴り合いしてたしね。ちなみに私は仲良くできそうだなって思ってたわよ?耕太みたいにうるさくないし」
ちょっとイラっとした耕太の顔を見て、苦笑いしながら春香も5年前を振り返っている。
「もしかして、まだ根に持ってるの…?耕太…。うるさいのに加えて執念深いなんて…。そんなんじゃモテないぞ?」
俺の言葉に春香は腹を抱えて笑っている。
「よ、葉君ってあはは、結構痛烈よね、それ言ったら耕太は返すこ、ことば…あはは、ないじゃない」
「は、春香!どういう意味だよ!?お、俺だって割とモテるんだぞ!?」
耕太は顔を真っ赤にしながら春香に抗議をしている。
「モ…モ、モテ…あはは、モテるって言っても葉君ほどじゃないでしょ?何言ってんのよ。あはは、あーおかしい」
春香は未だ笑い続け、耕太の背中をバンバン叩いている。
春香は恐らく耕太のことが好きだろう、耕太も春香のことを気にしている素振りがちょくちょくあった。
付き合っちゃえばいいのに…。リア充爆発しろ!!!!
「あぁぁぁあ!もうこの話は止めだ!!それより葉!冒険者…頑張れよ!俺はそれだけ言いたかったんだよ!」
「そうだった。余りにも耕太が滑稽で忘れてた。葉君!絶対に無理はしないでね?危なくなったらすぐ逃げて!冒険者を辞めても私たちはここで待ってるからね?」
「2人とも改まってそんなこと言わないでよ…。俺も敦士兄ちゃんみたいに魔物の肉持って遊びに行くよ。だから楽しみに待ってて」
俺は幸せだな…。昔はこんな風に思える自分を想像も出来なかった。
だけど、俺は心から幸せだって今は思えている。
頷いている2人をみて改めてそんなことを思っていた。
「肉も楽しみだけど、そのうち葉に二つ名とかついて有名な冒険者になったりしてな!俺はそれも楽しみだぜ?」
「その時はサインもらいましょ?最近だと冒険者番組も多いし、タレントとかモデルしてる冒険者や冒険者からアイドルになる人もいるくらいだからね。葉君、顔がいいから意外に有名になるチャンスはあるわよ?」
「あはは。有名になるなら出来れば実力でなりたいけど…。有名になったらいつでもサインしてあげるから言ってよ」
こんなバカ話をしていると急に耕太が何かに気付いたような素振りを見せた。
「っと!そう言えば葉は明日早いだろ?俺も言いたいこと言ってスッキリしたし、そろそろ部屋戻ろうぜ?他の奴らも寝ずにお前のこと待ってるだろうし」
「そうね。私も何だかスッキリしたし楽しかったわ!葉君も戻ろう?」
「俺も楽しかったよ!チビ達にも挨拶しなきゃいけないし戻るか…」
俺の返事を聞いた2人が中に戻ろうと扉の方向へ歩いて行く。
俺は二人が背を向けて歩いて行く姿を見ながら、二人には聞こえないくらい小さな声で「ありがとう」と呟いた。
次話こそ東京に…いけるといいな。