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いつもの峠 〜ヒーローはいつも崖の上に立つ?〜

 寒い冬のオープンカーあるある。幌を上げて颯爽と峠を目指して走らせたのはよいが

……。

 今朝起きると外は快晴であった。これならば、きっとあの「いつもの峠」から富士山が良く見えるだろう、と朝飯もそこそこに、完全防寒の衣服に着替えた。真冬の日の出直後なので、毛織のハンチング帽を被り、古着屋で8000円!で購入した革コートを羽織る。

 真冬の朝、放射冷却の影響でガレージは冷え冷えしており、エンジンもキンキンに冷えている。ガレージで寝ているオープンカー、デュエットのお尻を眺め、さすった後、おもむろに「儀式」を執り行う。

 まずは、オイルゲージを抜き出し、オイル量を確認。次は、ラヂエータのキャップを外し、クーラント量の確認。点火プラグは先日の走行後に焼け具合を確認済み。焼け具合はこんがりしたきつね色だった。

 ドライバーズシートに乗り込み、キーをスターターの鍵穴に差し込み、一つ手前まで捻る。

「トゥク、トゥク、トゥク、トゥク……」

とトランク内の電磁ポンプが、ウェーバー製のキャブレターに燃料を送る。音が徐々に小さくなり、ETC車載機の音声案内が終わる頃、アクセルペダルを 3回踏む。そして、チョークは使わず、アクセルを踏みながら、キーを一気に捻り、点火。

 エンジンは、冷え切っていたのにも関わらず、1回で咆哮を上げ、アクセルを数回煽った後、安定してアイドリングを始めた。

「よし、よし、今日も寝起きが良いな。」

とひとりほくそ笑む。

 今年の5月に行った2回目のエンジン故障に伴うエンジン&キャブ換装のお陰で、すっかり始動の儀式が短時間になり、真冬の早朝始動もお手のものとなっていた。以前の持病持ちエンジンではこうはいかなかった。キーを捻る前に、必ず「二礼二拍手一礼」の本当の儀式を行ったものだ。

 「ドイツ車は暖気しない。それは、ダンケシェン、暖気せん、だから。」

と、まさに寒い親父ギャグを思い浮かべながら水温計の針が動き出すまで暖気する。その間に、ガレージのスライディングシャッターを引き上げる。

 再度シートに乗り込む。革手袋をはめ、3点式シートベルトを付け、右手でサイドブレーキを下ろし、シフトレバーを、2速を舐めさせてから1速に入れて発進。エンジン換装後は、発進も楽々である。

 自宅ガレージを出て、坂を下り、旧国道に出る。少し、旧国を流して旧東海道に入る。榎の大木が残る一里塚を巡り、山に向かう横道にそれ、東名高速道路の富士川サービスエリア方面に向かう。東名のガード下をくぐり抜け、農道に入る。農道は、登りの山坂道なので、 2〜3速の4~5000回転で気持ちよく走れる。キャブからの吸気音、マフラーからの排気音、エボナイトの細いステアリングへの小気味よい振動。至福の時である。

 いくつかのコーナーを回り、前方が開けた所に「いつもの峠」の駐車場がある。

「ラッキー!今日は空いていた。」

この駐車場は、クルマを1台くらいしか置けない。無理やり詰めれば何とか2台までは駐車できるが、それでは先客に失礼である。そういう時は一度そのまま通りすぎ、隣の町まで降りてからUターンして戻ったり、そのまま富士宮か山梨方面を走らせ、帰りに寄ってみたりするのである。

 スピードを緩め、ゆっくりとガードレールの間にクルマを滑らせる。気をつけないと2,3メートル下のみかん畑にダイブしてしまう。サイドブレーキをかけて駐車。

 眼下には、北から南へ流れる富士川。右手に富士川サービスエリア。左手には霊峰富士が白衣しろごを纏って鎮座ましましている。これほどの絶景を独り占め。愉快である。この「いつもの峠」に降り立つと必ず、

 春風や闘志いだきて丘に立つ

という高浜虚子の名句が思い浮かび、自分が特撮ヒーローになったような気分にもなる。

 しばらくの間、寒風の中、愛車と風景を眺めたり、撮影したりしていた。

 ここで一句

 寒風(かんぷう)や 崖を駆け降り 立小便

 

 この狭い駐車場にはトイレはない。携行トイレも装備していなかった。そのため、崖の下のみかん畑に急いで降り、木陰で用を足した。

 「用が済んだので今日は帰るとするか。」

と、デュエットに颯爽と乗り込み、元の道を駆け降りていった。

 還暦近くになると前立腺が肥大するために頻尿になり、一度尿意を催すと我慢できず

に、人間の尊厳を失うことになりかねない。そういう緊急事態では、恥も外聞もなく排泄行為をしなくてはならない。現

在は、立小便しなくてもいいように携行トイレを常備している。

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