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h.o's.O.way  作者: 鈴木真心
Extra Chapter 2
28/33

little sound ー6.3 years oldー

暫くお風呂に入ってなかった。

ぶんぶんとたかってくる蠅を軽く振り払いながら、どこの宛てもなく、街外れを歩いていた。


そんなときだった。



「君、君、ちょっと待って!」



やたらと慌てた声が耳を掠め、こんな場所に他に人がいることが珍しいなと思いつつ、特に気にしなかった。



「君!銀色の君だってば!」



俺?


銀色の髪なんて、いるにはいるけど、あんまり見掛けるものじゃない。

こんなところを歩く銀色なんて、ちらと見回しても俺だけだし、そもそも他に人などいなかった。


振り向けば、柔らかい茶色の長い髪を揺らした女の人が、息を切らして走り寄ってきた。



「はーっ、よかった……歩くの早いから。君、一人なの?」



ああ、またか。


そんなことを思った。



「お父さんは?お母さんは?おうちはどこかな?」



矢継ぎ早に、躊躇いもなく聞いてくるこの人に驚いた。

大体の人は、言いにくそうに言葉を濁すことを笑顔で堂々と聞いてくる。



「いないよ」



しかし、僅かな驚きはすぐ強かさに紛れ、小さく、どうでもいいように答えた。

本音は鬱陶しいに限るが、いつものように俯いて少しでも憐れみを誘えたなら、何かしらのお零れだって期待出来るかもしれない。



「そう……」



予想通りの小さな返答だった。

それだけなのに、そこに含まれた憐れみが、あまりに真っ直ぐに感じられて、何故か、自分が悪者になったような気がした。


両親なんて、記憶がない。

いたには違いないけど。

それは俺を生んだだけで、親と言えるのかさえわからなかった。


蠅が、うるさい。

うるさい、うるさいうるさいうるさい。


何も知らないみたいな笑顔に、苛々した。

施しならさっさと寄越せばいいのに。


そんなことを考えてたら、ぎゅうっと抱き締められた。


反射的に身を捩る。



「きっ、汚い、から!」



咄嗟にそんなことしか言えなかったのは、やっぱり俺が子供だからだろうか。


かなりじたばたしてみたけど、回された腕は、力が込められるばっかりで、放されることはなかった。



「……汚い、か、ら!やめっ……」



だって、だって、俺。



「汚くないよ」



嘘。

嘘だ、嘘吐き。



「……汚い……よ」



昨日だって、知らない奴に身を売った。

鞭で打たれた跡が、背中でずくずくと痛い。

あいつは最低だった。

痛みを必死で堪えていればもっと啼けと言い、痛みを訴えればうるさいと罵倒され、薄汚いと罵りながら、汚い舌で傷口を唾液塗れにして嘲笑いながら抉り続けた。


背中が痛い。

心が、痛い。


だから、やめて。



「……君は、汚くなんかないよ」



またこもった腕の力に、涙が出たことに気づいた。



「きたな……きたな、い、よ……」



汚い、俺はきっと、昨晩のあいつなんかより、ずっとずっと汚いに違いないんだ。


物心ついて、初めて、誰かに抱かれて泣いた。


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