第9話 ー微睡ー
このお話は自殺を軽んじるものではありません。
第9話 ー微睡ー
冷たい。
冷たい何かが、私の頬を這っている。うっすらと目を開けると、白い天井が目にうつる。
「……ここ、は」
白いカーテンが引かれていて、私が横になっているベッド以外は何も見えない。
外から運動部の声が聞こえてくるから、ここは放課後の保健室なのだろう。
「…………」
頬を撫でると、水が垂れているのが分かった。
額に濡らしたハンカチが置かれている。
これは、私のものではない。
額からハンカチを取って広げて見ると、よく見えなかったハンカチの全貌を見ることができた。
うっすらと青色をしていて、星が散っている。
まるで、夜空を切り取ったみたいだった。
裏返したりしてよく見てみると、端の方に刺繍が入れられていた。
筆記体で書かれたそれは、誰かの名前だった。
誰が、こんなことをしたのだろう。
私に優しさをくれる存在なんて、もう、居なかったはずだ。
正直なところ、理解に苦しむ行為だ。
私をいじめているグループならこんな行為をするのはあり得ない。
直接関わりのない他人でも、いじめられている私に優しくしようなどという人は居ないだろう。
まだ微睡みを忘れない頭では、答えも簡単には浮かんでこなかった。
頭を巡る考えを無理矢理に終わらせ、上半身を起こす。
夜空を掴む手が冷えていく。
頭も少し冷えたところで、ベッドから立ち上がりカーテンを引く。
カーテンの外には、髪を指に巻き付けながら、ラメやスワロフスキーで飾られたスマホをいじるナル子の姿があった。
体が強張る。息が上手く出来ない。
重りをつけられたみたいに、足も手も、思うように動いてくれない。
「あぁ、ようやく起きたのー?」
響く、嫌な声。嘲笑を含んだ、女の声。
ナル子が不意に私の手元を指差した。
「それ、アタシのハンカチだから、返して?」
手のひらを私に向けてにっこりと微笑む。
言葉にできない恐ろしさを感じて、ナル子の言葉に従った。
あぁ、結局、私はこの歪な世界からさよならすることはできないのか。
私の言葉を放つこともできず、ただ虐げられ、力に従うしかないのか。
そんな世界なんて、大嫌いだ。
第9話 ー微睡ーです。
微睡は、まどろみ、と読んで欲しいです。
ナル子の不可解な行動の意味は、これから明らかになっていきます。
そのうちいじめグループの他の人達も出てくるので、お楽しみに(?)
名前などは決める予定はないので、誰が誰のことを言っているのかわからない場合はコメント?などで一言頂けましたら注釈などをつけます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
良ければコメント、評価等気軽にどうぞ。