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h.o's.O.way  作者: 鈴木真心
Chapter 2
6/33

2─2 sideリザ

ラジアちゃんは、ものすごい嫌悪感を顕にしつつも、依頼を受けた。

ベッド脇の棚上には、さっきの小袋。

金貨が詰まっているのを俺も見ている。


荷物袋に入れない辺り、表面上、受けただけかな。


そう思った。

ラジアちゃんはお金がとにかく大好き。

だから、こんな不用心に棚に置いておいたりしない。

速攻でしまうか、絶対に離さないとばかりに手に持っているかが普通だ。



「しまわないの?」

「んー……」



俺の膝の上で、ラジアちゃんは顔をしかめた。


珍しいことに、俺は今、ラジアちゃんに膝枕をしている。

膝枕自体が珍しいわけじゃない。

普段は俺がしてもらっている。

だって、くっついていたいから。

珍しいのは、ラジアちゃんに膝枕をしているという現状。



「どうしたの?」

「んー……」

「さっきから、そればっかりだね」



朱い綺麗な髪を梳きながら、思わず笑顔になる。

指通りのいい、長い髪。

俺の普段からの手入れの賜物だと思う。


ラジアちゃんはとにかく、外見に無頓着だ。

センスは悪くないし、寧ろいい方だとも思う。

ただ、髪とか肌とか、そういった女の子なら気にするべきところに対して、全く関心が無い。


もったいないと思うけれど、それを気に掛け手入れをするのは、自分だと勝手に思っているので言わない。


あの男も、ラジアちゃんが好きなのだろうか。

出会った時の言動からさっきまでの会話を思い出して、それが確信に近いことに知らず顔をしかめた。



「ねえ、ラジアちゃん」

「んー?」

「あの人、何であんな依頼したのかな?」



ルシアの依頼は最悪なものだった。



「『玩具』って、お姫様のことだよね?」

「……そうだな」



浮かない顔で、ラジアちゃんは短く答える。


ラジアちゃんの仕事は、裏魔術師。

普通の魔術師は、薬草を作ったり、占いをしたりして生計を立てている。

ラジアちゃんも出来るらしいけど、滅多にしない。

理由は『お金にならないから』らしい。

大体、生活に必要なお金は、ラジアが賭け事で儲けたもので成り立っている。


ラジアちゃん本職の裏魔術師とは、相当な魔力と手腕、そして、信頼がないと出来ないらしい。


内容は主に、裏稼業と言われる類のもの。

殺人、誘拐、たまには国を滅ぼしたりもしたらしい。


詳しくは知らない。

少なくとも、俺が拾われてからは、そんな大層な仕事はしていなかった。

精々、お金を巻き上げたり、誰かをとっちめたり、用心棒だったり。

それくらいのものだ。



「あの人の依頼、どうするの?」



聞いてみたかった。

どうするのか。


標的は一国のお姫様。

そのお姫様を誘拐して、ルシアの館に閉じ込める。

ルシアが死ぬまで、お姫様の肉体の時を止めて、永遠に『玩具』にしたいらしい。


肉体の時を止める。


それは、ラジアちゃんほどの魔力がないと出来ないことだ。


そしてそれは――俺の夢。



「どうするの?」



瞼は閉じられたまま、黒い瞳は見えない。

僅か寄せられた眉根だけが、ラジアちゃんの心情を物語っていた。



「……お姫様次第、かな。ルシアとは面識があるらしいから」

「……そっか」



答えたラジアちゃんは、何故か悲しそうに見えた。

理由なんて俺には、わかるようでわからないに等しいけれど。



「何でそんなことするのかな?」

「……永い時を生きるから、だろ」



ルシアも魔術師なのか。

何だか納得したけれど。

けれど。


目を開けたラジアちゃんはものすごく切ない顔をしていて、その黒い夜色の瞳で、俺を見つめていた。


髪を梳く手が止まる。

時間も、気持ちも、俺には余裕なんてない。


永い時を生きるから、『玩具』が欲しいとルシアは言った。


多分、やり方はどうであれ、ラジアちゃんにはその気持ちがわかるんだと思う。

同じだから。

同じなんだ。

だから、俺を育てた。

俺だったのは、偶然だと思うけれど。



「俺も……」

「リザは『玩具』じゃないよ」



俺の言葉を遮って、ラジアちゃんは優しく笑った。


――狡いよ。


それはきっと、嬉しい言葉。

だけどきっと、悲しい言葉。

それでもいいだなんて、そこまで言えば、きっと、ラジアちゃんに嫌われる。

きゅ、と唇を結んで、優しくも切ない笑顔をただ、何とも言えないままに見下ろした。


俺の夢は、やっぱり叶わないみたいだ。


知っていた、けれど。


ねえ、大好きなんだ。

大好きなんだよ。


口をついて出そうになる言葉を飲み込む。

今夜はきっと、言わない方がいい。



「……一緒に寝ようか」



素直に驚いた。

今日は珍しいことばかりだ。



「普段は嫌がるのに」

「たまにはね」



綺麗に笑んで、俺を見つめる。



「……だから、それは狡いよ」

「何のこと?」



答えてなんかあげない。

ただ、口から知らず零れたのは、俺の素直な欲望だけ。



「やっちゃうよ?」

「……いいよ」



感傷的になってるのかな。


そう思った。

俺にはわからない気持ちだから、何とも言えない。

何とも言えないけれど、やっぱり、そんなのは狡いんだと思った。


して欲しいと望むことは何だってしてあげる。


俺は、ラジアちゃんのものだから。

あの時からずっと、貴女だけのものだから。



「優しくするね」

「リザが優しくしなかったことなんてないよ。」



あまりに切なく笑うから、俺も切なくなった。

身を屈めて、額に優しく口づけを落とす。

抱き抱えれば、ラジアちゃんは遠く視線を投げて笑った。


俺じゃなくて。


でも、いいんだ。

俺だって今、つけ込もうとしているから。

貴女のその感傷に、入り込むだけの余地を探しているから。


闇の中、その柔い唇に口づける。

深く味わってから離せば、細い銀の糸が二人を繋いだ。

ラジアちゃんの唇は久しぶり過ぎて、やたらと興奮した。



「ねえ、大好き」

「……うん」

「大好きだよ、ラジアちゃん」

「……うん」



言わないと決めたのに、意志の弱い俺は、何度も何度も囁いた。


優しくするよ。

何だっていいんだ。

手に入れたいわけじゃない。

手に入れて欲しいんだ。


明日の朝、多分、ラジアちゃんは後悔するのだと思う。

それをわかっていて、俺は、俺の世界の中心を愛おしんで、貪るように、慈しむように、つけ入るだけの隙間に全てを埋め込むように、抱いた。

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