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TOKYO DUNGEON  作者: 心
3/10

家族と親友

 俺は随分と遠くに来ていたようだった。

 

 おばさんと帰路についてからもう15分はたったのではないか。

 

「ねぇおばさん?何で俺が公園にいるってわかったの?」

 

 俺はさっきまで泣いていたのが恥ずかしくずっと俯いていたが、それが気まづくなりおばさんに話しかけた。

 

「耕太が葵学園に来たときだったかしらね。あの子は御両親に捨てられて心を閉ざしていたの。私も気にはかけていたのだけど、ご両親を探して飛び出してしまったの。あの子はご両親に暴力を振るわれていたのにね。飛び出したはいいものの、道もわからない耕太は泣きながらここにいたわ。その時を思い出してもしかしたらってね」

 

 あんなにお調子者そうな耕太の過去に言葉が出なかった。

 

「さっきも言ったけど、みんな同じような境遇なのよ。だから耕太を嫌わないであげてね?それに見つかったのもある意味で耕太のおかげだしね」

 

 俺の気持ちがわからない?あいつ…わかってたんじゃないか…

 

 今なら耕太の言ったことが悪気が無かったのだとわかる。

 

 耕太だからこそ、俺の苦しみがわかるからこそ励ましてくれたのだろう。

 

 お世辞にもいい励まし方とは言えなかったが少し耕太のことを好きになれた気がした。

 

 そんな話をしていたらやっと葵学園に到着した。

 

「みんなー!ただいま」

 

 おかえりなさーい!と食堂のほうから元気な返事が返ってきた。

 

「さぁ、葉君。声も出るようになったことだし、みんなに改めて自己紹介しなきゃね?」

 

 おばさんは笑いながら食堂の扉を開けるように俺の背中を軽くおした。

 

 パパパパンッという炸裂音と共に微かに火薬の匂いがした。

 

「「「葉くん!お帰りなさい!ようこそ葵学園へ!」」」

 

 皆が手にクラッカーを持ち、待ち構えていたように一斉に声をあげる。

 

 耕太は気まずそうにして俯いているが、耕太も声を出していたのは葉も気づいていた。

 

 俺は耕太に近づくと頭を下げる。

 

「耕太、ごめん!俺が悪かった!それと皆!心配かけてごめんなさい!」

 

 皆、気にするなと言わんばかりにニコニコしているが、耕太は一瞬ポカーンとしてすぐに我にかえる。

 

「べ、別に構わねぇよ!俺も言い方が悪かった…ごめん…。それよりお前…声!」


 まさか俺にも謝ってくるとは思わず今度は俺がポカーンと口を開ける。

 

 そんな俺たちを見た春香が笑いに堪えられなくなったのか、くすくすと笑っている。

 

「あんた達、二人揃って何て顔してるのよ」

 

「いや、俺は坂江が喋れないと思ってたのに喋ったからだな…その…うん…」

 

「そう言えば坂江君もう喉は大丈夫なの?」

 

 葉の声が治っていることに気付いた春香が尋ねてくる。

 

「あぁ…心配かけてごめん。実は俺もさっき急に声が出るようになって…何て言えばいいか…」

 

「兎に角、治ったのだから良しとしましょう?皆、葉君が帰ってくるまでご飯は食べないって言って待ってたのだし、食事にしましょう?」

 

 おばさんが間に入ってくれてこの会話を終わらせてくれた。

 

 何と言えばよかったのかわからなかったし助かった。

 

 まさか精神的にやられてて声がでなかった…なんてプライド的に春香達には言えなかった。

 

 それより、みんな俺のことを待っててくれたのか。

 

 『帰りを待っていてくれた事』それが何よりも嬉しかった。

 

 食事は俺が改めて自己紹介をして、みんなの手にジュースが行き渡ったことを確認してからおばさんが乾杯の音頭をとって始まった。

 

 普段よりもいちだんと豪華な食事なのか、みんなが喋らずに黙々と食べている。

 

 女の子達は自分たちの作った食事を美味しそうに食べるのを見て嬉しそうにしている。

 

 特に春香の耕太を見る目は美味しい?美味しい?と言わんばかりにきらきらとしていた。

 

「坂江、お前ももっと食えよ!いつもこんな豪華な飯じゃないからな!それに大きくなれないぞ!」

 

 耕太の言葉を聞いて少し怒ったおばさんに軽く頭を叩かれながらも、耕太が俺の皿におかずをたっぷりとのせてくれた。

 

 それからは俺もみんなと同じように黙々と食事を口に運ぶ。

 

 色々とあった一日だったが、久しぶりに心から笑い幸せだと心から思えるような一日だった。

 

 月日は足早に過ぎ去っていった。

 

 俺は14歳になり、耕太や春香と同じ中学校へと通っていた。

 

 叔父さんの処にいた時には想像もしなかったような楽しい日々を送っている。

 

 友達もでき、耕太とは親友と言っていいほどに仲良くなっていた。

 

 まぁ同じ家に住んで毎日のように顔を合わせていれば、それも当然の流れだろう。

 

 中学に入った頃から葵学園のOBが週に一回ほどだが訪れるようになった。

 

 彼の名前は 工藤くどう 敦士あつし、彼は大災害後に冒険者となり、ダンジョンで採れた食材などを届けてくれている。

 

 今日はキラーバッファローの肉を沢山持ってきてくれた。

 

 キラーバッファローはその凶暴性からランクCの魔物モンスターだ。

 

 それだけで敦士がある程度の実力を持った冒険者だということがわかる。

 

 魔物の肉は魔力が高ければ高いほどに味が濃厚になり美味しくなる。外では高価値なため、みんなが魔物の肉を楽しみにしていた。

 

 俺たちは彼を敦士兄ちゃん〈最初はハムの人みたいだなんて思ってたことは内緒だ〉と慕っていて、兄ちゃんは葵学園に来るたびに冒険者の話やダンジョン話、東京の話しをしてくれる。

 

「お前らも機会があったら東京に来てみるといいさ。その時は案内してやるよ。すごいぞー?」

 

 東京は外部と隔離する為に、魔術師と言われている魔法のスキルを持っている人達が、4年もかけて高く分厚い壁で覆うことに成功したらしく、今では東京をダンジョン都市と呼んでいるらしい。

 

 中はダンジョンの資源や魔石が使われた独自文化が発展してきていて、外では見たこともないような技術で溢れ返っているらしい、東京はそういった新技術の実験場所としても使われており、外にも徐々にだが今までなかったような技術が輸出されはじめていた。

 

 敦士兄ちゃんの話はどれも面白く、俺はどの話も真剣に聞いた。

 

 特に俺はスキルやステータス、それに多人種の話に興味をもった。

 

 スキルやステータスのレベル上昇に伴い、人間の力では不可能なことが可能になる不思議な力、そしてダンジョンから出てきた獣人、エルフ、ドワーフなどの多人種、最初は彼らを魔物だと考えたこちらと小競り合いがあったが今はその誤解も解けて共存しているらしい。

 

 他にも俺には敦士兄ちゃんの話を真剣に聞く理由があった。

 

 3年前、ダンジョンに飲み込まれた人間を発見したと冒険者ギルドから発表があり、もしかすると俺の家族も生きているかもしれないということがわかって、東京の話を沢山聞きたかったのだ。

 

 まだ耕太と春香には話していないが、中学を卒業するまでは法律で東京に入ることが許可されない為、俺は一年後、卒業したらすぐに冒険者になると決めている。

 

 家族を探すために、そして敦士兄ちゃんのように葵学園に少しでも恩を返せるように。

 

 敦士兄ちゃんにはそれを話した。その話をしてから耕太達には内緒で葵学園から離れた人通りの少ない路地にある空き地で剣の稽古をつけてもらっている。

 

「耕太達にはまだ話してないのか?あと一年しかないぞ?焦らせるつもりはないけどちゃんと話せよ」

 

 敦士兄ちゃんは時々、稽古の終わりにこうやって俺に問いかけてくるけど耕太達は絶対に反対すると思っている。

 

 なぜなら「葉も俺たちと一緒に葵学園の仕事を一緒に支えて行こうぜ?」なんて言ってくるくらいだからな…

 

 まぁそんなこと言ってくる理由もわかってるのだが。

 

 おばさんはまだ元気だが年々、体力の衰えは感じているようで最近では俺や耕太と春香にも仕事を教え始めているからだ。

 

 仕事をはじめてみるわかってくることがある。

 

 この葵学園はOBやOGの支援でなりたっていること、東京がダンジョン都市になってから少しよくなったが家計はまだ厳しいことなどだ。

 

 それに加えて実はおばさんが見た目よりもかなり高齢だったこともわかり、耕太と春香ははりきっている。

 

 ちなみにおばさんの年齢は聞かないでくれ…もうおばさんという年ではないとだけ言っておこう。

 

 だから年長者の俺たちがおばさんの代わりに葵学園を支えて行こうってことなんだと思う。

 

 いつかは言わなければいけないのはわかってるのだが、どのタイミングで切り出せばいいのか…

 

 そんなことを考えていたが、きっかけは突然やってきた。

 

「敦士兄ちゃんも葉もこんなところで何してんだ?」

 

 稽古終わりでへばっていた俺の後ろから急に耕太の声がした。

 

「おう、耕太!これはだな…」

 

 敦士兄ちゃんは俺に言えと言わんばかりにこっちに視線を逸らしてくる。

 

「け、稽古をつけてもらってたんだ…。剣の…。」

 

「剣の?何でまた?しかも俺にまで黙って…」

 

 耕太の顔は少し怒っているように見える。

 

 そうだよな…。一緒に葵学園を支えて行こうなんて言われてるのに俺は…。

 

「黙っててごめん…。だけど家族を探すためにも…。葵学園のみんなに恩を0返すためにも…。俺は冒険者になりたいんだ…。一緒に葵学園を支えようって言ってたのに…。怒ってる…よな?」

 

「あぁ…。俺は今、久しぶりにキレそうだ」

 

「そうだよな…。ごめん…」

 

 俺は俯きながら申し訳なさそうに耕太に謝った。

 

「お前は何に俺が怒ってるかわかるか?」

 

「え…。葵学園を支えて…」

 

「違う!そんなことじゃねぇーよ!俺が怒ってるのは親友だと思ってるお前に本心を言ってもらえなかったことだよ!俺も園長も、それに春香だってお前が冒険者になりたいと思ってることくらい気づいてた!気づいてないなんて思ってたのはお前だけだよ!」

 

 耕太のいつもより怒気の強い声に俺はハっとした。

 

 もし俺だったら耕太と同じことを言ったかもしれない。それなのに俺は…

 

「耕太…。黙っててごめん。俺も親友だと思ってる…!だから危険な冒険者になるなんて言えなかった…。本当にすまない…」


耕太は少し寂しそうな顔をしたのを見て俺は隠していたことを後悔していた。


「水くせぇよ!お前は俺の親友であり家族だ!冒険者になっても俺たちは家族で親友だろ?お前のやりたいこと位みんなで応援させてくれよ…」

 

耕太も涙を流しながら思っていることを伝えてくれる。


俺もそれに答えたい。そう思った。


「本当に悪かった…。俺が冒険者になってもお前は俺の親友で葵学園の皆は俺の家族だ!それは絶対に変わらない…。改めて言わせてもらう。俺は冒険者になりたい!いや、絶対になる!」

 

 その答えを聞いた耕太は答えに納得したように大きく頷いた。

 

「わかった。ならこの話はちゃんと園長と春香に話せばお終いだ。二人ともわかってくれるさ。お前も敦士兄ちゃんみたいな冒険者になってくれよ!さぁもう暗くなってきたし今日の稽古はそろそろ終わりだろ?」

 

 俺の答えを聞いた耕太は満足げな顔をしている。


耕太の問いに俺は小さく頷き肯定した。

 

「じゃぁ一緒に帰って飯食おうぜ!敦士兄ちゃんも久しぶりに一緒にどうだ?」

 

「そうだな…。俺も久しぶりに葵学園で飯でも食べるか。丁度、庶民の味ってのを久しぶりに堪能してみようかと思っていたんだ」


「庶民で悪かったな。なんなら来なくていいけど?それと今の園長と春香に言うからな」


「ごめんごめん!!!お願いですから一緒にご飯を食べさせて下さい!あと二人には言わないでぇぇぇぇええええ!!!!」


耕太の言った言葉に顔を真っ青にした敦士兄ちゃんの顔を二人で笑いながら帰路につくのだった。

 


次話から東京に入る予定です。

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