第6話 ー接触ー
このお話はいじめに関する文章があります。
自殺を軽んじるお話ではありません。
第6話 ー接触ー
ナル子は私の方を見て優しげな笑みを浮かべた。
正直に言って、意味がわからない。
なぜ突然敵にこんな笑みを贈られなければならないのだろう。
あまりの怒りに自然と笑みがもれているのだろうか?
いや、それはないだろう。
ナル子は、一見お調子者のようだが裏では何を考えているのかわからないタイプだ。
目的がわからない以上、下手に刺激するのは危険だろう。
それに裏がある人間ほど恐ろしいものはない。
大人しくしていると、ナル子が口を開いた。
「アタシさ、別にあんたのこと嫌いな訳じゃないから」
耳を疑った。
彼女は何を言っているんだろう。
全くもって分からない。
なぜ嫌いではない人間にわざわざ面倒な手間をかけてまでいじめるのだろう。
全く訳が分からない。
「まぁ、嫌いじゃないけど好きでもないから」
再び言葉が紡がれる。
ある意味当然だとも言える言葉。
そんなことを急に言われたって、一体何と返せばいいのかと戸惑う。
私が言葉を探していると、ナル子が再び口を開いた。
「ちょっと、黙らないでよ」
少し苛ついたような声に思わず後ずさりそうになる。
私は何に対しても反応が薄いけれど、自分の身に迫る危機が分からないほど鈍感ではない。
「……っ」
何を言えばいいか分からない。
ナル子の不躾な視線から逃げるように目をそらした。
「ねぇ、聞こえてるの?聞こえてるなら返事しなよ」
「……聞こえてる……」
呟くように声を絞り出す。
声を聞かれることも、
顔を見られることも、
言葉を交わすことも、
私にとっては特別なこと。
ナル子のような特別ではない人には、特別なことをする気はない。
「やっと返事したね。そんな態度だからいじめられるんだよ」
ナル子…はバカにするようにクスクスと笑った。
「……いじめてる本人がよく言うわ……」
ナル子に聞こえないようにとても小さな声で毒づく。
本当にこの世界は理不尽で、歪で、悪が生きやすい世界だと思う。
この歪な世界で、私達は言葉を放つ。
それは決して悪いことではないけれど、ナル子のように人を傷付けたり、他の誰かのように人を救ったり。
私は言葉を放つことをやめて、この歪な世界を抜け出したかった。
ナル子のせいでそれも出来なくなってしまったけれど。
「……何の用……?」
「いや、あんた面白いから興味があって、声かけただけ」
正直拍子抜けした。
敵だと思っていた人にこんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
ごくりと唾液を飲み込み喉が動く。
心臓の音がやけにはっきりと聞こえた。
第6話です
とてもとても遅くなり申し訳ないです…
更新は不定期ですが少しでもこの物語を楽しんでいただけるとありがたいです。
ブックマークやコメント、評価をしてくださった方、本当にありがとうございます!
本当に嬉しいです
これからも頑張ります(*´∀`)