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h.o's.O.way  作者: 鈴木真心
Chapter 4
23/33

4─3 sideリゥゼ



「あれはねえよなあ……」



どかっとソファに座って足を組む。

転移術とはね。

詠唱無しでやってのける辺りは、流石としか言いようがない。


ラジア・ゼルダ──生ける伝説として名を馳せる裏魔術師。

その二つ名は今だ現役ってことか。



「何なのよ。辛気くさいわね」



キッチンでがちゃがちゃと夕飯を作っていたカゥゼが、苛々と一瞥をくれた。



「……お前ね、ラジアに逃げられたからって、俺に当たるなよ」

「はあ!?何で知ってんのよ!?てか、あーもーっ、思い出させないでよ!」



答えず煙草をくわえる。

火を点けて、ぼんやりと揺らめく煙を眺めた。



「なあ、あいつさあ」

「は?どいつよ?」



尚もがちゃがちゃと騒々しくしながら、苛々とした声が返ってくる。

お前ね、何でそんなに一から十まで騒々しく出来るの?

弟の優しさで言わないけどね。



「リザ・レストル」



取り敢えず本題から逸れないよう簡潔に言えば、「ああ」と呟いて、カゥゼはその手を止めた。


カゥゼは情報屋をしている。

で、俺は賞金稼ぎ。


双子なだけあって職種的にも相性もよく、連携して仕事が出来るので、能率もいい。

ここも、俺達の自宅兼事務所だ。



「で?何が聞きたいの?」



止めた手を拭いて、カゥゼはこちらに来ると隣に腰掛けた。

ちらりと見えたキッチンの惨状は……今は見なかったことにしよう。



「知ってるだけ」

「ふうん……」



ちらと俺を見てから、カゥゼは考え込んだ。



「……確か、孤児だったわね。拾われたのは六歳のとき。あれよ、ラジアがこの間滅ぼした国。あそこで拾われたの」



噂通りなのかと少し驚いた。

大抵、噂ってのは尾鰭おひれがつきものだ。

何となく耳にしてはいたが、まさかと思っていたのもまた否めない。


ただ、カゥゼが言うなら間違いない。

こいつはこうがちゃがちゃした性格している割りに、情報の正確性は非常に高い。



「……で?」



煙を一つ吐き出して、先を促した。



「拾ったのは気紛れらしいわ。あのラジアが珍しいよね。リザはやたらと懐いてるみたいよ」



「まあ、だからこそ半信半疑、面白おかしく噂になってるんだろうけど」と、カゥゼは何故か、溜め息混じりに続けた。

確実に今日逃げられたこと、吹っ飛ばされたことが尾を引いているが、今それはどうでもいい。


確かに珍しいのだ。

ラジアは、他人を寄せつけない。

それは俺の知る限り出会った当初からずっとで、だいぶ打ち解けて旧友と呼ばれるまでになった現在に至ってもだ。

俺達にでさえ、なのに──特に、あの朱い月の夜から。



「そうそう。リザは、ラジアに育ての親以上の感情を持ってるみたいよ」



カゥゼの言葉に、知らず、表情を歪めた。



「……やっぱりなー……」



途端カゥゼの眉が跳ねる。



「何よ、やっぱりって」

「今日、会ったから」

「ラジアも!?」

「あ」



しまった。



「何で言わないのよ!ちょっと!あのときの賭け金、返済するように言った!?」



カゥゼが喚き立てる。

相当根に持ってるな。

ここもまた弟の優しさで、敢えて言わないが。


ぶつくさ言うカゥゼを横目に、俺は煙草を捻消した。

部屋へ戻ろうと腰を上げたとき、カゥゼと目が合う。



「あんた、何でリザのことなんか?」

「……リザは、まだ?」

「……普通の人間らしいわ」



そうなのか。

だからあんなに、余裕がなかったのか。



「ラジアは……めときなさいよ」



カゥゼの言葉に、軽く手を振って返す。

飽くまでも『確かに聞いた』という返しであり、『理解した』というわけじゃない。

伊達に永く相方(双子)をやっているわけじゃないので、あいつもそこはわかっているはず。



「もう少しで夕飯だからね!」

「わかったよ」



俺はリビングを後にした。

しばらくして、キッチンからはいい匂いが漂ってくるのだから、常々、カゥゼの腕はどうかしていると思う。

あの惨状と騒々しさから、まさかの絶品料理が製造されるのだから、世の中ってのは不思議なものだ。


それはラジアの行動然り。



「リゥゼ──っ、ご飯──っ!」

「あいよ」



さて、あいつの絶品料理でもって、少しは気が紛れるだろうか。


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