不安な飛行
輸送機に乗り込むのは総員十二名。
操縦はシオン隊長。
隊長の隣の副操縦手席には先任搭乗員のキュイこと私が搭乗。後席には隊の新米パイロット十人が乗る。新米パイロットは全員が十六歳~十七歳の女の子。これが、我が隊の全パイロットだ。
輸送機は轟音を響かせて基地を飛び立つ。
私の心配をよそに意外とエンジン快調。
南国の青い海と白いサンゴ礁が窓から見える。戦争をしていなければ、どれだけ気分が良かっただろう。眼下は、ほとんど南国パラダイスだ。
「お前、本当にキュイかよ?」
隊長が私の顔を見て笑った。
「なんですかあ?」
「撃墜五十機のエースパイロット様にも怖いものがあるのか? いつものお前はもっと目が吊り上ってるよ」
「……怖かないですよ。ちょっと失礼ですよ?」
軍人に向かって「怖いのか」はない。怖くともやせ我慢するのが軍人だ。かりにも私は先任搭乗員だし、うしろの子たちにしめしがつかない。まあでも、ちょっとこの輸送機への不安が顔に出てたかも。だってこれ、今にも落ちそう……。
「キュイって何歳だ? 後ろの隊員とそう変わらんだろ。二十歳か?」
「十九歳ですけど……」
「そうか……」
それから先は、隊長は言わなかった。
言ってもしょうがない。たしかに、戦争がなければこんな所にみんないない。それは隊長だって同じだ。
後席を見ると、十人の女の子たちが会話することもなく静かに座っている。
私だけじゃない。みんな、いつエンジンが止まるともわからないこのオンボロ輸送機が不安なのだ。眼下は海ばかりで、こんなところに不時着したらどうにもならない。海に投げ出されてお仕舞いか、サメの餌食となってお仕舞いか。もしも敵機と遭遇したら、輸送機などひとたまりもない。すぐに火だるなって一巻の終わりだ。
「ミカ、あの入道雲が見える?」
不安げに窓の外を見るミカに話しかけても反応がない。
「ちょっとミカちゃん!」
ミカはきょとんとした顔で私を見た。
「あそこに入道雲があるでしょ? あれだけ大きな入道雲だと、何時間かは形を保っているのよ。作戦が終わって帰り道がわからなくなったら、ああいう雲を覚えていて帰路を割り出すの。ぼんやり座ってないで、こういう時も訓練だから、自分が操縦してるつもりで外を見てなさい」
「はい!」
ミカだけじゃなく、私の声を聞いてほかの女の子たちも窓の外を見た。急にみんなの顔が生き生きしてくる。うん、何かに集中してる方が不安がなくなるんだ。
「キュイ、雲もいいが、そろそろ警戒区域だ。みんなに敵機の警戒をさせろ」
「はあ……」
隊長に言われて、みんなに敵機の警戒をさせる。
でもねえ、そんなこと言われたらどんどん不安になってくるのよ。敵機に見つかったら、この足の遅い輸送機じゃ逃げらんない。気休めに機銃を二つばかり積んできたけど、こんなもの窓から突き出して撃っても、すばしっこい敵の戦闘機には当たりっこない。もしも私が戦闘機に乗ってこんな輸送機を発見したら、可哀想で攻撃できなくなるくらいだ。翼に何発か当てて不時着させてやるくらいに余裕がある。
せめて私一人でも戦闘機に乗ってこの輸送機を守れたら……と心底おもった。そうすれば、たとえ五機の敵戦闘機に襲われても撃退する自信がある。