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地上のパイロット

 さっきからの敵の爆撃で、あっちに揺れこっちに揺れ。防空壕は暗闇で、どうなってるかなんてわかっちゃいない。

「もうやめて~っ!」

 でも、そんなこと言っても許しちゃくれない。

 ズシーン、ズシーン。――

 という不気味な音と振動に、私は頭を抱えて耐えていた。

「せ……先輩~! もう私だめぽです~!」

 誰かが私の体にしがみついてくる。

「誰よあんた、ミカちゃん? 真っ暗でわかんない。こうなったら運を天に任せてひたすら祈ってなさい!」

「ひいぃっ、わかりました~!」

 ………………。

 …………。

 急に暗闇に静寂がきた。

「……終わった? もう終わりなの?」

 コホン……と咳が出る。

 暗い穴の中で、あっちでもこっちでもコホン、コホン……。

 防空壕に入ったみんなは、砂埃をけっこう吸ってしまったようだ。でも大丈夫、みんなは生き残った。

 手探りで防空壕の扉を持ち上げて、とにかく地上へ出てみる。扉を上げた瞬間、さっと強い太陽光に目をやられた。

 まぶしい光線に瞳は痛み、しかめっ面の隙間から青い空を見上げた。

「ああ……空気が美味しい。みんな、もう大丈夫だよ。早く出てきて」

 私に続いて、ぞろそろ死に底ないたちが防空壕の奥から顔を出す。

「キュイ先輩、あたしたち生きてるんですかぁ?」

 情けない顔をしてまずミカが出てきた。さっき私にしがみついたのは、やっぱりこの子のようだ。

「生きてるよ、あんたも生きてるし、私もみんなも!」

 私たちは戦闘機パイロットだ。私のほかはみんな新人で、その新人パイロットたちが、狭い防空壕から一人ずつ出てくる。みんな女の子で十人もいる。

「ほら、しゃっきとしなよあんたたち!」

「ふあ~い……」

 この子たちは速成教育で作られた新人パイロットだ。

 飛ぶのがやっとで、十六歳とか十七歳のションベン臭い……じゃなくて初々しい女の子たち。本当は学校に通って、ボーイフレンドやオシャレにしか関心をしめさない年頃。それが『戦争』という魔物のせいで、こんなわけもわからない小島の基地に送り込まれ、今日死ぬか明日死ぬかわからない運命だ。でもとにかく、今日はみんな生き残った。

「おうキュイ、爆撃は終わったのか」

 最後に防空壕からシオン隊長が出てきた。

「あれ……隊長も穴に入ってました?」

 防空壕は細長い。最後に出てきたということは、誰よりも早く隊長はここに逃げ込んだのか。

「俺だって入ってるさ。みんなで滑走路の掃除をしていたんだ。俺だけ入ってなかったら今ごろ死んでるよ」

「まあそうですけど、逃げ足早いですよね」

「なんだ皮肉か? 俺は本来そういう男だ」

 隊長は別に笑うでもなく言った。

 本来……とは、臆病という意味ではなく、ぎりぎりまで努力するという意味だろう。隊長もみんなと同じ戦闘機パイロットだから、死ぬのなら地上では死にたくないに違いない。私だって早く大空に戻りたい。



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