3─2 sideリザ
俺の下に組み敷かれたまま、ラジアちゃんは何度も、俺の名前を呼んだ。
ラジアちゃんはわかっていない。
そんな目で、そんな顔で、俺を呼ぶことがどういうことかをわかっていない。
俺が怒っている理由も、きっとわかっていないんだ。
わかって、ねえ、わかって。
伝わって、ねえ、お願いだから。
そうずっと思っていた。
なのに今は、何故かそれが逆に怖い。
──伝わって、結果、こういう行動に出られてしまったから。
怒っていた理由よりも、ラジアちゃんの取った行動の方が怖くて堪らなかった。
ねえ、どうして。
俺は近づけないのかな。
どうして、この距離は縮まらないのかな。
どうして、こんなことになるのかな。
そんな顔させたいわけじゃない。
違うんだ、違うんだよ。
どうして、どうしてどうしてどうしてどうして。
いつからか俺は欲張りになっていて、知らない内にラジアちゃんを困らせていたのかな。
ねえ。
「……愛してる」
ラジアちゃん。
「……愛してるんだ」
届かないとわかっていて、俺はラジアちゃんの肩に顔を埋めた。
届かないとわかっていて、ただそれを呟くしか出来ない。
伝わってしまえばこうなると知ってしまったのに、離れていこうとするのに、傍にいたいのに。
涙が出そうになる。
悲しくて、哀しくて、愛しくて。
それでも、諦めきれなくて。
「愛してる」
大好きじゃ足りない。
「愛してるよ、ラジア」
言葉だけじゃ足りない。
「……愛してる」
繋がるだけじゃ足りないんだ。
だから、お願い。
「……傍に、いさせてよ……」
置いていかないで。
きっと俺は、死んでしまうから。
「……うん」
思わず顔を上げれば、至近距離にラジアちゃんの優しい笑顔があった。
「──ラジア」
「……うん」
「……愛してる」
「……うん」
気がつけば、呼び捨てていた。
ラジアちゃんは、珍しく怒らなかった。
わかってる。
ラジアちゃんの「うん」は俺の言っていることを何となく理解しただけ。
受け止めてくれたわけでも、受け入れてくれただけでもない。
ただ『わかった』だけ。
「……ラジア、ちゃん」
「うん?」
少し動けば睫毛が触れてしまいそうな距離で、俺はその夜色の瞳を捉える。
「……ごめんね」
「何が」
何がって、色々。
ラジアちゃんの指が、俺の頬を撫でる。
まだ、きっと、俺の知らない何かをラジアちゃんは抱えていて。
俺の知らないところで、泣いているのかもしれない。
泣いてはいないかもしれないけれど。
それでも。
「傍にいたいんだ」
だから、囁かせて。
言葉だけでもいいから、囁かせて。
ラジアちゃんは、その綺麗な顔でただ、笑っていた。
頬を撫でていた手はいつの間にか止まっていて。
触れそうな睫毛を伏せて、そっと、口づけを交わした。
届かない想いを沢山囁けば、いつかそれは届くのかな。
傍にいたいとたくさん願えば、いつかそれは叶うのかな。
大好きだから。
大好きじゃ足りないから。
愛しい気持ちを込めて、その華奢な体を抱き締めた。
「ねえ、ラジアちゃん」
「何、まだ何かあるの」
「……したい」
瞬間、凄い勢いで吹っ飛ばされて、壁にめり込んだところで意識は途切れた。
俺、バカかもしれない。
それでもやっぱり、貴女しか見えない。