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h.o's.O.way  作者: 鈴木真心
Chapter 4
26/33

4─6 sideリザ

ラジアちゃんは言った──我慢しなくていいんだって。


それだけで気持ちは軽くなり、許されたような気にさえなるのだから、全くおかしなものだと自分でも思う。

今になってみれば、こうなるために生まれて来たんだろうとさえ思えた。


自分が嫌いだった。

自分がけがれていると思って、疑うことはなかった。


俺が俺でいられる理由はラジアちゃんのみであり、ただそれだけだ。

自分の存在理由は自分のためではなく、ただ、ラジアちゃんのために。

おかしいことだと、盲信的であると、わかってはいるけれどそれを止める気は最初からない。

さっきの一言で、それでいいんだと勝手な解釈をしてしまっている。


俺はよくわかっていないラジアちゃんを引っ張って、そのまま路地裏へと入って行った。

ここは今朝、娼館帰りに見つけた、廃屋ばかりで全く人気がない場所だ。

まだまだ早朝とあって、辺りはより静まり返っている。



「リザ?」



きょとんとして、ラジアちゃんは俺を呼んだ。

あまりの無防備さに思わず笑えば、また、ラジアちゃんは眉間に皺を増やして首を傾げた。


彼女はわかっていない──いや、理解しようとさえしていないので、俺はただ、そこに隠された本音を垣間見ている気持ちになって、切なくなるばかりだけれど。



「……ここに、立ってみて?」



奥まで行って、壁を指差せば、首を捻りながらもラジアちゃんはそこに立つ。


俺は、そんなラジアちゃんを見ていた。


薄暗い路地裏に、ラジアちゃんの白い肌が浮かび上がる。

ただ、本当に綺麗だと思った。

綺麗で綺麗で、少しも汚れのない、何ものにも染まらない夜色の瞳は、今、俺だけを映している。



「無防備だよ」

「え。……っ!?」



その無防備さが胸を締めつけ、これでもかと抉る事実を、ラジアちゃんはわかっていない。

ぼんやりしているラジアちゃんの唇を八つ当たりのように奪い、白く華奢な両手を即座に拘束した。

こうすれば、魔力を使えないことを俺は知っている。

ずっと一緒にいた──だから、何だって知っている。

過去も昔も知らないけれど、今のラジアちゃんなら、何だって。


薄く目を開ければ、至近距離で視線がぶつかった。

その瞳は、俺しか映していなくて、酷く、俺を欲情させた。


唇を離せば、ラジアちゃんが口を開く。



「何して……っ、ちょ、っと!」

「我慢しないことにしたんだ」



その言葉を遮って、貪るようにまた口づける。

細く緩やかに曲線を描く腰をなぞり、柔らかく弾力のある尻を撫で、そっと、深く入ったトップスのスリットから指を侵入させる。

本能のままに。

絡めて。

吸って。

啄んで。

柔いその唇も、舌も、その先でさえも俺だけのものにしたい。


角度を変えて。

深さを変えて。


最初こそ抵抗を見せたラジアちゃんは、その辺りからおとなしくなすがままだった。



「……何で」



抵抗しないの?


唇を離して、耳朶を甘噛みしながら囁く。


膝下まである長さのトップスはスリットから挿し入れた俺の手によって、腰を留めるベルトがズレている。

そのままボトムに侵入することは容易く、それからはきっと、彼女を掻き乱すことはより容易いようにさえ思える。


──わかっているはずなのに、どうして。


壁に抑え付けられたまま、それでもラジアちゃんは、何も言わないままだった。


ねえ、どうして。

何を考えているの。



「……ラジアちゃん……」



感じる全てが愛しくて。

切なくて、泣きそうで、どうしようもなくて。

昨夜の娼婦を思い出して、吐き気がした。


お願い。

俺のお願い。

このまま、俺に流されてしまって。


もう片方の手で、ラジアちゃんの頬に触れる。

受け入れて、突き上げられて、なすがままで、俺を受け止めて──。


口付けようとしたその瞬間。


視線がぶつかったその瞳が、挑戦的に細められた。


──あ、やばい。


思ったと同時に、両手を離してしまったことに、今更、気がついた。


──パチンッ。


指の鳴る音が聞こえて、俺は容赦なく吹っ飛ばされた。





狭い路地裏。

俺は向かいの壁に、凄まじい音を立てて思いっ切りめり込んだ。



「……痛いー……」

「朝っぱらから何しようとしてんのよ」



軽く首を振る俺に、ラジアちゃんが睨みを効かせる。



「何って……セックス」



思わず笑ってしまったのは嬉しかったからだ。



「いつもより軽いね」



へらりと笑ってそう言えば、容赦なく冷たい視線のみを投げられる。

それでも今までと違うのは、追撃がないということ。

その事実だけで、俺はまだ、しばらくは生きていける気がするのだから、本当にとんだ重症だ。


すたすたと俺を置いて、ラジアちゃんは大通りへと戻って行く。

笑ったままに立ち上がれば、痛めたらしい腰が小さく悲鳴を上げた。

これは……痣になってそうだな。

軽く腰をはたけば、砂埃が舞い散る。



「ラジアちゃん」



あっという間に追いついて、俺はいつものポジションを歩く。



「ごめんね」



何度謝っても、うんともすんとも答えは返って来なかったけれど。



「……何笑ってんの、反省してんの?」



ようやく開かれた唇から零れた不平不満と、彼女がくれた一瞥に一瞬でも映り込んだ俺。

それだけでやっぱり、天にも昇るような気持ちになる。



「あんたはやっぱり、少しは我慢しなさい」



そう呟いたラジアちゃんの顔が、本機で怒ったようには見えなかったから──ラジアちゃんがそう言うなら、少しくらいは我慢することにしようと思った。


だから、



「ねえ、ラジアちゃん」



今夜はベッドの隣を俺が埋めてもいいだろうか。


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