表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
h.o's.O.way  作者: 鈴木真心
Extra Chapter 2
30/33

little sound ー7 years oldー



「……びっくりだわ」

「……俺も」



あれから一年。

俺はずっとラジアちゃんの傍で、ラジアちゃんの仕事を手伝ったり、賭け事の極意を仕込まれたりしていた。


そして連れて来られたここは、何だかやたらと立派な大豪邸。

目の前には、目を見開いて驚いてる銀髪隻眼の女の人と、やたらと綺麗な顔をした金髪碧眼の男の人がいた。



「拾ったの」



そんな空気を気にすることなく、ラジアちゃんはそう言う。


最近わかってきた。

ラジアちゃんは、空気を読まない。

面倒くさいのか、本当に読めないのか──使い分けているのかはわからないけど、多分、両方なんだと思う。



「拾ったのって、あんた……犬じゃあるまいし」

「犬みたいじゃない?」



わしゃっと俺の頭を撫でて、口端をつり上げるラジアちゃん。



「賢いのよ。ポーカーは十分で覚えたわ」

「何教えてんのよ」

「食費とかバカにならなくて」



そうだったんだ。


確かに最近、自分でもよく食べるなあと思ってたけど。

ラジアちゃんもすごく食べるから、あんまり気にせずに一緒になって食べてた。



「……ごめんなさい、ごめんね、ラジアちゃん」



泣きそうになって見上げれば、きょとんとした顔が俺を見ていた。

ラジアちゃんに捨てられたら、きっともう、生きていけない。

前までの自分ならそんなことは思わなかっただろうし、そこまで誰かに執着なんてしなかった。

知ってしまった今は、もう後戻りは出来ない。

独りでなんていられない。

本気で、そう思い始めていた頃だった。


沢山食べたりしないから。

我が儘も言わないから。

だから、お願い。

お願いだから、傍にいさせて。


気紛れに拾われたのは、何となくわかってた。

だから、精一杯やってきたつもりでいた。



『……あのおじさんに、俺、言ってお金……』



一回だけ、口にしたことがある。

持ち金がなくて、初めて野宿をした夜だった。

思いっ切り殴られて、三日、口をきいてもらえなかったのを覚えてる。


だから、また気に障ったのかと思った。



「……ああ、別に」



軽く肩を落とし、小さく溜め息を吐くラジアちゃんを食い入る様に見詰める。



「成長期なんだろう。沢山食えばいいから」



呆れた顔で笑うから、また、泣きそうになった。



「じゃあ、ラジアはもっと成長するのね」

「まだ成長期なんだ。へえ……」

「……スピカ、胸を見るのはやめてくれない」

「成長の余白はたくさんありそうだよ、よかったね」

「失礼な」



続く三人の会話は仲の良さが垣間見えて、少しだけ切なくなったけど、少しだけ嬉しいようにも思えた。






三ヶ月間、ラジアちゃんと俺は、豪邸にお世話になった。

銀髪の女の人がアレックス、金髪の男の人がスピカ。

アレックスはレックスと呼んでいる。

二人はラジアちゃんの友達で、ここで依頼を受けて、仕事ついでにしばらく住んでるとのことだった。



「ラジアちゃんてすごいの?」



ある日、俺はレックスにそう聞いた。



「何で?」



剣を磨きながら、ちらと視線だけを投げて、レックスは首を傾げる。



「だって、皆そう言うよ」

「ああ、まあねえ」



けらけらと笑うレックスに、きょとんとした。



「何て聞いたの?」

「えっと……『生ける伝説』とか『最強の裏魔術師』とか。あ、レックスは『宵闇の兎』って通り名があるんだってね!後、スピカは『最高の魔術師』なんだって」

「あはは!そう聞いたのか」



最後の辺りで、レックスは盛大に笑った。



「『最強』と『最高』ってどう違うの?」

「前者は『最も強い』、後者は『最も気高い』って意味かな。まあ、スピカのそれにはあいつのつらも含まれてるんだよ」

「なるほど」



確かに、スピカの美しさは度を超えている。

綺麗とかかっこいいとか可愛いとかそんなのじゃなくて、彫刻みたいに『美しい』って言葉がよく似合う。

いつも優しげに微笑んで人当たりもいいけど、うっかり触りでもしたなら切れてしまいそうな気高い美しさ。

ラジアちゃんも充分綺麗だとは思うけど、短気な性格が勝ち気な瞳によく出ているなと思った。

それでも、俺の一番はもうラジアちゃんしかいないのだけど。


納得しながら頷いた俺に、レックスは優しく笑って言った。



「大切なものがあると、強くなるかもね」

「大切なもの?」



立ったままに聞き返せば、隣に座れとソファをぽんぽんと叩かる。

促されるままそこに座って、レックスを見つめた。



「レックスは、強いよね」



三ヶ月間、レックスには剣を教えてもらった。

ラジアちゃんはただ、煙草をふかして見てるだけだったけど。


ラジアちゃんは強いんだと思う。

けれど、皆はすごいと囃し立てて、そのたびに、夜色の瞳が歪むのを見てきた。

すごいと強いは、違うのだろうか。

まだ俺に、その違いはよくわからない。



「レックスは、大切なものがあるの?」



素朴な疑問を投げれば、やっぱり優しく笑ったのみだった。


俺も強くなりたい。

もっともっと、強くなりたい。

ラジアちゃんの傍にいるために。

ラジアちゃんの傍にいさせてもらうために。



「リザ、大切なものは守っていくの。守って、ときには守られて、だから大切なの」



磨いた剣を見つめたレックスがそう言った。


呟きには、確かな思いがあるように感じる。

それが、思いか想いか、まだ俺にはわからないけれど、きっと間違ってはない。



「あたしは三ヶ月間、リザに剣を教えたよね」



こくっと頷く。



「リザ、あんたは筋がいい。魔力はないけれど、なくていいとも思う」



俺には魔力がなかった。

拾われてすぐ、そうラジアちゃんも言っていた。

俺からしたならとても残念のことだったけれど、なくてもいいのだとレックスは言う。

何故か──それはやっぱり、今の段階ではわからなかった。

沈黙の後、ふいに問い掛けられる。



「君は大きくなったら、その剣で何をしたいの?」

「俺、あの人を守りたい」



答えはたった一つだけ。



「どうして?」



どうして?

そんなのは決まってるんだ。


あの人は世界でただ一人。

あの人は世界のただ一人。

あの人が、俺の世界の全て。



「……だいすきだから」



真っ直ぐ見返して言った言葉に、レックスの紅い瞳が、満足そうに弧を描いた。



「じゃあこれ、あげるよ」



それは、今し方レックスが磨いていた剣。



「……いいの?」

「いいよ。大事にしなよね」

「うん!ありがとう」



笑顔で受け取った三日後、ラジアちゃんと俺は、また旅に出ることになった。

彼女は別れ際、こう言った。



「選ぶのは君だよ」



選ぶのは、俺。


後々、その意味を知ることになるとは、このときはまだ、わからなかったけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ