3章「延長二試合」
店の外では興奮した康樹と充晶が、今しがた見たのであろうことを、人目もはばからず話していた。
二人のテンションはマックスに近い。
存外無事な姿にホッとしつつ、清司はため息をついた。
太壱はまだ出てこないが、まずはこの二人を黙らせなければ、人目を引いて仕方がない。
清司は夢中で話している二人の頬を同時につねった。
「「痛だだだだ‼」」
「お前ら少し黙れ。商店街で晒しもんになりてぇか」
そこまで言うと、頬をつねった事への抗議はあろうが、一先ずは二人とも黙ってくれた。
二人には玉とどんな契約をしたのか聞きたいところだが、それは四人揃ってからの方が良いだろうし、今ここで聞くには人の目があり過ぎる。
と、そこに
「……え?」
そんな声を漏らしながら太壱が現れた。
それこそ、本当にその場に瞬間移動でもしたかのごとく現れたのだ。
「あれ? 太壱、いつの間にそこにいたの?」
「え、あ、いや、あれ?」
そんな康樹の声に、太壱本人も何があったのかわからない様子だ。
店を振り返ると、そこはあたかもはじめからそうであったかのように空き店舗になっており、入り口はシャッターで閉められている。
あの店の名残など、どこにもなかった。
「……そんなオチだと思ってたけどよ」
清司はぼそりと呟いた。
「え、僕達今までここにあった店に居たよ、ね?」
「そうだよ……なぁ?」
充晶と康樹がはてなマークを浮かべている。
自分は自ら店を出てきたが、おそらく他の三人は、用が済んだ為店主から追い出されたのだろう。
あの店主、もとい付喪神の話であれば、店ごと姿をくらますことなど容易く出来るはずだ。
あの店自体が生きているのだから。
それはそうと、この後はどうするか。
ともかくこの場からは離れたほうがいいだろう。
清司はいまだ疑問符を浮かべている康樹と充晶の腕をがっしり掴むと、太壱に「行くぞ」と声をかけ、商店街の出口へ向かって歩き始めた。
◆
「いやー、何だったんだろ、あの店?」
「ホントだよね! 気付いたら無かったもん」
康樹が商店街でのことを振り返ってそう言うと、充晶が楽しそうに言う。
「この貰った玉も契約? したら色変わってたし」
ポケットに入れていた玉を取り出し、透かして見るようにして続けると、康樹が身を乗り出した。
「え?見せて! ……ホントだ! 確か充晶のやつ真っ黒だったよな? 少し透明になってるじゃん!」
康樹がはしゃいだように言うのを、にこにこと見ながら、充晶が返す。
「康樹のは?」
充晶に言われ、康樹はやはりズボンのポケットにしまっていた玉を取り出して言った。
「オレのは赤のまんま。でもオレのも最初より透明な感じになった! 宝石みたいだ!」
そんな会話をとめどなく繰り広げる二人を尻目に、清司と太壱は出されたコーヒーをすする。
あれから、午後から家族が居ないという康樹の家に立ち寄り、何があったのかをまとめようという話になったのだが、終始この調子で止まる様子がない。
口を挟むのを半ば諦めて、二人黙ってコーヒーをすするしか無かったのだが、
「オレ赤好きだからいいけどさー。でもすげーよなあの店! もう一回行きたいな!」
「ぶふっ! ゴフッゲフッ‼」
そんな康樹の脳天気とも取れる発言に、清司は思わずむせ込んだ。
「わ、何だよ清司ー。汚いぞー」
正面にいた為か、テーブルを拭きながらそう抗議してきたのは康樹だ。
「誰のせいだ!」
清司も、ティッシュでコーヒーを拭いながら反論する。
二人のおかげでどれだけ自分が神経をすり減らしたか。
「お前ら、あの店がどれだけ——」
そう言いかけた所で
「ところでさ。太壱と清司は玉と契約したの?」
清司の言葉に被せるように、充晶が質問してきた。
言いかけた言葉を引っ込め、太壱と顔を見合わせる。
「契約はしなかった」
落ち着いてそう答えたのは太壱だ。
太壱はため息をつくと、二人に向かって真剣な面持ちで話した。
「二人とも契約したって言ったよな?それはきちんと内容を確認して納得した上でしたのか?」
思わず顔を見合わせる康樹と充晶。
「えっと……」
そう口ごもったのは康樹だ。
「もちろん。僕はちゃんと確認したよ。こういうことは細かいところまできちんと確認しないとね!」
対して、充晶は胸を張って、どこか自慢げだ。
康樹と充晶の返答に、太壱はウンウンと頷きながら次の質問をする。
「そうか。確認したにしろしないにしろ、二人が契約した理由は?」
この質問には、二人がほぼ同時に答えた。
「「面白そうだから!」」
「「ばかやろう!」」
それまで黙っていた清司と、質問をした太壱が、流れるようにコンマ数秒で同時に突っ込んだ。
太壱は天を仰ぎ、清司はこめかみを抑え、それぞれに深いため息をつく。
そうだ。
理由など考えるまでもない。
この二人、康樹と充晶は、中学二年から友達付き合いが始まった当初から、心霊の類に興味津々で、常々清司と太壱に幽霊や化け物の類が見えることが羨ましい、自分たちにもそういったものに関わる術は無いのかとせがんでいたのだ。
もちろん、そんな方法を知るはずもない清司と太壱は、二人の話をまともに相手にすることは無かったのだが、よもやこの様な形で特殊能力を手にするとは思ってもみない。
が、理由だけは予想通りすぎて、二人はある種の倦怠感を覚えていた。




