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h.o's.O.way  作者: 鈴木真心
Chapter 2
9/33

2─5 sideリザ

ビーチェさんの所からの帰り道、ラジアちゃんはずっと無言だった。


複雑な顔をしていたけれど、多分それは、ルシアの気持ちを理解してのことじゃないと思う。

『何で』っていう顔だ。


ラジアちゃんは大概鈍い。

わかりやすく、わかって欲しくてあからさまにしていた俺の気持ちにさえ、気付くのに随分掛かったほどだ。

ラジアちゃんは本当に鈍い。

それは、他人は愚か、自分にも執着していない何よりの証しのようで、気づくたび、俺はこわくなる。

そこまで考えて、本当にこわくなってふるりと首を振った。


あのお姫様は不憫だと思うけれど、俺はそんな他人より、誰よりラジアちゃんが大切だから。

ラジアちゃんの傍にいることが大切だから。


俺はルシアみたいに、誰かを代わりには、出来ないんだ。





「おう、姉ちゃん。いい飲みっぷりだなー」



やんややんやと騒ぎ立てる人達の中心で、ごっごっと喉を鳴らしながら、ラジアちゃんはひたすらに酒を煽っていた。


椅子に乗っかり、片足はテーブルに乗っけている。

足下には無数に転がる酒瓶、卓上には山盛りになった吸い殻と食べ散らかし。



「おう。兄ちゃんはあの姉ちゃんの連れかい?」

「そうー。豪快でかっこいいでしょー」

「違いねえ!」



負けじと豪快に笑って、おじさんは俺の背中をばしばしと叩いた。


もやもやするのかもしれない。


何が、なんて俺には計り知れなくて、掛ける言葉は見つからない。

こんな気分の時、ラジアちゃんはいつも、浴びる程 酒を飲む。

だからただ、ひたすらに傍にいて、飽きるまで付き合うしかないし、それが出来るのは今のところ自分しかいないと思っている。


同じテーブルにいるので、顔を上げれば目の前にはすらりと伸びた白い脚。

深くスリットの入ったスカートを穿いているから、太腿までが露わになっている。



「見えちゃうよ?」



一応、声を掛けてみる。

聞いてないだろうけれど。



「何っ?よし、賭け事やるか!」



誰もそんなこと言ってないけれど……。

わーっと歓声が上がり、うやむやの内にカードゲームが始まる。

勿論、ラジアちゃんの一人勝ち。

たんまり稼いだお金を眺めて、にんまりしている。



「可愛いなあ」

「兄ちゃん、あの姉ちゃんの恋人かい」



おじさんの言葉に、目を剥いて驚いてしまった。



「……そう、見えるかな?」

「それ以外に見えねえよ!」



やばい。

もう、どうしよう。

顔が緩むのを必死に両手で押さえていれば、おじさんは豪快に笑って、酒瓶を担いでどこかへ行ってしまった。



「あ」



気づけば、いつの間にかテーブルに突っ伏し寝入ってしまったラジアちゃんが目に映る。

それでも巻き上げたお金を離さないのは、いかにもラジアちゃんらしい。

凄いな、幾ら稼いだんだろう。

酔っ払っていても強いなんて、流石としか言いようがない。



「よいしょっと」



寝入ったラジアちゃんを背中に乗せて、勘定を済ませ外に出る。

俺の肩に顔を乗せて、すうすうと気持ちよさそうに寝息を立てるラジアちゃんを見た。


可愛い。

どうしよう。

大好きだ。


朱い髪が、俺の肩から滑り落ちる。

瞼を縁取る長い睫毛が、白み始めた月灯りに照らされて白い肌に影を作る。

その額に軽く口付けると、ラジアちゃんは少し身じろぎをした。


無防備過ぎるよ。


ねえ。



「ラジアちゃん」



少しでいいから。



「……俺のこと、すき?」



……応えない、なんて、わかりきっているのに。


当たり前だ。

ラジアちゃんは寝ているのだし、起きていたら尚答えてはくれないと思う。

寧ろ、起きていたら俺はそんなこと怖くて聞けないだろうから。



「……うん……」



小さな小さなその声に、思わず足が止まった。



「……ラジアちゃん?」



名前を呼んでみるけれど、反応はない。

耳元を規則正しい寝息が掠るばかりだけれど、それでも、嬉し過ぎて、思わず泣きそうになった。

わかっている。

あれはただの寝言で、応えてくれたわけじゃない。

それでも――。


俺はやっぱり、ルシアみたいに誰かを代わりには出来ない。


今ここに、愛しい人がいて、今ここで、愛しいと思うことが出来る。



「俺、諦めないからね」



大好きだから。

だからずっと、いつまでも、俺の世界の中心でいて。


すやすやと眠る俺の世界にもう一度口づけて、そのアルコールの匂いに、少しだけ笑った。

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