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h.o's.O.way  作者: 鈴木真心
Chapter 4
24/33

4─4 sideカゥゼ



「聞く耳持たずって感じね」



リゥゼの背中を見送って、あたしは溜め息をついた。


リザのことを聞いてきた理由はわかる。

ずっと傍にいるのは伊達じゃない。



「あーあ」



また溜め息が出た。


永く生きていようと、あたし達は所詮、ちっぽけな人間で。

永く生きているからこそ、想いを上手く伝えることが出来ない。

躊躇う気持ちも戸惑う気持ちも、普通の人間と何ら変わりはないのに、それを理解してくれる人間は少なくて、永きを彷徨いながら、あたし達はそれを探し続けている。


リゥゼも馬鹿だな。

言っちゃえばいいのに。


姿の見えなくなった廊下を眺めて、そんなことを思った。



「無理か。そういうとこ、へたれてんだよね」



呟いて、少し笑った。

呆れだったり、羨望だったり、励ましだったり、いろんなものがない交ぜになる。


リゥゼの置きっぱなしにした煙草を銜えれば、火を点けた火元が、じじっと、小さく音を立てて燃えた。


魔力を持つ者は、煙草を吸う人が多い。

それは、永い時の一瞬の暇潰しに過ぎなくて、同時に、存在を思考する一瞬であり、癒しとなる瞬間でもある。



『リザは、まだ?』



何を怖れているの。

何もしないくせに。

何も出来ないくせに。


何も出来ない理由も気持ちも理解は出来るけれど、現状維持はリゥゼ自身の結果に他ならない。

理解は出来ても、擁護する気はさらさらないのだ。


まだよ、あの子はまだ。

──けれど。



「……きっと」



ぼんやりとあたしは思う。

ラジアは迷っているのだろう。

本当の自分に気づいていないかもしれないけれど。

原因はラジアの鈍感さが占めている。

あたしは情報屋であって、情報収集も分析も得意だから。

何となくわかる。

直感が訴えている。


まあ、永い付き合いだしね。


吐き出した煙は、ゆらゆらと漂う。

彷徨って、消えて行く。

あたし達はこの瞬間、自分を重ねる。

そして、願わずにはいられないのだ。


誰かと共に在りたいと。



「あいつも大概モテるけど……本当、どこがいいんだか」



誰が手に入れるだろうか。

誰よりも強いと謳われ、しかし誰よりも脆くあり、朱く染まった月が閉ざしてしまったラジア・ゼルダの心を。


ルシアは駄目だったらしいが、あいつは変態だから仕方ない。


リゥゼ?

それとも、リザ・レストル?

それともまだ見ぬ誰か?



「……クラチカ」



──貴方は、誰だと思う?


懐かしく、そしてどうしても禁忌タブーを思わせるその名に、昏い陰りが差す。

貴方は何を思う?

貴方は何を望む?

貴方が思う最善は何?

貴方なら誰がいいと?


──ラジアの救いは?



「……馬鹿ね」



またもや溜め息をついて、あたしは煙草を吸った。

あたしが心配することじゃない。

決めるのは、ラジア本人だと言うのに。


永遠の夢を。

手に入れるも入れないも、ラジア次第。

難しいことでは無いはず。

例え、あたし達より永く、この世に縛られ続ける定めでも、あいつにはそれを実現するだけのすべがあるのだから。



「でも、お金は返して貰うからね」



それとこれとは話が別で、金銭面はきちんとするべきなのだ。

さて。


銜え煙草でキッチンに向かい、作り掛けの料理の仕上げに取り掛かる。


う──ん……我ながら何て言うか……いい匂いだわ。



「リゥゼ──っ、ご飯──っ!」

「あいよ」



可愛い……いや、可愛くはないけれど唯一の弟が軽くへこんでいることだし、あたしの絶品料理を食わせたらさっさと寝かしつけて、明日、ラジアに会いに行こう。





「で?」

「あ?」

「美味かったでしょ?」

「まあな」



綺麗さっぱり片づけられた皿の数々に胸を張れば、食後の一服に手を伸ばしたリゥゼが、訝しげながらもそう答える。



「……何で煙草を取り上げた?」



眉を寄せたリゥゼの代わりに一本抜き取り、緩慢な動作でそれに火を点けた。

より眉根の皺を深くするリゥゼ。



「今日はあたしが作ったの。で、あんたがすることは?」

「お前……傷心の弟に優しさはないの?」

「諦めてないくせに」



しばらく皺を引っつけたまま固まるこいつは、未だ、あたしのことをわかっていない。

どうせ、がちゃがちゃした騒々しい奴だとくらいにしか思っていないに違いない。

姉として、情報屋としての観察眼を舐めてもらっちゃ困る。


まあ、現状としてキッチンは惨状の残骸で溢れ返っているわけで……間違ってはいないのかもしれないけれど。

何でああなるのかは、自分でもわからないので、何とも言い難いが。



「……やれってことね」

「よろしく」



ちらと残骸に視線を遣ったリゥゼが、肩を落として、ついでに溜め息を零した。



「何でああなるの……?」



それは誰にもわからないんだよ、リゥゼ。


これから先に起こることと同じくらいに。



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