4─2 sideラジア
昼飯を食べ終えて外に出る。
あたしは不機嫌だった。
「……ちょっと」
「何、どうした?」
「何でついて来んの」
しかめ面でリゥゼを睨みつけたが、その飄々とした笑顔が崩れることはなかった。
何だかすこぶる憎たらしい。
本当にこの双子は変わってない……昔から、という意味で。
今日はついてない。
清々しい森での散策を堪能するためにわざわざラグトから飛んできたのに、朝っぱらから珍獣にエンカウント。
巻いたと思って昼飯を堪能していれば、片割にもエンカウント。
何なんだ。
厄日か。
大体何でこんなところで……
「……ここ、どこよ」
「エルリッツ小国のリーツァイの街だけど」
……エルリッツ小国だって?
リーツァイの街だって?
当然に答えたリゥゼのそれに、一瞬、フリーズした。
「迷って来たとか……なわけねえか」
「飛んでは来たけど」
「飛んで?ああ、転移術ね」
リゥゼとリザの会話にも入らない。
そう、あたしは飛んで来た。
だから若干疲れている。
疲れている上に、さっき一発食らわせたので、より疲れている。
とにかく、『知る限りで一番気分転換になりそうな森』をイメージして飛んだのだ。
転移術は訪れたことのある場所のみ移動が可能だ。
例外もあるけれど。
そして、カゥゼとリゥゼの住む場所は確か、エルリッツ小国南部のテテの森──リーツァイとは隣接している。
ラグト国からは二つの国と一つの荒野を挟んでおり、歩いて来たなら……どれほど掛かるかは知らないが、とにかく遠いのは確かだ。
テテの森は小さいながらも緑豊かであり、野鳥の数もずば抜けて多い。
小国と自ら名乗るだけあり、他国に侵略の意志がないことを堂々と公言している数少ない平和主義国であることも有名だ。
まあ、軍事力自体も小規模だから、そんな大それたことの実現自体が困難ではあるけれど。
あたしは大きく溜め息をついた。
「ついてきたって、あんたの仕事の足しにはならないでしょ」
「話題変えるなよ。まさかお前、イメージだけで飛んで来たの?」
「うるさい、ついて来んな」
早くどこかへ行って欲しい。
お前らのことはイメージに入ってない。
いつカゥゼが乱入して来るか、わかったものじゃない。
気が気じゃない。
「そう言うなよ。なあ、リザ?」
何でリザ。
睨んだまま、あたしは首を捻った。
さっきからやたらとリザに絡んでくるな。
リザは訝しげにリゥゼを眺めているが……リゥゼに限って、効いているとは思えない。
「あ、カゥゼには早く返済した方がいいぜ」
「いつの話よ。あんなの無効、時効」
ああだこうだと言い争っていると、リザが後ろから抱きついて来た。
「……何」
「つまんない」
「は?」
あたしが楽しんでるとでも思うのか。
ぎゅっとあたしを抱き締めて、リザは口を尖らせた。
「今日、していい?」
……捨ててきたい。
意味がわからない。
いいわけあるか。
あたしが憮然としていると、突然リゥゼが笑い出した。
「俺が邪魔ってことね」
リザを捕えたその目は笑ってない気がするけれど。
「最初から邪魔だけど」
リゥゼに一瞥くれて、言い放つ。
この話題になるずいぶん前から、あんた達双子は呼んでない。
「……お前、ほんっとにわかってないねー」
がしがし頭を掻きながらリゥゼは軽く溜め息をついた。
溜め息つきたいのは、あたしなんだけど。
「今日はしたい」
こっちはこっちで、どうしようもない。
「何なの」
「したいの」
「娼館行く?」
途端、リザの眉間に皺が寄った。
「ラジアちゃんとしたい」
埒があかない。
全くの平行線だ。
「あんたの所為」
「何で俺」
何でかはわからないが、間違いなくリゥゼの所為だと思う。
とにかく。
何でもいいから、リゥゼはどこかへ行って欲しい。
余計に面倒なことになる前に。
仕方がない。
少し体力を使うが、やむを得ない。
「じゃあね」
「あっ、狡いぞ!」
ぱちんと指を鳴らして、リゥゼの言葉を聞く前に、あたし達は、その場から消えた。
「ここ、どこ?」
「……あー」
「まだリーツァイの街?」
「……夕飯は美味いものが食べたかったの」
街の南部から北部に移動しただけだった。
だって……疲れてるから。
この辺は鶏のササミが美味いしね。
まだ食ってないしね。
「転移術ってのは魔力消費が激しいのよ」
「今日二回目だもんね。大丈夫?」
「あんまり」
取り敢えず道を歩いていないぶん、リゥゼに探知され難いのは確かだ。
あいつは職業柄か、やたらと鼻が効くから油断は出来ないけれど。
どうせすぐに転移術を使えるわけじゃないので、仕方ない。
鶏のササミで、気分転換するしかなさそうだった。




